あなたと共に

はなおくら

文字の大きさ
上 下
50 / 60

50

しおりを挟む
 アマリアの顔に手を添えて、顔を顰めるイワンがいた。

 イワンごめんなさい…。

 アマリアは心の中で謝った。そして彼の顔を見つめたまま、

「カナレアが…貴方との事を話したら…屋敷を出ると…。」

「なんだって…。とりあえずカナレアの部屋に行こう。」

 イワンはそういうとアマリアを立たせて手と腰に自分の手を添えて部屋へと向かった。

 焦るイワンに申し訳ないと思いながらもアマリアは笑うのを耐えていた。

 部屋の前につき、イワンが声をかけた。

「カナレア…?」

「入らないでっ‼︎」

 そう言われたイワンは戸を開ける手を止めてカナレアに声をかけた。

「君が怒るのは最もだ。今まで黙っていてすまなかった…。」

「………。」

 返事が返ってこない。アマリアにはどういう状況がわかっているが、イワンは焦っていた。

「僕は君が娘で本当に嬉しく思ったんだ。それに君のお母さんを見つけた時、君がいた時どれほど嬉しかったか…後悔してもしたりないほど…。今度こそは君たちを幸せにしたい。どうか顔を見せてくれないか?」

 懇願するイワンの前にドアがガチャリと空いた。

 目の前には笑いを堪えて鼻を膨らませているカナレアがいた。

 イワンはカナレアの姿を見た瞬間全て分かったのだろう。そしてカナレアの格好を見て吹き出して笑った。

「ハハハハハッ!カナレア、なんて格好をしてるんだ。お腹が痛いよ。」

 笑うイワンに、アマリアとカナレアはびっくりした。
 彼がこんなにお腹を抱えて笑う姿はアマリアでも見た事なかった。

 まぁイワンが笑うのも無理はない。カナレアの格好はおかしかった。

 自分よりも大きな茶色のリュックを抱えて、頭には黄緑色のスカーフを巻いている。

 こんな姿はどこにいても見かけない。

 イワンに釣られてアマリアも笑い声を上げた。すると近くにいた侍女も…控えていた家令も声を殺して笑っている。

 そんな光景にカナレアも声をあげて笑った。

「ふふふっ…お母様!作戦は大成功ね!」

「ええ、そうね。」

 アマリアがそう返事を返すとイワンは言った。

「君もグルだったのか…。」

 そう言ってイワンはしてやられたというような顔をした。

「お父様!隠し事は嫌だけど、この話を聞いて嬉しかったのよ!どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」

「…カナレア?…今なんて…。」

 イワンは耳を疑った。娘にそう言って欲しかったが聞くことは難しいと思っていた単語を娘が言ってくれている。

「ふふふっ!お父様‼︎」

 カナレアは笑って言った。

「ああ…カナレア…君は私の娘だ…ありがとう…ありがとう…。」

 イワンは泣いて喜び、この日は屋敷中幸せに包まれていった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

処理中です...