花嫁の勘案

はなおくら

文字の大きさ
上 下
8 / 45

8

しおりを挟む
 もう私自身、自分の気持ちに気づかないわけがなかった。

 私は中庭で散歩をしながら考えていた。

 ヴォルス様を見つめていると、胸が高鳴って嬉しくなってしまう。

 貴族の矜持など忘れてしまいそうになる程だった。

 なぜ婚約する時から彼の良さを知ろうとしなかったのだろう。

 浅はかな自分に嫌気がさしてくる。

「奥様っ‼︎」

 その時、突然使用人が私を呼んだので振り返った時だった。

 どこから入ったのか犬が恐ろしく怒った様子で私の元へ走ってきている。

 あまりの恐ろしさに私は尻餅をついて、震えてしまい立てなくなった。

「ナタリアっ!」

 襲い掛かられると思い目を瞑ったのと同時にキャンっとなく音と共に当たりが静かになった。

 顔を上げると、ヴォルス様が私に駆け寄ってきた。

「ナタリア、もう大丈夫だ!」

 そう言われて彼に抱きしめられた。

 ヴォルス様の温もりを感じて私は恐ろしさに強張っていた体から力が抜けた。

 その瞬間身体が震えて涙が流れてきた。

「怖かっ…た……。」

 無意識にヴォルス様に縋り付くようになく私に彼はいつまでも抱きしめてくれた。

 そうして彼は私が落ち着く頃合いをみて、横抱きにして部屋まで連れて行ってくれた。

 私は気が動転していたため、彼にされるがまま身を任せたのだった。

 部屋まで案内すると、着替えを済ませてもらいベッドに横になった。

 体が暖かくなり私を見守るヴォルス様にお礼を言った。

「ありがとうございました。頼り切ってしまって…。」

 ヴォルス様は私の頭を撫でて言った。

「君が無事ならいい…。」

 その言葉に安堵して私は意識を手放していった。

 数日後、体も回復した頃部屋付きの使用人が私にその後の事を教えてくれた。

 私に襲いかかってきた犬は処分することになったのだという、私は襲われて恐ろしい想いはしたがそんな結果は望んでおらず急ぎヴォルス様の元に向かった。

「失礼します。ヴォルス様…。」

 部屋に通されると、ヴォルス様は立ち上がって私の肩に手を置いた。

「もう大丈夫なのか?」

 心配そうに私の体全体を確認する姿に微笑んでしまう。

「ありがとうございます。もう大丈夫です。それより…例の犬の件なのですが…。」

「あぁ…。君を傷つけようとしたんだ。それはこっちでやるから心配しなくていい。」

 ヴォルス様は全てを語らず話を終わらせようとしたので私は勇気を出して口を開いた。

「お願いです。どうか命だけは取らないようにしてあげてください…。」

 ヴォルス様は眉を顰めて言った。

「君を襲ったんだぞ…?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる
恋愛
 シエルは20歳。父ルドルフはセルベーラ国の国王の弟だ。17歳の時に婚約するが誤解を受けて婚約破棄された。以来結婚になど目もくれず父の仕事を手伝って来た。 ところが2か月前国王が急死してしまう。国王の息子はまだ12歳でシエルの父が急きょ国王の代理をすることになる。ここ数年天候不順が続いてセルベーラ国の食糧事情は危うかった。 そこで隣国のオーランド国から作物を輸入する取り決めをする。だが、オーランド国の皇帝は無類の女好きで王族の女性を一人側妃に迎えたいと申し出た。 国王にも王女は3人ほどいたのだが、こちらもまだ一番上が14歳。とても側妃になど行かせられないとシエルに白羽の矢が立った。シエルは国のためならと思い腰を上げる。 そこに護衛兵として同行を申し出た騎士団に所属するボルク。彼は小さいころからの知り合いで仲のいい友達でもあった。互いに気心が知れた中でシエルは彼の事を好いていた。 彼には面白い癖があってイライラしたり怒ると親指と人差し指を擦り合わせる。うれしいと親指と中指を擦り合わせ、照れたり、言いにくい事があるときは親指と薬指を擦り合わせるのだ。だからボルクが怒っているとすぐにわかる。 そんな彼がシエルに同行したいと申し出た時彼は怒っていた。それはこんな話に怒っていたのだった。そして同行できる事になると喜んだ。シエルの心は一瞬にしてざわめく。 隣国の例え側妃といえども皇帝の妻となる身の自分がこんな気持ちになってはいけないと自分を叱咤するが道中色々なことが起こるうちにふたりは仲は急接近していく…  この話は全てフィクションです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

散りきらない愛に抱かれて

泉野ジュール
恋愛
 傷心の放浪からひと月ぶりに屋敷へ帰ってきたウィンドハースト伯爵ゴードンは一通の手紙を受け取る。 「君は思う存分、奥方を傷つけただろう。これがわたしの叶わぬ愛への復讐だったとも知らずに──」 不貞の疑いをかけ残酷に傷つけ抱きつぶした妻・オフェーリアは無実だった。しかし、心身ともに深く傷を負ったオフェーリアはすでにゴードンの元を去り、行方をくらましていた。 ゴードンは再び彼女を見つけ、愛を取り戻すことができるのか。

続・上司に恋していいですか?

茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。 会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。 ☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。 「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...