わがままな娘

はなおくら

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 婚約者には結婚するのだから自分だけ見て欲しかった。そして姉妹である事を理由に婚約者のキムに馴れ馴れしい妹の行動にも自重してもらいたいと言う思い、そしてもっとも愛する両親からはもっと信じてもらいたい思い、これらがセレナにとっての願望であり正義だった。

 考えるとなんだか馬鹿らしくなってくる。今自分は何がしたいのかもわからなかった。

 するとアンジュとロットが部屋に入ってきた。

「おはよう…気分はどう?」

「…………。」

 ロットの問いかけに返事もせず、ただ呆然と前を向いた。

「セレナ様…。」

 アンジュに名を呼ばれると罪悪感を感じる。眉を寄せて俯いた。

  アンジュはそっとセレナの手を握り、そして抱きしめた。

 何故か安心して涙が流れる。背中をただ撫でてくれる手に、温かい安堵感を覚えていた。

 どれくらいそうしていただろうか落ち着いた頃、気がつくとロットは部屋から出ていた。

「セレナ様、落ち着かれましたか?」

「ええ…ありがとう…。」

 アンジュに頭を撫でられると、幼い子のような甘えが出てくる。するとアンジュはセレナに言い聞かせるように、口を開いた。

「セレナ様…ご主人様を許してやってください…今すぐじゃなくてもいい…少しずつでいいですから…。」

 セレナは素直に頷けなかった。知らないふりをして瞳を閉じていた。

 その夜、ロットが部屋を訪れた。もう随分遅い時間だったが、なかなか眠れずにいた。

 ロットはセレナが眠ったと思い、部屋の戸を開けたのだった。

 ロットの姿を見たセレナは、彼の視線から顔を逸らした。

 気まずい気持ちを抑えてロットはセレナに近づく。

「セレナ…体調はどうだい?……何か欲しいものは?」

 心配してくれているのに、セレナは素っ気なく返す。

「大丈夫です。ご心配をおかけしました。」

 他人行儀に返されると余計に辛くなる。

「他人のように敬語を使わないでくれ。僕が悪かった…。」

 自分を見つめる彼を許したい。だけど心が留め金をついていてなかなか素直になれない。

 しばらく沈黙が続く。セレナは未だ顔を逸らしたままロットを見ようともしない。

 その様子に痺れを切らしたロットは顔を歪めて、セレナの頭を抱えてキスを落とした。

「ちょっ…んっ‼︎」

 反論する事すら許さないかのように、キスを落とす。

「ロット!やめて!…こんなの嫌!」

 セレナの拒絶を聞いたロットだったが、冷めた瞳で口を開く。

「君が僕を拒むなら拒めばいい。…だが僕は諦めない。一緒にいるためなら、君が望まなくとも事を進める。」

 背筋がゾクッとする感触がした。
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