わがままな娘

32

　あれから2人で屋敷に戻り、普通の穏やかな生活を送っている。

　ロットもセレナを閉じ込める事なく、彼女を尊重して幸せな気分になっていた。

　ある日、セレナはアンジュと共に刺繍をしていると、アンジュが何か思い出したかのようにセレナを見た。

「セレナ様、もうすぐロット様のお誕生日ですよ。」

　そういえばそうだと、セレナは思い出した。

「そうだったわね。何か贈りたいのだけど何がいいかしら?」

　セレナは悩んだ。そして一つの事が思い浮かんだのだった。

「アンジュ!その日ロットと泊まり込みで出かけたいのだけどどうかしら?」

「いいと思います!ですが何かお考えで？」

　アンジュが聞くと、セレナは耳打ちに言った。

「彼と平民の家族ような事をしてお祝いがしたいの。一から彼のために手作りでやりたいのだけど…どうかしら？」

　セレナは不安だった。貴族として生まれてきてこういう事をするのは恥さらしなのではないか。

「素敵な考えですよ！2人きりになってわかる事はたくさんありますからね。」

　そうして準備に取り掛かることになった。

　セレナは、料理を教わりたいと厨房に入った。そして料理長にロットの好物を教わりながら腕を上げていった。

　しかし、はじめての事は慣れない事ばかりでセレナの手は傷だらけになっていた。

　特訓が終わると、アンジュに手の薬をもらって部屋に戻ろうとした。

　すると暗がりの中、戸の前に人影が見えた。暗く影がさして表情が伺えなかったが、立っていたのはロットだった。

「ロット？どうしたの?」

　セレナが恐る恐る聞くと、ロットが冷たくこおばった声で言った。

「セレナ…君何してるの?」

「えっ?」

　意味が分からず聞き返すと、ロットは近づきセレナの部屋へ共に入った。

　部屋が閉まると、ロットの顔が歪んだ。

「最近、一緒にいることも少なくなったし、こそこそ何かしてるの?」

　この時、セレナはロットが嫉妬しているのだと悟った。嫉妬される事に心地よさを感じていた、だが彼には悪いがここで全てを無駄にするわけにはいかないと思い、彼を抱きしめた。

「心配かけてごめんなさい。何でもないのよ。私を信じて…。」

　そう言ってロットを抱きしめた。ロットは納得いかなかったかのように、眉間を寄せたが、押し黙った。

　それからセレナは、コツコツと計画を進めていた。寂しげにこちらを見つめている彼には心苦しいが、彼の喜ぶ姿を見れる事を励ましにしていた。

　そしてロットの誕生日前日、彼と共に眠る前手紙を渡した。