氷の艶やかな青年

はなおくら

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「それでしたら…。」

 遠慮する青年にハンナは、治癒魔法をかけて、懐からハンカチを取り出して傷のある腕に巻きつけた。

「傷でも悪化してしまったら大変ですので…。」

「ありがとうございます。」

 はにかんで笑う青年に、どこか自分と似た様な物を感じた。

「お手間をとらせてすみません。お礼という訳ではないのですがお返しさせてください。」

 そう言って彼は近くの噴水に座り、ハンナにも座る様に施した。

 下心もなく、嫌な感じがしなかったのでハンナは少し距離を空けて隣に座った。

 相手は気にもしてないのか、ポケットから丸い玉を取り出すとそれを投げて、指を振った。

 その瞬間、丸いボウルがふわふわの猫のぬいぐるみに変わった。

「まぁ…!」

 それがあまりにも面白く手を叩いて称賛した。

 自分の手の中に落ちてきたぬいぐるみ撫でる。

「すごいですね、物を違うものに変えられるなんて…。」

「そちらは差し上げます。お恥ずかしながら、僕にはこれだけしか出来ることが無いのです。そのせいで両親からも呆れられる始末で…。」

 そう言って笑う彼に対して、同情の様な感情を抱いた。

「そんなことはありません。私も治癒魔法以外使える物がないもので…、今回の舞踏会も婚約者と来たのですが…足を引っ張るばかりです。」

「貴族とは窮屈な世界ですね。皆それぞれいいところも、悪いところもあるのに、できない物を見つけると後ろ指を指したがる。」

 そんな彼は、吹っ切れた様に話すので、ハンナは自分が悩んでいることが小さいことの様に思えた。

「ふふふ…。そうですね…。」

「そう言えば、お名前を伺ってませんでしたね。聞いても…?」

 そういう青年に、ハンナは笑って答えた。

 ハンナが自分の名前を紹介すると、青年は自分もと名乗った。

「私の名前は、セドリック・タメリーと申します。あなたと同じ子爵家になりますね。」

 自分と同じ身分ということもあり、嬉しくなって、話が弾んだ。

 時間も忘れて、話し込んでいたがそろそろ戻らなければと立ち上がった。

「セドリック様、お時間があっという間で、楽しいひとときでした。」

「私もです。そろそろお暇させていただきます。またお会いいたしましょう。」

 会釈をしてさるセドリックに、もらったぬいぐるみの手を持ちを感謝の意味で振ってみせた。

それをみたセドリックは笑って、人気のない裏庭から出て行った。

 今日はいい友人ができたと本当に嬉しくなった。

 セジャにもその事を話したくて、彼のいる会場へと続く長い階段を上がろうとして、上を見上げるとセジャ立っていた。


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