花嫁の勘案

はなおくら

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「音楽に興味はないか?」

 ヴォルス様との夕食の席、突然問いかけられた。

「音楽は好きです。」

 どうしたのかと思いつつ返事をすると、ヴォルス様は微笑みながら口を開いた。

「いつも執務終われて出かけたことがなかったと思ってな。どうだろう?」

 初めてのお出かけにわたしは舞い上がった。

「行きたいです!」

「決まりだな。明日一緒に行こう。」

「はい!」

 私はヴォルス様とのデートに胸が弾んだ。

 どんな服を着ようか、侍女と相談しながら明日が来るのを今か今かと楽しみにしていた。

 翌日、わたしは心躍る気持ちを落ち着かせながらヴォルス様と会場に入った。

 個人で見れる席にヴォルス様と並んで座った。

 上から見る会場には大きな楽器が、何種類と並んでいる。

「とても大きい楽器ですね。どんな演奏が聴けるのかしら…。」

「ナタリア…。」

 名前を呼ばれて振り向くと、唇にぬくもりを感じた。

 気づけばヴォルス様にキスされている。

 私はゆっくりと目を瞑り、彼を感じた。

 すると、したから大きな拍手が鳴り響く。

 気づけば楽器を演奏する奏者達が、座っていた。

 赤くなる頬を誤魔化しながら、美しく奏でられる音楽に耳を傾けた。

 その曲はとある有名な女性の作曲家が体験した恋の歌だった。

 追いかけても届かない想いが、女性歌手によって紡がれていく。

 そんな光景が自分と重なった気がして、涙が出てくる。

 私も彼に優しくしてもらっているのに、叶わない思いのまま終わってしまうのかと思ってしまい涙が止まらない。

 女性歌手が歌い上げると、回り拍手を送り立ち上がっていた。

 私も立ちあがろうとしたが立てず、ふと横を見ると私の手に彼は手を添えておいていた。

 いつからかわからないが、彼がわたしを思ってくれているのだと、嬉しくて微笑む彼に笑った。

 「素敵でしたね。感動で涙が止まりませんでした。」

「気に入ってもらえてよかったよ。また2人でこよう。」

「はい。」

 私たちは手を繋いだまま、会場を出て馬車に向かおうとした時だった。

 横を見ると暗い路地に座り込む女性がいた。

 目を凝らしてみて、わたしは驚いた。

 ニア様だった。

 どうしたのかと駆け寄ろうとした時だった。

 わたしよりも早くに気づいたヴォルス様の手が突き放される様に離れたと思った瞬間、彼女に駆け寄ろうとする勢いで彼の肩にあたり私はつまづいた。

 それに気づいたヴォルス様は驚いた様子で私を凝視して固まってしまった。

 私もいきなりの彼の対応に驚いて見つめあった形になったが、ハッとニア様の事を思い出して口を開いた。
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