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断崖絶壁 別々の道へ
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1月も中頃になっていた。
理恵は今朝も後ろからつかず離れずついてくる茂に気づき、とうとう足を止めくるりと身体の向きを変えると、自分から茂の元に歩み寄り、
「いい加減にしてよね、私あなたのこと、なんとも思っていないんだから、もう二度と私の前に姿を見せないで!」
はっきり言うと翻り、急ぎ足で医院に駆け込んだ。
そんなことがあり、いつもより出勤時間が遅くなっていた。
昼休み、奈津子とひとみに朝の茂との件を話したのだったが、ひとみは不安に思っていた。
ひとみは以前付き合っていた男にストーカーをされたことがあった。
ひとみの方から別れを言い出したのだったが、別れ方が悪かったのか、スッキリ別れることができず男はなかなかしつこかった。
ひとみは長い間追いかけられ怖い思いをしたのだった。
ひとみの場合は運良く、半年間後に男に新しい恋人ができて、ストーカー行為は終わったのだったが、茂はこのままで終わりそうな感じはなかった。
今朝の理恵の思い切った行動も気がかりだった。
それから2週間が過ぎていた。
理恵は浩一の誕生日プレゼントを買うため、奈津子とひとみに付き合ってもらい、仕事が終わった後商店街へと足を運んでいた。
「春からは彼スーツでしょう、まぁ今もそうだけれど。プレゼントはネクタイにしようと思うの」
嬉しそうにそう言って2、3件の店を回った後お洒落なネクタイを一本選んだ。
奈津子は結婚式が3月12日に決まったので、2月いっぱいで仕事を辞める事になり、今日仕事の帰りに院長に退職願いを出した。
後1ヶ月でこの仕事場に来る事もなくなるのかと思うと、少し寂しい気持ちもした。
母がせめて家で一緒に嫁入り支度をしたいと言うので、3月1日には実家に帰り甘える事にした。
シェアしていたアパートはひとみが一人暮らしになると家賃が高くなるので、ひとみは奈津子の引っ越しの日に邦彦の所に引っ越し、仕事は続ける予定である。
理恵は福本としばらくの間遠距離恋愛になるが、1年ほどで結婚したいと話していた。
3人が別々の道に、夢と希望を持って進み始めていた。
福本へのプレゼントを買い、ご飯でも食べて帰ろうかとレストランを探しながらあてもなく商店街の中を歩いていた。
「最近茂さんどう?」
何気なくひとみが聞いた。
ひとみは気になっていた。
茂の姿をこの4、5日見ていない気がしていた。
「ううん別に、私10日ほど前にはっきり言ったから最近は顔見ないわ。気持ち悪いよねーあんなに付き纏われたら。わたしが言ったこと分かってくれたのかなぁ」
理恵は気楽に言った。
「そう、、、」
ひとみの声のトーンは心なし力が無かった。
奈津子はひとみの心配している意味が判ったが、理恵があまり気にしていない様子だったので、その事には触れなかった。
ひとみは茂が簡単にストーカーを止めるとは思えなかったが、最近見かけないことは事実だし、自分の考え過ぎかと思ったその時だった、突然前から真っ直ぐに男が走って来た。
「えっ、ぶつかる!」
3人がそう思った瞬間である。
男は真っ直ぐに理恵に向かって来た。
そして理恵の腹部をしっかり握っていた包丁で思いっきり刺した。
アーケードの床のタイルがすぐに一面赤く染まった。
奈津子とひとみは呆然と立ちつくしなにが起こったのか理解出来ていなかった。
男は倒れそうになる理恵を腕に抱きとめ、顔に頬擦りした。
その時初めて奈津子とひとみは男が茂だと気づいた。
「きゃー」
誰かの叫び声で2人は我に帰った。
理恵は茂の腕の中で動かなかった。
1月31日、理恵の命日になった。
3人は知らなかったが、茂は理恵からの手紙を受け取った後しばらくして心の病になり早くに船を降りていた。
病院で治療をし、12月中頃に退院して家に戻って来た。
理恵へのストーカーはその頃から始まった。
一人娘を失った理恵の母に掛ける言葉は見つからなかった。
邦彦は辛い現場を目撃したひとみを心配して、仕事を辞めさせた。
入籍はしていないが2人で暮らす事にした。
智之もまた、奈津子を心配し広島に連れ帰った。
