花嫁の勘案

39

　ひどく冷たい声色の彼を前に、少しニア様に同情してしまう。

　ドア越しでも動揺していることが伺える。

「…わかったわ…。また…明日来ます…。」

　少し悲しげな声色でそういうと、彼女は離れていく気配を感じた。

「ヴォルス様…いいんですか？」

　わたしにとっては複雑な気持ちだけど、幼少からの幼馴染を突き放すのは彼にとっていいことなのかわからない。

「君以外を優先するなんて、今までがおかしかったんだ。…本当にすまなかった。」

「気にしないでください。こうして一緒いてくださってますから…気持ちは十分伝わってます。」

「ありがとう。」

　そう言って私たちはお互いに寄り添いあって眠った。

　次の日、身支度を整えたわたしの頭をヴォルス様は撫でた。

「すまないな…すぐに終わらせてくる。」

「はい。ニア様も悪い方ではないはずですから…。」

　ただ彼に恋をしただけ。

　でもだからと言って騙されたことに笑って許す事はできない。

　今は彼が彼女の元へ行くことに何の不安もなかった。

　彼の部屋で本を読んで過ごす。

　どれくらいそうしていたか、ドアの音が鳴ると執事が気まずそうに入ってきた。

「奥様…ニア様が最後にお会いしたいとおっしゃっております。」

「ニア様が…？」

　ヴォルス様との話は終わったのだろうか、突然の訪問に驚いたものの彼女会えるのは最後のような気がしていた。

「今行きます。」

　わたしの部屋の応接室に案内して彼女の元へ向かった。

　彼女は俯きながら目元が赤くなっている。

　そんな彼女を見つめて今までのことが脳裏に浮かぶ。

　勘違いとはいえ、彼の愛を独占している彼女が本当は憎らしくて仕方なかった。

　彼女の嘘を鵜呑みにしてあやうく彼と離れるところだった。

「ご用があると聞きました。」

「………。」

　彼女はしばらく黙っていたが、目に涙を浮かべながら言った。

「わたしは…ヴォルを本当に愛してました…彼が貴方を愛してるとわかっても…。」

「………。」

　彼女の身勝手さに腹が立つ。

　幼馴染とはいえ彼女に振り回されていた自分が情けない。

「悔しかった…貴方と結婚して変わっていく彼が…わたしだけの彼だったのにっ‼︎」

　彼女は控えめな態度から突然怒りを露わにした。

「さっきから貴方は何を言ってる！自分勝手にも程があるわ！」

　そう伝えると、彼女はわたしに手を振りかざした。

　わたしは思わず身を縮こませて目を閉じたが、一向に降りてくることがなかった。

　恐る恐る目を開けると、目の前には彼女を冷たい目で見下ろして、手を掴む彼が立っていた。