花嫁の勘案

はなおくら

文字の大きさ
上 下
32 / 45

32

しおりを挟む
 彼との契約で私が娼館に迎えに行き、屋敷に居ついてもらうことになった。

 彼の名前はアルといった。

 初日、昼前に娼館に行き隠れる様に自室で彼と過ごした。

 アルも心得た様に私の隣で本を読んでいる。

 誰か入ってきた時には私にぴたりとくっついて役を演じてくれている。

「夫人、何故こんなことを?しかも家の中に入れてまで…。」

 アルの問いかけにわたしは遠くを見つめる。

「……そうですね…。間違えてしまったから…。」

 そう呟くとアルは何も言わずに本を読み出した。

 その時扉の外で怒声が聞こえた。

 アルはわたしにピッタリとくっついたかと思うとわたしを膝の上に乗せた。

「背中に手を回して下さい。」

「…えぇ…。」

 遠慮気味に手を回すと腰をぐいっと引かれてなお密着する。

「これで僕の役目は終わりそうですね…。」

「え…?」

 ボソリと呟くアルに聞き返そうとした瞬間扉が勢いよく開いた。

 背中に越しでただならぬ雰囲気を感じる。

「…離れろっ‼︎」

 入ってきたのはヴォルス様だった。

 ヴォルス様はアルの手を振り払うとわたしの身体を抱える様に引き剥がした。

「何をするんですかっ!」

 あっけに取られたものの慌てて取り繕って逢瀬を邪魔された怒りを彼にぶつけた。

 アルの元に戻ろうとしたが、強い力で押さえつけられる。

「お前はもう用無しだ…外で金を用意してるから受け取ったら二度とナタリアに関わるなっ!」

 そういうとアルはふっと笑って何も言わずに頷いた。

 わたしは訳が分からずアルを引き止めた。

「アルっ!」

 ヴォルス様は気に入らなそうに彼から遠ざけようとしたが、私は依頼したものとして放っては置けず抵抗した。

 そんなやりとりを見ていた彼は全てをわかっているかの様に頭を下げた。

「楽しいひとときに感謝しています。ではこれにて…。」

 そう教えられたのか深々と礼をするとその場から立ち去ってしまう。

 帰って彼に悪いことをしてしまった罪悪感が残ってしまう。

 すでにいなくなった彼の方を見つめていると顔を強引に後ろに振り向かされた。

「…どういうつもりだ…男を家に入れて…肌まで触れさせて…。」

 怒りのこもった瞳で私を見つめるや否や、強引に唇がぶつかる。

「なにっ…をっ…!」

 のけぞろうとしたが頭を押さえつけられてしまう。

 抵抗したいのに嬉しい気持ちもあってもどかしい。

 彼とキスをするのも久しぶりな為余計にだ。

 私はいつの間にか身体の力が抜けて、彼の首に手を回していた。

 その瞬間荒々しかったキスも優しくゆっくりとなり、気持ちよさに頭が麻痺を起こしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる
恋愛
 シエルは20歳。父ルドルフはセルベーラ国の国王の弟だ。17歳の時に婚約するが誤解を受けて婚約破棄された。以来結婚になど目もくれず父の仕事を手伝って来た。 ところが2か月前国王が急死してしまう。国王の息子はまだ12歳でシエルの父が急きょ国王の代理をすることになる。ここ数年天候不順が続いてセルベーラ国の食糧事情は危うかった。 そこで隣国のオーランド国から作物を輸入する取り決めをする。だが、オーランド国の皇帝は無類の女好きで王族の女性を一人側妃に迎えたいと申し出た。 国王にも王女は3人ほどいたのだが、こちらもまだ一番上が14歳。とても側妃になど行かせられないとシエルに白羽の矢が立った。シエルは国のためならと思い腰を上げる。 そこに護衛兵として同行を申し出た騎士団に所属するボルク。彼は小さいころからの知り合いで仲のいい友達でもあった。互いに気心が知れた中でシエルは彼の事を好いていた。 彼には面白い癖があってイライラしたり怒ると親指と人差し指を擦り合わせる。うれしいと親指と中指を擦り合わせ、照れたり、言いにくい事があるときは親指と薬指を擦り合わせるのだ。だからボルクが怒っているとすぐにわかる。 そんな彼がシエルに同行したいと申し出た時彼は怒っていた。それはこんな話に怒っていたのだった。そして同行できる事になると喜んだ。シエルの心は一瞬にしてざわめく。 隣国の例え側妃といえども皇帝の妻となる身の自分がこんな気持ちになってはいけないと自分を叱咤するが道中色々なことが起こるうちにふたりは仲は急接近していく…  この話は全てフィクションです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする

真矢すみれ
恋愛
祖父の懇願によって、5歳で家業の総合商社を継ぐことを決めた牧村幹人(35歳)。 「せめて結婚相手だけは自由に選ばせてあげたい」という母の気遣いで、社長となった今でも『運命の相手』との出会いを求めて決まった相手を作らずにいた。 そんなある日、幹人は街角で出会い頭にぶつかった相手に一目惚れをする。 幹人に一目惚れされた若園響子(29歳)。 脳外科医として忙しく働く響子は、仕事に追われて恋愛してる暇もなく、嫁に行くより嫁が欲しいくらいの毎日を送っていた。 女子力低め、生活力ギリギリ人間キープの響子は幹人の猛烈アタックに押され気味で……。 ※「12年目の恋物語」のスピンオフ作品です。(単独で問題なく読めます)

散りきらない愛に抱かれて

泉野ジュール
恋愛
 傷心の放浪からひと月ぶりに屋敷へ帰ってきたウィンドハースト伯爵ゴードンは一通の手紙を受け取る。 「君は思う存分、奥方を傷つけただろう。これがわたしの叶わぬ愛への復讐だったとも知らずに──」 不貞の疑いをかけ残酷に傷つけ抱きつぶした妻・オフェーリアは無実だった。しかし、心身ともに深く傷を負ったオフェーリアはすでにゴードンの元を去り、行方をくらましていた。 ゴードンは再び彼女を見つけ、愛を取り戻すことができるのか。

続・上司に恋していいですか?

茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。 会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。 ☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。 「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...