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異世界でテッペン獲っちゃいます
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「なるほど、さっぱりわからん」
正面の黒板を囲むように扇状に並ぶ座席。ミサキは黒板に書かれた解読不能の数式と図形を眺め呟く。
いつの間にかその授業は終わり、次の授業が始まろうとしていた。
「姐さん、あたし次の授業からさぼっていいですか」
元の世界と変わらぬ退屈を感じたミサキは教室から逃れようとする。
「あら、次は地理と世界情勢の授業よ。あなたのカントウやニホンの事がわかるかもしれないわよ?」
マイアの言葉に反応を示したミサキは上げかけた腰を木製の椅子に下ろす。
ミサキは心のどこかでほんの少しだけ期待をしていた。あの夜に見た4つの月は目の錯覚で、アルシア王国なんてのはナウシカ王国とかの聞き間違いで、なんてそんな淡い期待。
結論から言えば。
ここはまごうことなき異世界だった。
大陸の形も、位置も、ミサキが小学生の時に見た世界地図とは異なっていた。
これではナウシカ王国なんて見つかるはずもない。そもそも元の世界にもそんな国は存在しないのだが。
「その………ね、そんなこともあるわよきっと。だから、元気だして?」
地理などの授業が終わり、3人は庭園へと来ていた。空は赤みがかり校舎の影が庭園へと伸びている。下校する生徒や寮へと戻る生徒がわらわらと校門を過ぎていく。そんな様子を見ながらミサキは口を開いた。
「………いいんすよ、姐さん。そんな期待してたわけじゃないですから」
心配そうにミサキの顔を窺うマイア。アメリアもその背後でそれに倣う。
「じゃ、じゃあミサキさんは、異世界人ってことですか………それが本当なら、はわわわわ、大事件です。厄災が、厄災がきますぅ」
「やくさい?」
ミサキはアメリアの言葉にそんな単語は知らんといった様子で首をかしげる。
「お伽話、のようなものね。遠く離れた異界から現れたものによって厄災がもたらされるであろう、みたいなね」
慌ててはわわとしているアメリアに変わってマイアが答える。そして、彼女は俯きがちに続けた。
「……私はね、そうなってもいいと思ってるの。この国は一回壊れて、再び作り直さないといけない……」
「へ? なんでですか」
ミサキは訳が分からないといった様子で聞き返す。
「ミサキも見たでしょ。貴族街と平民街の違いを。見た目上の問題だけじゃない。さっきの2人組の女生徒の態度もそう。貴族は平民を蔑んでいるの。本来は守るべき対象なのにね。貴族のそんな態度が平民を怒らせて深い溝を作ってしまっている。この溝は簡単に埋まらない。それならいっそーー」
マイアがそこまで言ったところで、ミサキは純粋な眼差しでマイアに問いを投げかける。
「姐さんはどうしたいんすか? この国を壊したい? それともテッペンを獲って皆の溝を埋めたいんすか?」
マイアは虚を突かれたように体を強張らせる。
そして、いつもの堂々たる口調ではなくポツリと言葉を吐き出した。
「わ、私は………この国を…………壊したくないっ……! だって……私、この国が大好きなの……」
そこまで聞いたミサキはにかっと笑いマイアに手を差し伸べる。
「じゃあ、姐さん。この国のテッペン獲っちゃいましょう! そんで、姐さんが大好きな国をもっとでっかくしましょう!」
きょとんとした顔でミサキの方を見上げるマイア。アメリアはまだ状況に追いついていないようだ。
ふと、マイアが笑う。
その笑みはいつものような公爵令嬢の気品あるものではなく、どこかやんちゃな娘が浮かべるそんな笑みだった。
「ええ、そうね。何を迷っていたのかしら。王国が腐っているなら私が叩き直せばいいだけの話よね!」
そうっすよ、とミサキが返すとようやくアメリアは状況を掴めてきたようで、
「はわわわわ、お嬢様、何をなさるおつもりですか⁉︎ そんなことしたら、そんなことしたらぁ」
と慌てふためいた。
