花嫁の勘案

はなおくら

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「警告したはずだ…。昔馴染みの縁だからこそこのまま去れ。」

 ヴォルス様の言葉に彼女は傷ついた顔をする。

「ヴォル…ひどいわ…っ!」

「君とは身分が違うんだ…もう聞き分けのない子供でもない…今後愛称で呼ぶようなことがあれば容赦はしない…。」

 そう言ってヴォルス様は彼女の手首を握った手を離した。

「連れて行け…。」

 ヴォルス様が使用人にそう告げると、彼女は絶望的な顔を浮かべて屋敷を出された。

 さっきまでの怒りが嘘のように治った。

 ヴォルス様のおかげだ。

 彼女のことを思うと、許せないようなやるせない気持ちになるが、もう会うこともない。

 そんな予感がしている。

 もう忘れてしまおう。

 わたしはヴォルス様の顔を見つめた。

「申し訳ありません…ご心配をおかけしました。」

「いや、わたしこそ遅くなってしまった。」

 わたしを心配する彼に、笑ってしまう。

「ナタリア…リア。」

「っ…!…ヴォルス様…?」

 彼の顔を見るとヴォルス様は照れくさそうに頭を掻いた。

「いやか…?」

 嫌なわけがない、むしろ夢のようだった。

 わたしは首を振った。

「突然で驚いただけです。すごく嬉しいです…私は…誰もいないとこならヴォンとお呼びしても?」

 そういうと、ヴォルス様…ヴォンは嬉しそうに頷いた。

「あぁ…リア…愛してる。」

「私もです。」

 そして、私たちは抱きしめあった。

 ニア様との一件で、ヴォンは孤児院の権限を共同で勤めていたバイデル伯爵に全てのことを譲渡した。

 それから私達が孤児院に訪れる事ない。

 せっかく子供達とも仲良くなったが、私達が行けばニア様の帰る場所がなくなる。

 そう思ってのことだった。

「よかったのですか?」

 改めて彼の選択に質問すると、ヴォンはすっきりした顔で頷いた。

「少し残念だが、私にはリアがいる。君がいるならまた違うところで新しい事を始めても苦じゃないよ。」

 そう、私たちはまた違う孤児院に支援を行っている。

 彼と一から始める初めてのことだ。

 お互いの意見を語り合いながら過ごす時間は格別だった。

「…私も貴方となら何もの怖いことないもの!」

 そう言って彼に抱きつくと、彼はわたしにキスを落とした。

「愛してるよ…リア…。」

「愛してます、ヴォン。」

 私たちはなお一層お互いの絆が深まった事を目に見えて実感していたのだった。

 初めは本に憧れていたことがこんなふうになるなんて夢にも思わなかった。

 今は憧れではない本当の愛をここに感じている。

 そんな幸せの中、私たちは新しく始めた支援の関係で、たくさんの招待状が届くようになった。

 その仕分けをしつつ準備に追われていた。
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