わがままな娘

38

　手を掴むロットを、セレナは怒りの感情のまま振り解いた。

「離して！……貴方まで私に黙って両親と内通してたなんて…。」

「それは違う!聞いてくれっ!」

　弁解しようとするロットを無視して呟く。

「貴方は私を愛してるんじゃない…。自分の者にならなかったから執着してるだけよ‼︎」

　ロットは悲しげにセレナを見つめた。違うと言いたいが今の彼女は冷静ではない。

「…もう……私のことは放っておいて…。もう忘れてください…最後に夢を見させていただきありがとうございました………さようなら…。」

　そう言ってセレナは歩き出した。もう自分が何をしたいのか、自分自身わかっていなかった。

　当てもなく歩き出そうとした時、後ろから声が聞こえた。

「…今の君には何を言ってもわからないんだね……。」

　無視して歩を進める。すると後ろから抱き抱えられ、いつのまにか近くに泊まっていた馬車へと連れて行かれた。

「離して‼︎」

「出してくれ。」

　暴れるセレナを押さえ込み、御者に合図を送った。

「下ろして!もうここにはいたくないっ!」

　顔をは涙でぐちゃぐちゃになり、馬車を降りようと暴れる。

　そんな彼女を押さえつけてロットは何も言わずに黙っていた。

　屋敷に着く頃には泣いて暴れてとしていたせいか体力もなくなり、げっそりとしていた。

　ロットはセレナを部屋へと運ぶと、心配してついてきたアンジュに医者を呼ぶように指示した。

「貴方の顔なんて見たくない…大嫌いよっ!」

　部屋に連れられてもなお出て行こうとするセレナに、ロットは両手を押さえ込み言った。

「君をここから出すつもりはないよ。」

　その言葉にセレナはまた涙が溢れてくる。するとアンジュと共に医者がやってきた。

　そして暴れるセレナの腕に注射をした。するとスーッと眠りについた。

「これで暫く落ち着くでしょう…。あまり興奮させないようにお願いします。」

　そう言って部屋を出て行った。

　ロットは眠るセレナの頬に両手を伸ばし頬を包み込み見つめた。

「すまない…君がそんなに傷ついていたなんて…。」

　そう言ってロットは自分を責めた。

　アンジュはロットの肩に手を置いて寄り添うことしか出来なかった。

　それから次の朝、セレナは目が覚めた。慣れた天井を見ながら昨日のことを思い出す。

　久しぶりに会う両親の顔、冷静さを失くした自分、我ながら子供だと自分に呆れてしまう。

　わかっていないのは自分なのに、心配してくれている両親を許す事が出来なかった。

　自分のしてきた事は劣悪ではあっただろうだがその行いにはセレナなりの正義でもあった。