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召喚
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旅行は楽しい。
自分が知らないことを知ると楽しくなってくる。異文化に触れればいかに自分が偏った考えなのか思い知らされるし、異国の自然を見ればまだまだ世界は広いと生命の可能性を感じる。
旅行はそんな魅力的なものであるからして、ついつい好奇心が暴走してしまうこともあるというものだと言い訳をしたい。
実は今、僕ーー如月仁は好奇心に駆られた結果、空中を舞っている。
「いぃーやあああああああああ‼︎」
甲高い声で叫びながら落下する。なぜこんなことになったか。端的に言えば観光地の立ち入り禁止区域に入ったからだ。
だってしょうがないじゃないか。
ガイドさんが「ぜーったい、あの看板から先には行っちゃダメですよ~!」ってすごい可愛らしい笑顔で言うんだもん。そりぁ見てみたくなりますよ。でも実際、その先にあったのは崖でした。本当に危ない場所でした。
死にました。完全に、完璧に、絶壁に死にました。
爺ちゃんごめんなさい。孫はやんちゃ過ぎました。
先に逝くことを許して下さい。
あぁ、もう少し世界を回ってみたかったなぁ
地面が近づいてくる。せめて痛みは感じさせないで欲しいと目をギュッと閉じた。
「いでっ」
痛みを感じた。
しかし尻餅をついた程度の痛みだった。
固く閉じた目をゆっくりと開く。
「あれ、どこだここ?」
広がる光景は石造りの空間。僕を囲むように中途半端な長さの石柱が数本、地面には見知らぬ模様。眼前にはいかにもなローブを着た人影。
まさか、とは思った。僕は意識もあるし実体として存在している。だからこの状況からしてそう考えるのが自然なのだろう。
「もしかして、異世界……?」
そう呟くと同時に目の前の人物は頭を垂れた。
「ごめんなさい!」
「へ?」
聞こえたのは可愛らしい女性の声だった。顔は見えないけど、確かに背丈はそこまで高くないかも。
でもどういうことだろうか?謝罪?
なぜ?と聞く前に彼女は捲し立てた。
「でもこうするしかなかったの!いつかちゃんと謝るから!それじゃ!」
「あ…え……?」
ローブの女性はあっという間に部屋の出口と思われる石段を駆け上って行った。
「なんだったんだ、いったい」
ひとまずここから出ようと立ち上がると目眩がしてブルブルと頭を振った。
「そういえば、言葉通じたな。じゃあここは地球のどこか?いやでも……んーわからん!」
分からないことは無理に理解しない。爺ちゃんの教えの一つだった。たしか。
ふらつく足取りで石段に足を掛けた時、多くの足音が聞こえてきた。もしここが異世界であれば、あれだろうか。あの「勇者様!我々をお救い下さい!」みたいなイベントだろうか。
そんな幻想的なことを考えている間に足音はすぐそこまで迫っていた。このまま石段をのぼっても狭いと思い石段下の横に移動する。
どなた達か存じ上げませんがその先は通行止めですよ、とは思いつつその一団が部屋に降りきるのを待つ。
ここで驚いたのが彼らの服装だ。ガシャンガシャンと音を立てる甲冑。コスプレとしか思えないドレスコーデ。
ここはあれだ。夢の国なんとかランドだ。きっとイベントでこの部屋を使うんだろう。
邪魔してはいけないと思い、最後の1人が石段を降りきったのを確認する。そして、しっかりと「どうも」と会釈をしてから石段を登り始めた。
はぁ……入園料とかは取られるのだろうか。
ひとつため息をして石段の最初の一段を登った。そんな時だった。
「おい!そこのお前!何者だ!」
「はいぃ!如月仁16歳。高校2年生になりました!彼女はいません!」
急に声を掛けられた。そして反射的に答えてしまった。これは警備室みたいな所でお説教コースなのかな。
「あのすみません!イベントの場所だって知らなくて。その、勝手に入ってごめんなさい!」
これが僕にできる精一杯の謝罪だった。しかし相手の反応は「ん?イベント?何のことだ!」という辛辣なものだった。
「え、ここで何かイベントをするんですよね?」
「だから何のことだ!貴様、怪しいな……まさか、人に化けた魔族か!」
困った。話が通じない。
この人達は役に入り込み過ぎてるんだな。クルーとしては素晴らしい心掛けだけど暴言はよくない。危うく漏らしそうです。
ひー!と悲鳴を上げていると、石段にいる僕から見て奥の方、つまり石の部屋の方から声が上がった。
「ちょっと通してくれ!」
その声で部屋にいた集団は脇にそれて道ができた。
向こうから歩いてきたのは杖をつく若い男性。クルーの皆さんは西洋的な顔立ちが多い。けどこの人は東洋、特に日本人の特徴を持った顔立ちだった。
「もしかして君、日本人?」
彼は優しい口調で訊いてきた。
「あ、はい。僕は如月仁、日本人です。えっーと貴方は?」
「僕はユキト。君と同じ日本人さ。それより聞きたいことがある。君はどこから来たのかな?」
日本人!しかもこの人は笑顔を絶やさない。クルーの鏡だ。この人なら話が通じるかも!
