再びあなたに会えて…

はなおくら

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 彼が私の肩に頭を預けて瞳を閉じている。

 どこか不安げな彼にただ寄り添うことしかできなかった。

 自分が離れてしまった事で彼がここまで壊れてしまうなんて、夢にも思わなかった。

 どうすればいいのか…。

 考えつくのはありきたりなことばかりでうまくいかない。

 でも何か起こしてみようと考え、昔2人で過ごした思い出の場所に行く事にした。

 数日後、ジョセフ様と共に2人で密会していた奥深くの庭園にお昼に食べる様にと持ってきたカゴを持ってきた。

 シートを引いて、2人で静かな空間に胸を馳せた。

 初めて会ったのもここだったと、昔のことが頭に浮かんだ。

 あの時は慣れない使用人の仕事にどうしようもなくなりここで涙を流していた。

 誰も来ないと思っていた場所にジョセフ様は現れたのだ。

 彼は凛としながらも笑顔で私の話を聞いてくれた。

 それからはしばらくは彼の正体も知らずに気心知れた仲の様にたくさん話をした。

 私の知らないことを馬鹿にすることもなく。

 そんな昔の事を思い出して、ふと横を見ると彼は優しい風を穏やかな表情で見ていた。

 私は彼の肩に頭を預けた。

「ここに来るのも懐かしいですね…。」

「そうだな…ここは何も変わってない。」

 彼は今何を思っているのだろうか。

「ジェーン…君は…。」

「……どうかしましたか?」

 彼が何か言いかけたのを辞めて、切なそうに前を向いている。

 ここにきてから彼と目が合ってない様な気がする。

「何を見てるのですか?」

「………君がいなくなった日…。」

「えっ……。」

 ジョセフ様が呟いた何気ない一言に、動揺した。

 彼の瞳を見ると何か思い出したと言わんばかりの表情だった。

「君はなぜ…僕の元を離れたのかずっと知りたかった…。僕に呆れてしまったのかと…。」

 目から涙を流しながら瞳孔が空いたままジョセフ様はそう言った。

 私は思わず彼の身体を抱きしめた。

「胸が張り裂けそうでした…。あなたの元を去らなければならないと…離れてからもあなたを忘れることなんてできなかった…すごく寂しく虚しい日々でした。」

「ジェーン…っ…!君は心変わりした訳ではないんだね?」

 私は頷いた。

 うちに秘めていたものが溢れ出して、何も言えなくなる。

「僕も君が出ていって、何もかもどうでもいい様な、真っ暗闇を彷徨う心地だった。これからはずっと一緒にいてほしい。」

 まっすぐと見つめる視線に、ようやく2人で居られるんだと実感が湧いた。

 私は涙を止められないままジョセフ様の背中に勢いよく手を回した。

 彼も私の髪を撫でて再会を喜んでくれた。

 ジョセフ様が戻ってきたのだと分かった。


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