花嫁の勘案

25

「なるほど…僕はかけっこやちゃんばらといった遊びをよくしてました。貧しかったので身一つで遊べる事ばかりでしたから。」

「そうなのですね。」

　育ちが違えば遊ぶ内容も違うのだとわたしは思った。

「ナタリア様さえ良ければ、子供の頃に戻った気持ちになって僕がしていた遊びをやってみませんか？」

「ええ…。」

　少し迷ったが会場を見るとヴォルス様もわたしのことを気にしてない様子だった。

　それに少し興味があった為わたしは彼について行くことにした。

　彼について行くと、大きな庭の一部に広いスペースがあった。

　周りは高い植木に覆われている為人目も気にする必要はない様なところだった。

「ここで何をするの？」

「かけっこはどうですか？」

「かけっこ…？」

　突然の事に驚いた。

　しかし走り回ると言ってもこんな格好な上、靴もヒールだから無理だ。

「でも…この格好では…。」

「そうですね。夫人靴を脱いでください。ここは柔らかい芝生ですから脱いでも怪我はしません。」

「んー…。」

　正直淑女としてどうなのかと思ったが、なかなか体験できない事だとわたしは高い靴を脱ぎ素足を芝生に乗せた。

　驚いた。

　素足で芝生の上に立つと柔らかな感覚と芝生の草の気持ちよさを感じられた。

「気持ちいい…。」

「そうでしょう？大人になると忘れていることが多いんですよ。」

「こんな感覚初めてだわ…。」

　わたしがそう呟くと、ジャンさんは笑って両腕を回した。

「僕が追いかけますから、ナタリア様は逃げてください。」

「…わかりました。」

　返事はしたはいいもののどうすればいいかわからず小走りで走るとすぐに捕まってしまう。

「これではすぐ捕まりますよ。もっと早く逃げてください。」

「やってみます。」

　戸惑いながらも、必死に走った。

　後ろからジャンさんが追いかけてくる。

　戸惑うのもいつの間にか逃げる楽しさを知ってわたしは声を上げて笑った。

　私を追いかけるジャンさんをみながらかけっことはこんなに面白いのだと初めて知った。

　と言ってもジャンさんにあっという間に捕まってしまう。

「はぁ…はぁ…ジャンさんは…早いですね。」

　荒い息をする私の隣でジャンさんは、平気な顔で笑っている。

　きっと彼を追いかけても追いつくことはできないだろうと思った。

「どうですか？頭の中が空っぽになって楽しいでしょう。」

「えぇ、こんなに笑ったのは初めてかもしれません。」

「それはよかった。では…。」

　そう言って悪い顔をしたジャンさんはわたしを追いかけてくる。

　わたしは声を上げて彼から逃げるのだった。