3月12日に決まっていた結婚式はせず、入籍だけにし2人で暮らし始めた。
理恵は今朝も後ろからつかず離れずついてくる茂に気づき、とうとう足を止めくるりと身体の向きを変えると、自分から茂の元に歩み寄り、
「いい加減にしてよね、私あなたのこと、なんとも思っていないんだから、もう二度と私の前に姿を見せないで!」
はっきり言うと翻り、急ぎ足で医院に駆け込んだ。
そんなことがあり、いつもより出勤時間が遅くなっていた。
昼休み、奈津子とひとみに朝の茂との件を話したのだったが、ひとみは不安に思っていた。
ひとみは以前付き合っていた男にストーカーをされたことがあった。
ひとみの方から別れを言い出したのだったが、別れ方が悪かったのか、スッキリ別れることができず男はなかなかしつこかった。
ひとみは長い間追いかけられ怖い思いをしたのだった。
ひとみの場合は運良く、半年間後に男に新しい恋人ができて、ストーカー行為は終わったのだったが、茂はこのままで終わりそうな感じはなかった。
今朝の理恵の思い切った行動も気がかりだった。
それから2週間が過ぎていた。
理恵は浩一の誕生日プレゼントを買うため、奈津子とひとみに付き合ってもらい、仕事が終わった後商店街へと足を運んでいた。
「春からは彼スーツでしょう、まぁ今もそうだけれど。プレゼントはネクタイにしようと思うの」
嬉しそうにそう言って2、3件の店を回った後お洒落なネクタイを一本選んだ。
奈津子は結婚式が3月12日に決まったので、2月いっぱいで仕事を辞める事になり、今日仕事の帰りに院長に退職願いを出した。
後1ヶ月でこの仕事場に来る事もなくなるのかと思うと、少し寂しい気持ちもした。
母がせめて家で一緒に嫁入り支度をしたいと言うので、3月1日には実家に帰り甘える事にした。
シェアしていたアパートはひとみが一人暮らしになると家賃が高くなるので、ひとみは奈津子の引っ越しの日に邦彦の所に引っ越し、仕事は続ける予定である。
理恵は福本としばらくの間遠距離恋愛になるが、1年ほどで結婚したいと話していた。
3人が別々の道に、夢と希望を持って進み始めていた。
福本へのプレゼントを買い、ご飯でも食べて帰ろうかとレストランを探しながらあてもなく商店街の中を歩いていた。
「最近茂さんどう?」
何気なくひとみが聞いた。
ひとみは気になっていた。
茂の姿をこの4、5日見ていない気がしていた。
「ううん別に、私10日ほど前にはっきり言ったから最近は顔見ないわ。気持ち悪いよねーあんなに付き纏われたら。わたしが言ったこと分かってくれたのかなぁ」
理恵は気楽に言った。
「そう、、、」
ひとみの声のトーンは心なし力が無かった。
奈津子はひとみの心配している意味が判ったが、理恵があまり気にしていない様子だったので、その事には触れなかった。
ひとみは茂が簡単にストーカーを止めるとは思えなかったが、最近見かけないことは事実だし、自分の考え過ぎかと思ったその時だった、突然前から真っ直ぐに男が走って来た。
「えっ、ぶつかる!」
3人がそう思った瞬間である。
男は真っ直ぐに理恵に向かって来た。
そして理恵の腹部をしっかり握っていた包丁で思いっきり刺した。
アーケードの床のタイルがすぐに一面赤く染まった。
奈津子とひとみは呆然と立ちつくしなにが起こったのか理解出来ていなかった。
男は倒れそうになる理恵を腕に抱きとめ、顔に頬擦りした。
その時初めて奈津子とひとみは男が茂だと気づいた。
「きゃー」
誰かの叫び声で2人は我に帰った。
理恵は茂の腕の中で動かなかった。
1月31日、理恵の命日になった。
3人は知らなかったが、茂は理恵からの手紙を受け取った後しばらくして心の病になり早くに船を降りていた。
病院で治療をし、12月中頃に退院して家に戻って来た。
理恵へのストーカーはその頃から始まった。
一人娘を失った理恵の母に掛ける言葉は見つからなかった。
邦彦は辛い現場を目撃したひとみを心配して、仕事を辞めさせた。
入籍はしていないが2人で暮らす事にした。
智之もまた、奈津子を心配し広島に連れ帰った。
3月12日に決まっていた結婚式はせず、入籍だけにし2人で暮らし始めた。
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