そんな様子を見て。ミサキとマイアの2人は屈託のない笑顔を浮かべた。それは2人の悪ガキが悪巧みをしているときのようにも感じられた。
正面の黒板を囲むように扇状に並ぶ座席。ミサキは黒板に書かれた解読不能の数式と図形を眺め呟く。
いつの間にかその授業は終わり、次の授業が始まろうとしていた。
「姐さん、あたし次の授業からさぼっていいですか」
元の世界と変わらぬ退屈を感じたミサキは教室から逃れようとする。
「あら、次は地理と世界情勢の授業よ。あなたのカントウやニホンの事がわかるかもしれないわよ?」
マイアの言葉に反応を示したミサキは上げかけた腰を木製の椅子に下ろす。
ミサキは心のどこかでほんの少しだけ期待をしていた。あの夜に見た4つの月は目の錯覚で、アルシア王国なんてのはナウシカ王国とかの聞き間違いで、なんてそんな淡い期待。
結論から言えば。
ここはまごうことなき異世界だった。
大陸の形も、位置も、ミサキが小学生の時に見た世界地図とは異なっていた。
これではナウシカ王国なんて見つかるはずもない。そもそも元の世界にもそんな国は存在しないのだが。
「その………ね、そんなこともあるわよきっと。だから、元気だして?」
地理などの授業が終わり、3人は庭園へと来ていた。空は赤みがかり校舎の影が庭園へと伸びている。下校する生徒や寮へと戻る生徒がわらわらと校門を過ぎていく。そんな様子を見ながらミサキは口を開いた。
「………いいんすよ、姐さん。そんな期待してたわけじゃないですから」
心配そうにミサキの顔を窺うマイア。アメリアもその背後でそれに倣う。
「じゃ、じゃあミサキさんは、異世界人ってことですか………それが本当なら、はわわわわ、大事件です。厄災が、厄災がきますぅ」
「やくさい?」
ミサキはアメリアの言葉にそんな単語は知らんといった様子で首をかしげる。
「お伽話、のようなものね。遠く離れた異界から現れたものによって厄災がもたらされるであろう、みたいなね」
慌ててはわわとしているアメリアに変わってマイアが答える。そして、彼女は俯きがちに続けた。
「……私はね、そうなってもいいと思ってるの。この国は一回壊れて、再び作り直さないといけない……」
「へ? なんでですか」
ミサキは訳が分からないといった様子で聞き返す。
「ミサキも見たでしょ。貴族街と平民街の違いを。見た目上の問題だけじゃない。さっきの2人組の女生徒の態度もそう。貴族は平民を蔑んでいるの。本来は守るべき対象なのにね。貴族のそんな態度が平民を怒らせて深い溝を作ってしまっている。この溝は簡単に埋まらない。それならいっそーー」
マイアがそこまで言ったところで、ミサキは純粋な眼差しでマイアに問いを投げかける。
「姐さんはどうしたいんすか? この国を壊したい? それともテッペンを獲って皆の溝を埋めたいんすか?」
マイアは虚を突かれたように体を強張らせる。
そして、いつもの堂々たる口調ではなくポツリと言葉を吐き出した。
「わ、私は………この国を…………壊したくないっ……! だって……私、この国が大好きなの……」
そこまで聞いたミサキはにかっと笑いマイアに手を差し伸べる。
「じゃあ、姐さん。この国のテッペン獲っちゃいましょう! そんで、姐さんが大好きな国をもっとでっかくしましょう!」
きょとんとした顔でミサキの方を見上げるマイア。アメリアはまだ状況に追いついていないようだ。
ふと、マイアが笑う。
その笑みはいつものような公爵令嬢の気品あるものではなく、どこかやんちゃな娘が浮かべるそんな笑みだった。
「ええ、そうね。何を迷っていたのかしら。王国が腐っているなら私が叩き直せばいいだけの話よね!」
そうっすよ、とミサキが返すとようやくアメリアは状況を掴めてきたようで、
「はわわわわ、お嬢様、何をなさるおつもりですか⁉︎ そんなことしたら、そんなことしたらぁ」
と慌てふためいた。
そんな様子を見て。ミサキとマイアの2人は屈託のない笑顔を浮かべた。それは2人の悪ガキが悪巧みをしているときのようにも感じられた。
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