月夜の恋

はなおくら

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 アビーは、ケロウに出すティーセットを運んでいた。

 前日、自分の腰に手を回したケロウとの事が頭に流れてくると、頬が真っ赤になり落ち着かない。

「旦那様にお会いして大丈夫かしら…。


 ソワソワしながら、ケロウの仕事部屋へと向かう。

 コンコンっとアビーが戸を叩くと、中から声がしたので中に入る。

「失礼します。お茶をお持ちしました。」

「あぁ…すまない。」

 そう言って、背伸びをしているケロウの隣でアビーが、カップにお茶を注いでいる。

 そして、机にカップをおいた。手を下げるアビーの手を、ケロウはそっと触れた。

 アビーは、驚きビクッとしたが、ケロウは離さない。ますます赤くなってしまう。

「ありがとう…アビー………。」

 ケロウは、そう言ってアビーを見つめる。

 アビーも目が離せなかった。愛おしいものを、見るような目で見つめられ愛されているような錯覚に陥る。

 胸がトクトクと脈打つ音が聞こえる。するとケロウは、立ち上がりアビーを引き寄せ抱きしめた。

「……アビー…。」

 アビーは、夢見心地になりうっとりとしてしまう。

 ケロウもまた、アビーを抱き寄せた時、髪に鼻を近づけ離せなずにいた。

 どれくらいそうしていたか、コンコンっと戸がなる。

 はっとして、アビーがケロウの胸を押した。

「いけません…ケロウ様…。」

 アビーは、恥ずかしくて顔を背ける。

 ケロウは、愛おしい気持ちを一度出してしまうと抑えられずにいたが、一息呼吸をしてアビーから離れた。

「すまない。驚かせたね…。」

 そう言ってアビーの頭を撫でた。

 すると、”失礼します”と声がしてハンスが入ってきた。

 ハンスは、2人の姿に全てを理解したが、何も無かったかのように、礼をした。

 アビーはお辞儀をすると、急いで部屋を出た。

 アビーは今、薔薇の庭園に来ていた。というのも、ケロウの先程の行動に驚いていた。

(旦那様はいったい何を考えていらっしゃるのだろう…。カーラ様を愛しているのではないの?)

 そう思いはしたが、ケロウとあんな近くで、見つめ合い抱き寄せられると勘違いをしてしまいそうになる。

(だめ…彼は使用人を大切に思っているだけ…)

 そう思って納得した。

 それから、ケロウはアビーを見かけるとやたらと手に触れたがったり、抱き寄せて頭を撫でたりと過剰な程になっていた。

 ここまで来ると、アビーも勘違いと思い込む事が難しくなってくる。

 ある日アビーは、ケロウに言った。

「旦那様…私のような使用人を大切にしていただいて嬉しく思いますが…もう少し距離を置いていただけると…。」

 遠慮気味にアビーが伝えると、ケロウは寂しそうな顔をした。

「…嫌なのか?」

 そう言われると、アビーもはっきり断れない。

「嫌では…ないのですが…。」

 ごもごもと話すと、ケロウは気にした様子もなく言った。

「ならよかった‼︎アビー…。」

  アビーを引き寄せて、抱きしめる。アビーもまたこの抱擁に慣れてしまい仕方ないとおとなしくしていた。

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