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断崖舞踏 ひとみの恋
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ひとみは、週末の土曜日には通い妻のように足げく克也のアパートへ通った。
途中、スーパーに立ち寄り、夕飯の握り寿司や、唐揚げ、お好み焼きなどを買うのが決まりだった。
彼と一緒に食べ、一緒にお風呂に入って、それからセックスをして、朝もう一度彼に抱かれて、日曜日だから他に用事がなければ、一日中彼のベッドの中にいて、夜になってアパートまで送ってもらう日々だった。
克也と付き合いはじめて1年が過ぎていた。
ある日、克也の車の助手席シートの隙間に、自分のものではない口紅が一本落ちていた。
克也を問い詰める事はしなかった。
外国製のブランド品である。
その口紅を持つ女性にひとみは心当たりがあった。
同じ歯科医院に3ヶ月前、ハローワークの紹介で来た歯科衛生士の津田弘子の物に違いなかった。
弘子は積極的に恋の行動を取る女性で、克也が自分の好みのタイプだったので、猛アタックし押しかけて寝とった。
日曜日の夜、ひとみが克也のアパートを出たのち、克也は弘子を迎えに行き、2人で克也のアパートに帰る。
ひとみが降りた克也の車の助手席に弘子が座る。
ひとみとさっきまで一緒にいたベッドで弘子と過ごす。
弘子は、克也に付き合っている女性がいる事はわかつていた。
相手が誰かは知らなかったが、その相手が誰であろうと、奪うつもりだったし、その自信もあった。
口紅は、わざと落とした。
彼女に自分の存在を気づかせる為である。
中山歯科医院の昼休みの休憩室、化粧直しを始める弘子の化粧ポーチの中から、これみよがしにブランドの化粧品が姿を覗かせている。
弘子の高級な化粧品は誰もが知るところであった。
女のカンは鋭い。
「どこまでの関係かしら、、、」
ひとみは気に掛かりながらもズルズルと克也との関係を続けていた。
「子供が出来ないように気をつけてね」
泊まりに行く時には、奈津子に何度もそう言われて送り出されていたのだが、今月生理が来なかった。
悩んでいたある日、ひとみは克也の部屋で覚えのない避妊具を見つけた。
克也と弘子の関係はもうわかりきってしまった。
ひとみは好きになった男とはほとんど関係を持った。
男からは振られた事もあるし、自分から振った事もある。
沢山経験がある分、愛が無くなった男と女が、ただセックスのためだけに繋がっているのは嫌だった。
あまりに動物的に思えた。
子供が出来た事だけで克也を縛ったところで、長続きする事はない。
一年付き合って克也の性格は大体分かった。
弘子とのことだって、普通彼女がいたら迫られても関係は持たないだろう。
結局、誰でも良かったのかと疑うようになっていた。
「別れ時かもー」
そう思った。そしていつ切り出そうかと悩んでいた。
いつの間にか克也とは距離が出来ていた。
盆休みの8月14日、朝から3人は長崎に向かった。
こうして中山歯科医院仲良し三人が揃って旅行するのは久しぶりである。
「何年前だったかしら、皆で鳴門の渦潮見にいったのは」
「あの時台風だったのよね」
「そうそう、恐ろしかった、あの時風が強くて、、、」
奈津子とひとみはそんなやりとりをして、すぐに旅行気分になっているようだ。
そして、しっかりと二泊分の服も用意していた。
理恵は軽装備だった。
何としても手短に話をつけて早々に帰りたいという気持ちが表れていた。
松山から広島に渡り、新幹線で博多へ。
博多で乗り換え、長崎へと向かう。
真夏の太陽はすでにパワー全開となり、新幹線広島駅のプラットホームや駅ビルの白壁をジリジリと焦がしていた。
盆でどこも混んでいたが、長崎市内のホテルは何とか取ることができた。
