花嫁の勘案

はなおくら

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「言ってあげてください!」

「……すまない…。」

 わたしの声にハッとしたヴォルス様は、気まずそうに一言謝るとニア様に駆け寄った。

 立ち上がりその後ろをついていった。

 項垂れて座り込むニア様にヴォルス様は声をかけた。

「ニア!どうしたんだ⁉︎」

 顔を上げたニア様の言葉にわたしは衝撃を受けた。

「ヴォル…。私…騙されたの…。」

 その瞬間ニア様は気絶した様に眠った。

 ヴォルス様が呼びかけても返事はない。

 私たちはニア様を連れ帰ることになった。

 ニア様を横抱きにして、部屋へと連れていくヴォルス様の背中を見つめていたが、すぐに私は1人応接室の暖炉の火を見つめていた。

「ナタリア…。」

 顔を上げればヴォルス様が悲しそうな顔でこちらを見るや否やわたしを抱きしめた。

「すまなかった…。何もかも台無しだな…。」

「いえ…仕方ないことですから…。ニア様は大丈夫ですか?…そばにいてあげてください…。」

「もう大丈夫だから…いいんだ…。」

 ヴォルス様はそれから何かに縋るかの様にわたしの体を抱きしめて離さなかった。

 でも今のわたしには何も響くものがなかった。

 彼に抱きしめられながら心ここに在らずと言った様に何も感じることはなかった。

 数日が経ちニア様がようやく目が覚めた。

 私達が駆けつけると、わたしの隣にいたヴォルス様に抱きついた。

 病み上がりの人を引き剥がす事はできないのか、ヴォルス様はわたしに気遣わしげな目を向ける。

 その様子に私は笑ってみせるしかなかった。

「ヴォル…ヴォル…‼︎」

 やはり聞き間違いではなかった。

 ヴォルス様の愛称を呼ぶと言う事は、2人は愛し合っているのだと伺える。

 私は、静かに退室しようとしたがヴォルス様に呼び止められた。

「ナタリア、止まるんだ。」

 ヴォルスさまはニア様を引き剥がすと、彼女の目を見て言った。

「ニア、こう言う軽はずみな事はやめてくれ。」

 突き放す様なセリフに、ニア様は泣き出した。

「ひどい…どうしてそんなことが言えるの?私…わたしっ…‼︎」

 ニア様は泣きすぎて引き付けを起こしてしまった。

「ヴォルス様…。」

 彼の名前を呼べば、ヴォルス様はため息をついてニア様の肩に触れた。

「悪かった…落ち着いてくれ。」

 わたしは宥めるヴォルス様とニア様も尻目に自分の部屋に戻ったのだった。

 部屋に戻ると、体がどっと疲れた気がする。

 それにやはりヴォルス様とニア様の間には何かあったのかもしれない。

 自分は2人の邪魔をしてしまっているのだろうか。

 やはり夫婦として愛を深めるなんて、無理なのかもしれない。



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