再びあなたに会えて…

はなおくら

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 軽やかなステップにリードしてもらいながら踊る姿は、他のご令嬢たちからはしてみれば羨ましいのかもしれないが、私からしてみれば、なんの意味もない。

 微笑む王太子を見つめて、心を無くした様に踊り続けた。

 ダンスが終わった頃、王太子の下に臣下が何やら耳打ちすると苛立たしげな顔をした後私に言った。

「すぐ戻る。」

「はい。」

 王太子が消えていくと私は会場を抜けて個室の休憩室へと入った。

 ここであれば誰にも見られることもない。

 一人休息していると、扉の前で声が掛かった。

「失礼致します。こちらでお過ごしの方にフルーツをお持ちしました。」

 王太子の計らいだろうかと思い私は、扉を開けた。

 その瞬間、男が瞬時に部屋に入ってきた。

 その男は扉の鍵を閉める。

 慌てて声を上げようとした瞬間、口を押さえられた。

 驚いていたが、落ち着いて相手の顔を見た瞬間動揺した。

「ジョセフ様…。」

 そう告げるとジョセフ様はにこりと笑った。

「突然申し訳ありません。少し所要がございまして、付き合っていただけますか?」

 まるで初対面にかける様な話し方でそう問いかけられた。

「はい…。」

 どう帰していいかわからず手短に返事をしてソファに座り直した。

 その場に沈黙が広がる。

 出ている音といえば、お茶を飲む時の音のみだった。

 目の前でお茶を飲むジョセフ様を見て、懐かしさを感じた。

 こうして彼とお茶を飲み笑い合って過ごしていた日々が涙が出そうな程懐かしく感じる。

 彼がこちらを見た瞬間、私は目を逸らした。

 心のうちが知られてしまいそうで…。

「こんなとこにご夫人が一人なんて…もったいないですよ。」

 彼は微笑んだまま私にそう告げる。

 彼の瞳から優しい暖かな視線を感じる。

 どうして…。

 私から別れを告げたのに、なぜそんな優しい眼差しを向けるのかわからなかった。

「そんなことありません…。私はこれで…。」

 立ち上がり部屋を出ようとした時。

「待って。」

 振り向くと彼が近くに立っていた。

 ジョセフ様は私の髪を撫で、流れる様に頬を撫でた。

 そして私の顔を見つめて顔が近づいてきた。

 思わず受け入れてしまいそうになり、慌てて顔を逸らした。

「…申し訳ありません、人を待たせているので…。」

 そう言って私は逃げる様に部屋を出ていった。

 背後からいつまでもこちらを見つめる彼の視線に知らぬふりをしながら…。

 会場に戻ると、王太子が私を探していた。

 私を見つけるなり、その場で抱きしめた。

 すると周りの視線は尚冷たいものに変わっていく。

「探したよ…ジェーン…。」

 王太子の抱擁が強くなった。
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