昨夜
「3日前に長崎に入った」
と茂から理恵の携帯に電話があり、今日行く事も茂に連絡がついた。
午後過ぎ、3人は
長崎の駅に着いた。
理恵は奈津子とひとみに急かされるように茂へ電話をした。
船はドックに入っていても茂は仕事がある様子で、
「夕方ホテルに行くからー」
と言って電話は切れた。
理恵に、浮かれた顔の表情は無い、
夕方までにはしばらく時間がある。
ホテルにチェックインを済ませ、部屋の中に荷物を入れた3人は、近場を2、3か所観光してホテルに戻った。
理恵は茂が来ると言っていたので、落ち着きをなくしていた。
「会わないほうがいいかも、、」
理恵の心が勝手に空回りしている。
奈津子は
「今更ダメよ」
と姉さん口調でなだめた。
「ねえ、今夜の食事どうする?」
ひとみが奈津子に聞いた。
「理恵さん、茂さんと2人で食事に行った方がいいわよね、ゆっくり話もできるでしょうし、私、ひとみと2人どこかで適当に済ますわ。」
奈津子が言い終わらないうちに、
「イヤ!、一緒に行って。私茂さんと2人っきりってイヤよ。食事だけでもいいからつきあつてよ。」
理恵は困っていた。
正直なところ理恵の心には茂はもういない。
すでに顔も思い出せないほど、記憶から消し去られていた。
ここまで来なくても理恵の気持ちは決まっていた。
しかし自分を納得させる事実が必要であった。
結局、食事は皆でー。ということになり、茂が来るのを待って、4人で夕食を食べに出かけることになった。
日が暮れた頃に茂が来た。
彼はこの人数に戸惑った様子だったが、食事は長崎では有名な中華街に連れて行った。
奈津子とひとみは次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ち、珍しい料理を堪能することに忙しく、気まずい沈黙を味わうことなく済んだ。
早めに食事を済ませると、奈津子とひとみは2人に気を利かせ、料理店を出ることにした。
夜の街をぶらぶらしてホテルまで歩いて帰ると告げて、2人は席を立った。
途中、スーパーに立ち寄り、夕飯の握り寿司や、唐揚げ、お好み焼きなどを買うのが決まりだった。
彼と一緒に食べ、一緒にお風呂に入って、それからセックスをして、朝もう一度彼に抱かれて、日曜日だから他に用事がなければ、一日中彼のベッドの中にいて、夜になってアパートまで送ってもらう日々だった。
克也と付き合いはじめて1年が過ぎていた。
ある日、克也の車の助手席シートの隙間に、自分のものではない口紅が一本落ちていた。
克也を問い詰める事はしなかった。
外国製のブランド品である。
その口紅を持つ女性にひとみは心当たりがあった。
同じ歯科医院に3ヶ月前、ハローワークの紹介で来た歯科衛生士の津田弘子の物に違いなかった。
弘子は積極的に恋の行動を取る女性で、克也が自分の好みのタイプだったので、猛アタックし押しかけて寝とった。
日曜日の夜、ひとみが克也のアパートを出たのち、克也は弘子を迎えに行き、2人で克也のアパートに帰る。
ひとみが降りた克也の車の助手席に弘子が座る。
ひとみとさっきまで一緒にいたベッドで弘子と過ごす。
弘子は、克也に付き合っている女性がいる事はわかつていた。
相手が誰かは知らなかったが、その相手が誰であろうと、奪うつもりだったし、その自信もあった。
口紅は、わざと落とした。
彼女に自分の存在を気づかせる為である。
中山歯科医院の昼休みの休憩室、化粧直しを始める弘子の化粧ポーチの中から、これみよがしにブランドの化粧品が姿を覗かせている。
弘子の高級な化粧品は誰もが知るところであった。
女のカンは鋭い。
「どこまでの関係かしら、、、」
ひとみは気に掛かりながらもズルズルと克也との関係を続けていた。
「子供が出来ないように気をつけてね」
