花嫁の勘案

はなおくら

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 それからもヴォルス様は夜だけ添い寝をしにやってくる。

 以前の様に身体に触れてくることはない。

 どちらも話すことなくそんな時間を過ごしていた。

 ある日、突然ニア様がやってきた。

「突然ごめんなさい…。」

 彼女の姿は正直見たくなかった。

 しかし無下にもできず作り笑いを浮かべて彼女にお茶を差し出した。

 終始暗い顔をしている彼女が俯きながら口を開いた。

「…もう知ってると思いますが…私達は想いあっているんです…。」

「………。」

 やはりそうだったのか。

 夫婦で過ごしてきた日常に何の意味もなかったのだと感じた。

「ナタリア様には悪いと思っています。でもお願いです!…ヴォルを解放してあげてください…。」

「………。」

 彼女に返せる言葉が見つからず黙って聞くしかなかった。

 そんな私に彼女は続けた。

「ヴォルは…優しいから…あなたと離れることができないんです…政略の事も悩んでいました。家同士のことだから簡単に別れられないとっ…‼︎」

「……っ…!」

 そんなことを話していたのかと思うと苛立ちというのか悲しみというのかわからない感情がごちゃ混ぜになってくる。

 目の前では泣きじゃくるニア様を見てわたしはため息を吐いた。

「話しはわかりました。とりあえず1人にしてください。」

 そう言って私は彼女に帰ってもらった。

 誰もいない静かな部屋の中、目から大粒の涙が一つ落ちたのがわかった。

 怒ればいいのか、戸惑うことしかできない。

 彼は私と別れられないから今まで優しいふりをしていたのだ。

 それなら…禁忌を犯せばいい。

 後腐れない方法で彼から離れるにはと考えたのが娼館だった。

 女性向けの娼館には、貴婦人達がお忍びで出入りしている。

 わたしは早速手紙を送った。

 あとは返事が来るのを待つだけだ。

「ナタリア…ちゅっ…。」

 ベッドの上でヴォルスがわたしのうなじにキスをする。

 彼の体温を感じるほど悲しさが募っていった。

 いやと首を振れば不機嫌な態度になる。

 しかし今はそんな彼を見ても何とも思えなくなっていた。

 娼館から数日後返事が来た。

 突然行くのも気が引けた為、外で会うことになった。

 個人で気軽に過ごせる貴族御用達のカフェに私は呼んでいた。

 お茶を飲みながら過ごしていると、足音が聞こえてきた。

 顔を上げれば、金髪金眼の顔の整った艶やかな男性が入ってきた。

 彼は慣れた動作で私の手の甲にキスをした。

「夫人に選んでいただき光栄です。」

「座って下さい…。」

 彼は私の向かいに座り笑みを浮かべた。

「あなたにお願いしたいのは、何もせず常に私の隣にいて欲しいんです。」
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