再びあなたに会えて…

はなおくら

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 その温もりに触れた瞬間、子供の様に泣いてしまった。

「王妃様…私は…帰りたいですっ…!ジョセフ様やジョナサンが待っている家に…。」

 私は失礼にも王妃様の足元で嗚咽を上げながら泣いていた。

 どれくらい時間が経っただろうか。

 王妃様は、私が落ち着くまでひたすら背中を撫でてくれた。

 私は立ち上がりお辞儀をすると、王妃様は口を開いた。

「もう心配する事はありません。王太子も目が覚めるでしょう…。」

「王妃様…?」

 その時王妃様は少し寂しげな眼差しを浮かべたまま、その日は帰って行った。

 あれから何も変わらず、時が流れている。

 今目の前で王太子殿下はにこやかに、ケーキを頬張っている。

 彼の顔を見つめれば、彼は嬉しそうに笑い返してくる。

 王太子は私を大切にしてくれるが、私と言う人間を見てはいない様に感じる。

 そう感じるからこそ、心を開く事もまともに話すこともできない。

 なんとも言えない心地だった。

 そんなある日、王太子が苛立たしげに、私の部屋に入ってきた。

「どうされたのですか?」

 私がそう問いかけると王太子は言った。

「母上から君を夜会に参加させる様に言われた。」

 私はこれは王妃様からの計らいの様に感じた。

「…そう…ですか…。」

 なるべく感情を出さない様にしている。

 幸い王太子は何も感じなかった様だった。

 それからあっという間にドレスや装飾品等を決められて準備は整い夜会当日となった。

 離宮を出る前に王太子は私に言った。

「今日何があっても僕の側を離れない様にしてくれ。それにあの約束を忘れてはいないね…?」

「………はい、わかっています…。」

 王太子に圧倒されて、私は頷くしかなかった。

 夜会の会場に入る頃には、王太子にがっつりと腕を絡められている。

 私も彼に夢中であるかの様に振る舞わなければならない。

 会場に入れば、誰もが何も言わないが、私に冷たい視線を投げている。

 そんな視線気にもならないが、一人私に向けている視線が誰なのかわかった。

 …ジョセフ様。

 彼と直に目は合っていないが、彼がまっすぐな瞳でこちらを見つめている事はわかった。

 彼からの視線が辛くて、涙を堪える。

 本当は彼の胸に飛び込みたい…でもそんな事してしまえばどうなるか…。

 考えただけでも苦しいものがあった。

 王太子に連れられて、王様と王妃様の近くの椅子に腰掛ける。

 王様も王妃様も前を見据えたままこちらを見る事はなかった。

 その中に敵意を感じることも無かった。

音楽が会場に流れ出したと同時に王太子様と中央へ行きダンスを始めた。
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