泊まりに行く時には、奈津子に何度もそう言われて送り出されていたのだが、今月生理が来なかった。
悩んでいたある日、ひとみは克也の部屋で覚えのない避妊具を見つけた。
克也と弘子の関係はもうわかりきってしまった。
ひとみは好きになった男とはほとんど関係を持った。
男からは振られた事もあるし、自分から振った事もある。
沢山経験がある分、愛が無くなった男と女が、ただセックスのためだけに繋がっているのは嫌だった。
あまりに動物的に思えた。
子供が出来た事だけで克也を縛ったところで、長続きする事はない。
一年付き合って克也の性格は大体分かった。
弘子とのことだって、普通彼女がいたら迫られても関係は持たないだろう。
結局、誰でも良かったのかと疑うようになっていた。
「別れ時かもー」
そう思った。そしていつ切り出そうかと悩んでいた。
いつの間にか克也とは距離が出来ていた。
盆休みの8月14日、朝から3人は長崎に向かった。
こうして中山歯科医院仲良し三人が揃って旅行するのは久しぶりである。
「何年前だったかしら、皆で鳴門の渦潮見にいったのは」
「あの時台風だったのよね」
「そうそう、恐ろしかった、あの時風が強くて、、、」
奈津子とひとみはそんなやりとりをして、すぐに旅行気分になっているようだ。
そして、しっかりと二泊分の服も用意していた。
理恵は軽装備だった。
何としても手短に話をつけて早々に帰りたいという気持ちが表れていた。
松山から広島に渡り、新幹線で博多へ。
博多で乗り換え、長崎へと向かう。
真夏の太陽はすでにパワー全開となり、新幹線広島駅のプラットホームや駅ビルの白壁をジリジリと焦がしていた。
盆でどこも混んでいたが、長崎市内のホテルは何とか取ることができた。
昨夜
「3日前に長崎に入った」
と茂から理恵の携帯に電話があり、今日行く事も茂に連絡がついた。
午後過ぎ、3人は
長崎の駅に着いた。
理恵は奈津子とひとみに急かされるように茂へ電話をした。
船はドックに入っていても茂は仕事がある様子で、
「夕方ホテルに行くからー」
と言って電話は切れた。
理恵に、浮かれた顔の表情は無い、
夕方までにはしばらく時間がある。
ホテルにチェックインを済ませ、部屋の中に荷物を入れた3人は、近場を2、3か所観光してホテルに戻った。
理恵は茂が来ると言っていたので、落ち着きをなくしていた。
「会わないほうがいいかも、、」
理恵の心が勝手に空回りしている。
奈津子は
「今更ダメよ」
と姉さん口調でなだめた。
「ねえ、今夜の食事どうする?」
ひとみが奈津子に聞いた。
「理恵さん、茂さんと2人で食事に行った方がいいわよね、ゆっくり話もできるでしょうし、私、ひとみと2人どこかで適当に済ますわ。」
奈津子が言い終わらないうちに、
「イヤ!、一緒に行って。私茂さんと2人っきりってイヤよ。食事だけでもいいからつきあつてよ。」
理恵は困っていた。
正直なところ理恵の心には茂はもういない。
すでに顔も思い出せないほど、記憶から消し去られていた。
ここまで来なくても理恵の気持ちは決まっていた。
しかし自分を納得させる事実が必要であった。
結局、食事は皆でー。ということになり、茂が来るのを待って、4人で夕食を食べに出かけることになった。
日が暮れた頃に茂が来た。
彼はこの人数に戸惑った様子だったが、食事は長崎では有名な中華街に連れて行った。
奈津子とひとみは次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ち、珍しい料理を堪能することに忙しく、気まずい沈黙を味わうことなく済んだ。
早めに食事を済ませると、奈津子とひとみは2人に気を利かせ、料理店を出ることにした。
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