わがままな娘

10

　声を荒げたロットに驚いたが、セレナは続けた。

「いいじゃない!何故そんなに怒るの？婚約者に誤解されるから?」

「…そうじゃない…。」

「私は邪魔をしないわ。心配しなくても…。」

「違うんだ!」

　セレナが言いかけた言葉を被せてロットは言った。

「…とにかく君は気にしなくていい。招待の事も僕がなんとかするから…。」

　そう言って食事を始める。セレナは納得がいかない気持ちになった。

　しかし思い出した事がある。身分の上の者からのお誘いを承諾しておいて、お断りするのは失礼な事だった。

　まずいと思ったセレナはまた口を開く。

「ロット…悪いのだけど、このお誘いに私承諾してしまったの…。今は平民、こんな失礼な事をしてしまっては私恥ずかしいわ…。」

　セレナは困った顔を見せた。

　ロットもしばらくセレナの顔を見つめていたが、諦めたように言った。

「わかった…今回だけだよ…。次は僕に話してね。」

「ありがとう!」

　リリスからのお茶会に行く事に決まった。

　しかし何故か複雑な気持ちになったが、それを振り払い気合を入れた。

　それからお茶会当日、セレナはアンジュや補佐の使用人に頼んでかなり露出のある服装を選んでいた。

　この屋敷に来てからは、ロットの意向で首まで覆われたような服装や似たようなものばかり着ていた。今日のセレナはある考えの末だった。

　今自分の姿を見た時、なんだか気恥ずかしくなった。昔はこういった服を好み来ていたからだ。

　赤色のドレスに、肩まで出て胸はこれでもかと言うくらい上げているせいで、谷間ができている。

　そして、髪はアップにして先を少し垂らし、セクシーさを出した。

　後ろでアンジュが、困った顔で口をすぼめていた。

「何?」

「本当にその格好でいかれるのですか?」

　アンジュにロットの婚約者が来たと話した時には、いきなり訪問するなどと自分の事のように怒っていた。

　しかしセレナが、気にしてないと言って諫めると渋々押し黙った。そして今回の訪問もとても気を揉んでいた。

「えぇ…。」

　セレナの返答にアンジュは眉間にシワを寄せた。

(セレナ様の格好にロット様は大丈夫だろうか…いや…もしかしたらこれで何か変わるのではないか…。)

　アンジュは心の中で、確信した気がした。

　玄関を降りると、案の定ロットはセレナの姿に、他の使用人が震え上がる程、怖い表情をしていた。

　ロットは男の使用人達にお辞儀をしたまま動かないよう指示した。

　セレナも、ロットの恐ろしい目つきにゾッとしたが、気づかないフリをしながら声をかけた。

「待たせてごめんなさい。行きましょうか?」