わがままな娘

7

「……さっきのは何……？」

「えっ！なっなんのこと?」

　慌ててセレナがとぼけると、ロットはセレナの席に回り、顔を近づけていった。

「……さっきのハンカチは何…？」

　みられたと思ったが、まだラッピングも出来てないものを渡すのはと必死に隠していると、さらに顔が近づいた。

「僕に隠し事しないでよ…。…もしかしてほかに好きな男がいてそいつに渡すの?」

　なぜだか分からないがロットに誤解された事が悲しくてセレナは起こり出した。

「やめてよ!そんな人いないわ!」

　セレナの剣幕に説得されたのか、ロットはほっとした顔で席に戻った。

　そしてひとつ息を吐くと、今度は落ち着いた口調で口を開いた。

「君の言うことは信じるよ。でもあれは誰に渡すものだったの？」

　ロットが懇願する眼に見つめられ、セレナは観念して今渡すことにした。

「…ちょっとまってて…。」

　そう言って箱の中から、ハンカチを取り出しロットに渡した。

「私ロットには感謝してるの…平民になった私を、幼なじみのよしみでここに置いてくれて…それでこれを渡したくて内緒にしてたの…。」

　赤くなるセレナに、ロットは歓喜していた。

「…そう…だったのか…。ごめん…僕はてっきり君がほかの奴に渡すのを隠してるのかと思って…。」

　そう言って改めてハンカチを見た。刺繍に紫色の薔薇を見つけた。

「これは?」

「私の好きな花なの…アンジュに聞いたら私の好きなものをって聞いたから…。」

　セレナはこの期に及んで気付いていなかった。ロットはセレナの好きなものを見るのが1番好きな事に。

「嬉しいよ…君は紫色のバラが好きなんだね？」

「えぇ…ここではあまりにも希少だからなかなか見れないけどね…。でも喜んでもらえてよかったわ。」

「あぁ…とても嬉しいよ…。ありがとう。……ちゅっ…。」

　ロットは立ち上がりセレナに近づき頬にキスを落とした。

　セレナは幸せを実感した。

　自分の作ったものを人がこんなにも喜んでくれる。なんて暖かいんだろう…。

「大切にする…。」

　そう言ってお茶の間、手の中に大切に持っていた。

　それから翌日の朝、セレナが目を覚ますとびっくりした。

　部屋一面に、紫のバラが飾られていた。ベッドの近くにあったメッセージカードには、

“セレナへ　僕の気持ちを薔薇の数だけ…”

　カードを見て、思わず笑った。でも自分の好きなものに囲まれて、幸せに満たされていた。

　それから、アンジュと共に刺繍をしていると外が騒がしい事に気がついた。

「どうしてのかしら?」

　そう聞くとアンジュが苦虫を潰したような顔で言った。

「セレナ様、今日は絶対に部屋から出てはいけません。さぁ…気にせずに私と続きの刺繍を致しましょう。」

　不思議に思ったが、特に気にしない事にして刺繍の続きを始めた。