「実は、気付いたらここにいて。自分でも訳が分からなくて。でもわざとじゃないんです!決してイベントを邪魔しようとかそういうのじゃなくて……」
ちらと彼の顔を見ると、頬を一瞬膨らませて吹き出した。
「ぷっ!あはははははは!」
「えーっと……」
「ああ、ごめんごめん。僕がここに来た時と同じこと言ってるから面白くって」
僕は「はぁ」と返すしかなかった。
彼はひとしきり笑った後に、クルーの皆さんの方に体を向けた。
「皆さんどうやら勝手に召喚をした者がいるようです。城内を探して下さい。犯人がまだいるかもしれません」
「「はっ!かしこまりました!」」
ユキトと名乗った男性の指示で甲冑を着た人達は急いで石段を登って行った。
残ったのは豪奢なドレスを着た女性が数人と偉そうな顔をした人が数人。彼らもユキトさんと少しの間話し合いをした後に石段を登って行った。
ふぅと一息ついてユキトさんは腰をドサっと床に下ろした。
「いやぁ大人数の前はしんどいね。ちゃんとしちゃうから」
「ど、どうしたんですか?大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。ちょっと怪我が痛くてね」
そう言ってユキトさんは膝の辺りをさすっていた。
「ユキトさん。質問してもいいですか?」
早く知りたかった。
ここは何処なのか。
なぜ自分はここにいるのか。
そして、入園料はいくらなのか。
それによって僕の今月のお小遣いの残高が決まる。
「そうだね。少し混乱しているだろう。まずここは地球じゃない」
「…………へ?」
自分が知らないことを知ると楽しくなってくる。異文化に触れればいかに自分が偏った考えなのか思い知らされるし、異国の自然を見ればまだまだ世界は広いと生命の可能性を感じる。
旅行はそんな魅力的なものであるからして、ついつい好奇心が暴走してしまうこともあるというものだと言い訳をしたい。
実は今、僕ーー如月仁は好奇心に駆られた結果、空中を舞っている。
「いぃーやあああああああああ‼︎」
甲高い声で叫びながら落下する。なぜこんなことになったか。端的に言えば観光地の立ち入り禁止区域に入ったからだ。
だってしょうがないじゃないか。
ガイドさんが「ぜーったい、あの看板から先には行っちゃダメですよ~!」ってすごい可愛らしい笑顔で言うんだもん。そりぁ見てみたくなりますよ。でも実際、その先にあったのは崖でした。本当に危ない場所でした。
死にました。完全に、完璧に、絶壁に死にました。
爺ちゃんごめんなさい。孫はやんちゃ過ぎました。
先に逝くことを許して下さい。
あぁ、もう少し世界を回ってみたかったなぁ
地面が近づいてくる。せめて痛みは感じさせないで欲しいと目をギュッと閉じた。
「いでっ」
痛みを感じた。
しかし尻餅をついた程度の痛みだった。
固く閉じた目をゆっくりと開く。
「あれ、どこだここ?」
広がる光景は石造りの空間。僕を囲むように中途半端な長さの石柱が数本、地面には見知らぬ模様。眼前にはいかにもなローブを着た人影。
まさか、とは思った。僕は意識もあるし実体として存在している。だからこの状況からしてそう考えるのが自然なのだろう。
「もしかして、異世界……?」
そう呟くと同時に目の前の人物は頭を垂れた。
「ごめんなさい!」
「へ?」
聞こえたのは可愛らしい女性の声だった。顔は見えないけど、確かに背丈はそこまで高くないかも。
でもどういうことだろうか?謝罪?
