花嫁の勘案

18

　それからヴォルス様の態度は、どんどん変わっていった。

　そっけなかった様子から、今では私の事を気にかけてくれている。

　そんな様子に私も嬉しくなって、彼を見つめて微笑んだ。

　今も2人で手を繋ぎながら、庭園を散歩して幸せを噛み締めていた。

　こんな時間がいつまでも続く様願った。

　のも束の間、私はショックな事柄に遭遇した。

　いつもの様にヴォルス様と養護施設を手伝っていた時だった。

　女の子の手を握り施設の裏手に洗濯物を取りに行こうとした時だった。

　目の前では、赤いルビーを思わせる様な艶やかな長い髪をした女性が、ヴォルス様に抱きついていた。

　わたしは咄嗟に女の子と建物の後ろに隠れた。

　どういう事なのだろうか、さっきの光景を思い返せばヴォルス様も彼女の手を回している様子だった。

　戸惑っているわたしに女の子は無邪気に言った。

「今の人、ニアお姉ちゃんだよ！」

「…ニア…お姉…ちゃん…？」

　動揺するわたしに気づかない女の子はスラスラと話していく。

「うん！ニアお姉ちゃんもここの園出身なんだよ！」

「そっか…。」

　女の子の笑顔を見ていて、なんとも言えない気持ちになったが、このままここにいるわけにもいかないので、私は2人のいる方を様子見した。

　そこにはもう誰もいなくなっていた。

　あれから女の子と洗濯物を取り終えた。

　女の子は遊びに行くと言ってお庭に走り出していった。

　いざ1人にされてみると、なんだか寂しい気持ちが広がっていった。

「どんな関係なんだろう…。」

　そう呟いても返事する人はいない。

　その時、前にも噂話をしていた女の先生たちの声が聞こえた。

「ニア、ようやくヴォルス様にお会いできたのね！よかったわ！」

「そうね！奥様には悪いけど、あの2人は付き合ってたもの！」

「っ……‼︎」

　声にならない、初めて聞く内容にどう整理していいのかわからなかった。

　ヴォルス様は、なんの問題も起こしてこなかった。

　婚約時代、わたしに無関心であったけれど、他に女性がいるなんて思いもしなかった。

　両手が震えて止まらない。

「…いや…いやよ…‼︎」

　彼を取られたくない、そんな独占欲が脳裏に広がった。

　それからどうやって帰ってきたのか、私は1人屋敷に戻り自分の部屋にいた。

　彼は今頃、ニア様と一緒にいるんだろう。

　頭が混乱している。

　でも1人暗い部屋で、長い間窓を見つめてようやく落ち着いてきた。

「そうよ…もう結婚してるんだもん…。彼は私を大切にしてくれるんだから、彼が他の人と付き合っても気にしなければいい…そうすれば彼は変わらず一緒にいてくれるもの。」

　そう口にしてわたしは目を閉じた。