27年目の交差点

キラ

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親友との再会

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 多恵の結婚式当日、広美は松山市内に住む朝子と嫁ぎ先の広島から結婚式に出席するために戻ってきていた百合子の3人で、朝子の運転する車に乗り合わせ式場のある大洲市へと向かった。

 数ヶ月前に車の免許を取ったばかりだという朝子の、ノロノロ運転で、普通の人が1時間で走る距離を1時間半かかり目的地に着いた。

 時計を見ると招待時間ギリギリで慌てて式場に駆け込むと、多恵の親族から事情が出来て急に式がキャンセルになったことを告げられた。

 多恵の両親が寿席の金屏風の前で、深々と頭を下げた。
両親の憔悴ぶりが伺われた。

 新郎の方の出席者が1人も来ていない事で
、大体の事情を察することは出来たが、事実を知ったのは帰り道、車の中で朝子から、
「多恵、昨日の昼頃に出かけたまま家に戻っていないらしいわ。好きな男性がいてその人の所に行ったんじゃないかって、、、はなしたいる人がいた。」
と、聞かされた。

 それまで多恵が失踪したことには全く気づかなかった。
 朝子は多恵の親戚連中がヒソヒソ話しているのを耳にしたのだった。

「好きな男性が居て、彼と生きるために家を捨てる事ができるなんて、、、羨ましい」
百合子がポツリと呟いた。

 あの時、多恵のクルマが発見されたJR松山駅近くの駐車場は、今は無い。
 大きなビルが建っていた。

 松山の青い空を見上げながら広美は、
「あのまま多恵は失踪状態だろうか、、、でもなぜ?」
と今でも気にかかる。

 27年前のあの日、多恵には好きな男性が居て、その人の元へ行ったのだろうという言葉を信じた。
 それでも友達だもの、連絡くらいくれればいいのに。と思ったりもしたが、年月と共に忘れていた。
 白いボールを共に追いかけていた高校時代。
 南郡から来ていた多恵には少し言葉に方言があった。
 宇和島から来ていた智恵子にも訛りががあったが、多恵のそれとは又違っていた。

 多恵がいたら、、、今回の旅行もきっと参加していただろう。
 広美はそんなことを考えていた。


 約束の待ち合わせ時間は午後1時30分。 

 連絡を受けてから今日までの日々は短かったような、長かったような、、、皆に会うことへの嬉しさと不安、どうしようもない心の葛藤を持ったまま駅前を行き交う人々を眺めていた。

 後30分。
 広美は期待と緊張の面持ちで皆が来るのを待った。

「ひろみィ」
 突然張りのあるカン高い声が広美を呼んだ。
 声には覚えがある。
 バレー部でキャプテンをしていた浅野朝子である。
 身長は高い方では無かったが、人より優れたジャンプ力でそれを補っていた。

 広美は朝子面影を頭に抱き、声のする方へ振り返った。

 そこには朝子が、いや朝子であろうと思われる女性が広美に手を振りながら駆けてくるのが見えた。
 駆けてくるといえば軽やかに聞こえるが、少しバタバタという感じに見えるのは朝子のふくよかさからだろう。

「あさこ、、、?」
 広美は朝子の変わりように驚いた。

 智恵子とは松山市内にあるデパートで偶然出会ったと聞いていたが、智恵子は一目でこの女性が朝子だと気付いたのだろうか。だとすれば智恵子のカンの良さに敬服する。

 広美は近づいてくる朝子を見ながらそう思った。

「広美ったら全く変わっていないわねえ。すぐにわかったわ、それに比べて私ったら太ったでしょう」
 息を切らせながら屈託のない笑顔で話しかけると両手でしっかりと広美の手を握った。

 確かに朝子はぼつちやりさと太り、いやこの場合丸々と、といった方が正しいのかも知れない。

 細面だった顔は丸くなり、軽やかにジャンプしていたあの頃のしなやかな体型は、全く面影を残していない。
 
 朝子の、余りの変わりように目のやり場に困っていた広美に、
「ところで広美、今も独身なの?」
息を整えながら朝子が尋ねた。

 突然何ということを聞くのだ、と広美は思いながらも、
「ええ」
 笑顔で答えた。

「そお、さびしくはない?」

 全くデリカシーの欠片も無い。何年ぶりの再会だと思っているのよ。
 少しは気遣いも、遠慮もあって当然なのに、体型って、精神状態とかに関係あるのかしら。

 他人の心を思いやる気持ちの欠片も無い。と思った広美だったが、
「あまり思わないわ」
と、気にもかけていないかのように答えた。

 28年前、教員をしていた広美には同棲していた男性がいた。

 彼は刑事で多忙な日を送っていた。

 結婚を意識しなかった訳ではなかったが、チャンスを逃しずるずると平凡な生活を続けていた。

 そんなある日、広美は妊娠に気づいた。

 彼は喜び迷わず入籍しようと言い、その日を広美の25歳の誕生日にすることに決めた。

 その一週間前、彼は事件を追っていて、巻き込まれた子供を守ろうとして殉死した。

 そのショックで流産した広美は、子供と共に子宮も失った。

 一時は、彼と子供のもとに行きたいと、いきるきぼうもなくしていた広美だったが、彼の母親から、
「広美さんは息子の分まで生きてちょうだい」
 と励まされ、何とか立ち直った。

 彼が守った子供と同じくらいの年頃の子供を見ると、彼の事を思い出し胸が痛む。

 その辛さから、教職を離れ途中入社で銀行に勤めた。

 忙しい時は彼の事を忘れられるが、寂しくなると彼の墓前を訪ねる。

 結婚を勧めてくれる人も居たが、広美は今でも彼を忘れられないでいた。

 母も他界し相談する相手も、愚痴を言える相手もいなくなった今、今回の旅行の誘いは嬉しかった。

 有給の消化を理由に取った五日間の休暇である。
 仕事を忘れて楽しむつもりである。


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