なぜ?と聞く前に彼女は捲し立てた。
「でもこうするしかなかったの!いつかちゃんと謝るから!それじゃ!」
「あ…え……?」
ローブの女性はあっという間に部屋の出口と思われる石段を駆け上って行った。
「なんだったんだ、いったい」
ひとまずここから出ようと立ち上がると目眩がしてブルブルと頭を振った。
「そういえば、言葉通じたな。じゃあここは地球のどこか?いやでも……んーわからん!」
分からないことは無理に理解しない。爺ちゃんの教えの一つだった。たしか。
ふらつく足取りで石段に足を掛けた時、多くの足音が聞こえてきた。もしここが異世界であれば、あれだろうか。あの「勇者様!我々をお救い下さい!」みたいなイベントだろうか。
そんな幻想的なことを考えている間に足音はすぐそこまで迫っていた。このまま石段をのぼっても狭いと思い石段下の横に移動する。
どなた達か存じ上げませんがその先は通行止めですよ、とは思いつつその一団が部屋に降りきるのを待つ。
ここで驚いたのが彼らの服装だ。ガシャンガシャンと音を立てる甲冑。コスプレとしか思えないドレスコーデ。
ここはあれだ。夢の国なんとかランドだ。きっとイベントでこの部屋を使うんだろう。
邪魔してはいけないと思い、最後の1人が石段を降りきったのを確認する。そして、しっかりと「どうも」と会釈をしてから石段を登り始めた。
はぁ……入園料とかは取られるのだろうか。
ひとつため息をして石段の最初の一段を登った。そんな時だった。
「おい!そこのお前!何者だ!」
「はいぃ!如月仁16歳。高校2年生になりました!彼女はいません!」
急に声を掛けられた。そして反射的に答えてしまった。これは警備室みたいな所でお説教コースなのかな。
「あのすみません!イベントの場所だって知らなくて。その、勝手に入ってごめんなさい!」
これが僕にできる精一杯の謝罪だった。しかし相手の反応は「ん?イベント?何のことだ!」という辛辣なものだった。
「え、ここで何かイベントをするんですよね?」
「だから何のことだ!貴様、怪しいな……まさか、人に化けた魔族か!」
困った。話が通じない。
この人達は役に入り込み過ぎてるんだな。クルーとしては素晴らしい心掛けだけど暴言はよくない。危うく漏らしそうです。
ひー!と悲鳴を上げていると、石段にいる僕から見て奥の方、つまり石の部屋の方から声が上がった。
「ちょっと通してくれ!」
その声で部屋にいた集団は脇にそれて道ができた。
向こうから歩いてきたのは杖をつく若い男性。クルーの皆さんは西洋的な顔立ちが多い。けどこの人は東洋、特に日本人の特徴を持った顔立ちだった。
「もしかして君、日本人?」
彼は優しい口調で訊いてきた。
「あ、はい。僕は如月仁、日本人です。えっーと貴方は?」
「僕はユキト。君と同じ日本人さ。それより聞きたいことがある。君はどこから来たのかな?」
日本人!しかもこの人は笑顔を絶やさない。クルーの鏡だ。この人なら話が通じるかも!
「実は、気付いたらここにいて。自分でも訳が分からなくて。でもわざとじゃないんです!決してイベントを邪魔しようとかそういうのじゃなくて……」
ちらと彼の顔を見ると、頬を一瞬膨らませて吹き出した。
「ぷっ!あはははははは!」
「えーっと……」
「ああ、ごめんごめん。僕がここに来た時と同じこと言ってるから面白くって」
僕は「はぁ」と返すしかなかった。
彼はひとしきり笑った後に、クルーの皆さんの方に体を向けた。
「皆さんどうやら勝手に召喚をした者がいるようです。城内を探して下さい。犯人がまだいるかもしれません」
「「はっ!かしこまりました!」」
ユキトと名乗った男性の指示で甲冑を着た人達は急いで石段を登って行った。
残ったのは豪奢なドレスを着た女性が数人と偉そうな顔をした人が数人。彼らもユキトさんと少しの間話し合いをした後に石段を登って行った。
ふぅと一息ついてユキトさんは腰をドサっと床に下ろした。
「いやぁ大人数の前はしんどいね。ちゃんとしちゃうから」
「ど、どうしたんですか?大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。ちょっと怪我が痛くてね」
そう言ってユキトさんは膝の辺りをさすっていた。
「ユキトさん。質問してもいいですか?」
早く知りたかった。
ここは何処なのか。
なぜ自分はここにいるのか。
そして、入園料はいくらなのか。
それによって僕の今月のお小遣いの残高が決まる。
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「…………へ?」
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