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 とは言っても内心もうリノリュア伯爵家の様な貴族に会いたくはなかった。

 ツーリーも気にしてか、わたしのそばを極力離れない様にしてくれている。

 しかし後見人の問題は解決していない。

 エバン伯爵夫妻との対面が残っている。

 もう約束もしてしまい断ることなどできない。

 その夜、ツーリーのベッドに一緒に添い寝をしながら明日来られるエバン伯爵の話になった。

 わたしの髪を指に巻き付けて遊んでいるツーリーが言う。

「ナナ、もう後見人候補たちに会いたくないと言うなら無理はさせたくない。こちらから断ろう。」

 まっすぐわたしを見る彼に、わたしは首を振った。

「大丈夫じゃないけど大丈夫よ。」

 そういう私をツーリーには余計に心配させたかもしれない。

 傷つけられて強気でいられない。

 だけどツーリーの為に、2人で前に進みたい。

 わたしはそう強く思った。

「あなたがいるから大丈夫。」

「ナナ…ありがとう。」

 ツーリーにもわたしの想いが伝わった。

 私たちはその日お互いを抱きしめあって眠りについた。

 次の日、もう扉の向こうにはエバン伯爵夫妻が待っている。

 今わたしの隣でツーリーがいる。

 今日はツーリーには席を外してもらい後から合流することになった。

「ナナ、信じてるから無理はしなくていい、自分らしくいてくれ。」

「ええ…ツーリーがついてるものね。」

 そう言って彼に笑って見せた。

 彼も笑ってわたしを送り出してくれた。

 扉の前で深呼吸を一つして、戸を開いた。

 目の前には、周りが朗らかな雰囲気を漂う夫妻がわたしを見るなり立ち上がり一礼した。

 柔らかい雰囲気を感じつつも、前回のことがトラウマとなって警戒心を持ってしまう。

 わたしは顔をこわばらせて口を開いた。

「本日はお越し頂きありがとうございます。」

「お会いできて光栄です。ナナ様。」

「私達会える事を楽しみにしておりましたの。」

 2人は笑顔伝えてくれる。

 しかし信じていいものか悩んでしまい、なんともいえない。

「…おかけになってください。」

 私は2人にお茶を淹れた。

 あれだけ批判されたのだからやめればいいのかもしれないが片方にやらないというのは自分の中でもよく思わなかった。

 緊張しながら2人の前にお茶を置いた。

「……。」

「………。」

 お茶を飲む間、長い沈黙が流れた。

 わたしはその沈黙に、また何か批判を受けるのだろうがと考えてしまいくらい気持ちになった。

 そしてエバン伯爵夫人が口を開いた。

「美味しいわ。こんなに美味しいお茶が飲めるなんて。」

「本当に。」

 2人の会話にわたしは言葉を失ったのだった。
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