梅雨の様なこんな雨の日に

はなおくら

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 しかしそれでも気になることがあった。

 あの人の捨て台詞で、何やら仕返しをしてきそうな予感がしている。

 お母様もそれがわかっているはずなのに、あの人に会ったことやその場で起きたことをツーリーに内緒にするように言われた。

 わたしは悩んでしまった。

 目の前では業務を一緒に行うツーリーがいる。

 彼に頼めばエバン伯爵家が危機に陥る事はない。

 でも、黙っておくように言われてどうしたらいいのかわからなくなってくる。

 そんなある日、朝目が覚めて顔を洗っていると、使用人が手紙を渡してきた。

 宛先はエバン夫妻からだった。

 エバン伯爵家が所有する山が何者かの手によって一部欠壊してしまったのだという。

 その山はとてもいい植物が育つ為、領地の人々の生活を支えるため農作業として植物を育てて炊き出しとして使用したり、遠くの商人との取引を行ってきた。

 そのおかげでエバン伯爵は慎ましやかながら生活を送ることができていたのだ。

 それが欠壊してしまっては、元も子もない。

 エバン伯爵夫妻は心配いらないと書いてあったが、わたしはなんとなく原因がわかった。

 もう黙っているのはやめよう。

 わたしはことの経緯をツーリーに話すことにした。

 彼には大事な話があると、2人の寝室に来てもらった。

「ナナ、話とはどうしたんだ?」

「ツーリー…突然ごめんなさい…でもわたしではどうしようもなくて…。」

 両親のことを思うとツーリーの顔を見て涙が出てきた。

「何があったんだ?」

 彼の問いかけにわたしは今まで会ったことを話して聞かせた。

 わたしの話を真面目聞いていたツーリーがあの人の事を出した瞬間、顔を強張らせた。

「はっ…よくも今更…。」

 怒りをあらわにする彼にわたしは、自分の疑惑を口にした。

「あの人に会った時、お母様はわたしを守ろうとしてくれたのそのせいで恨みを買われて…あんな事になってしまったのかもしれない…でも両親は心配しなくていいと、貴方に言ってはいけないと言われてたの…わたし心配で…お願い…わたしにできる事はないかしら…何かあるなら教えて欲しいの…。」

 ツーリーの顔を見ると彼は、大丈夫だとわたしの手を握ってくれた。

「君もエバン伯爵夫妻も家族だ。何も気にする事はないよ。僕らで真相を確かめよう。」

 心強い言葉にわたしは頷いた。

「ツーリー…ありがとう…。」

 そういうとツーリーはわたしの頭を優しく撫でてくれた。

 それからツーリーは両親に援助を送った。

 初めは渋っていた両親も押され気味になりつつ受け入れてくれた。

 あとは何故山が決壊してしまったのか真相を探る事になった。


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