上 下
24 / 29

鬼ごっこスタート

しおりを挟む




無駄に天井の高い講堂に全校生徒が集められている。
ザワザワとざわめく彼らは、楽しそうな上級生と周りの興奮に困惑している新入生に二分されていた。
事情を知る俺は、新入生どんまい……という感じだ。


「────諸君、静粛せいしゅくに」


突如、騒がしかった講堂内が水を打ったように静まり返る。
俺も、思わず背筋を伸ばした。

全生徒の視線が、壇上へと集まる。


(……さすがだ)


たった一言、そう長くない言葉ひとつで、生徒全員を惹き付けたのは、生徒会長である天城柊人だ。
さすが世界をまたにかける財閥の跡取り、オーラが違う。


「おはよう、諸君」


マイクを通して、講堂中に心地いい低音が響きわたる。
視界の隅で「耳がはらんだ……!」とかもだえてる奴らは、見なかったことにしよう。


「今年度が始まってはや一ヶ月……そろそろ新しい学年にも慣れてきた頃だろう。規則正しい生活は送れているか?」


(一番みだれた生活送ってるのは先輩だけどね)


思わずじと目で先輩の方を見てしまうが、当の本人はどこ吹く風、涼しい顔で清く正しい学校生活の大切さを説いている。
そんなに真面目に語れるなら、少しは自分の生活態度を見直してほしい。


「────さて、話はこれくらいにして、今日のメインへと移ろうか。
今日は新入生歓迎会だ。今年も例年通り、全校生徒参加の元でレクリエーションを行う。まず、ルール説明をするから、諸君……特に一年生は、よぉく聞いておけよ?」


ニヤリ、と笑って、俺のもとに視線が寄越される。
ほんっと楽しそうだなこの人。とんでもないドSだよ。
ああ、可哀想な一年生……でも俺にはどうすることもできないから、まあ頑張ってくれ。
なんて、他人事のように考えながらマイクを手に持つ。


「では、こちらからルール説明をさせていただきます。今回行うレクリエーションは鬼ごっこです。一年生が逃げる側、二、三年生が鬼になります。
ルールは普通の鬼ごっことほとんど同じです。鬼に触れられた人は『捕まった』と判断し、捕まった一年生と捕まえた鬼はその時点でゲームから抜けて下さい。制限時間の二時間が経つ、もしくは一年生が全員捕まったところでゲーム終了となります。
……ここまで、なにか質問はありますか?」


ぐるり、と生徒達を見渡すが、特に変わった様子はない。
実際、ここまでは逃げる側がちょっと不利な普通の鬼ごっこだ。
一年生達も特に疑問に思う部分はないのだろう。二、三年生は……うん、これからの展開を知っているからソワソワ、ニヤニヤしてる。ほんとクズばっかだな……。


「……よろしいですね。
では、これが一番重要なルールになりますが────『鬼は捕まえた人に何でも一つ命令ができる』という特別ルールがあります。
捕まった人に拒否権はありませんので、『変なこと』をされたくなければ死ぬ気で逃げてください」


笑顔で締めくくり、マイクを下ろす。
一瞬の静寂の後、生徒たちの間に大きなざわめきが広がった。


「よっしゃー!!ぜってぇ好みの奴捕まえる!!」

「あー、命令何にしよっかなー!」


「め、命令……?ってどゆこと?」

「何でもってまじで何でもかよ!?」

「死ぬ気で逃げないと……!」


同じ騒がしさでも、歓喜に打ち震える二、三年生と恐怖におののく一年生とでは、空気が全く違う。
「どうせゲームだ」とナメてかかっていた一年も、この異様な空気に事の重大さを理解し始めたらしい。

けれど、理解したところで逃げられはしないのだ。


「では、新入生のみなさん、鬼は五分待ちますので────健闘をお祈りいたします」


俺のその言葉が合図となり、講堂の扉が大きく開け放たれる。
するとすぐに、顔を青くした新入生達が我先にと駆け出していった。
その光景を眺めながら、俺も憂鬱ゆううつな気持ちでこっそりとため息をつく。


(……始まってしまった)

地獄の、鬼ごっこが。


はたして俺の胃は、最後までもつだろうか……。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

人生イージーモードになるはずだった俺!!

抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。 前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!! これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。 何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!? 本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。

超絶美形な俺がBLゲームに転生した件

抹茶ごはん
BL
同性婚が当たり前に認められている世界観のBLゲーム、『白い薔薇は愛の象徴となり得るか』略して白薔薇の攻略対象キャラである第二王子、その婚約者でありゲームでは名前も出てこないモブキャラだったミレクシア・サンダルフォンに生まれ変わった美麗は憤怒した。 何故なら第二王子は婚約者がいながらゲームの主人公にひとめぼれし、第二王子ルートだろうが他のルートだろうが勝手に婚約破棄、ゲームの主人公にアピールしまくる恋愛モンスターになるのだ。…俺はこんなに美形なのに!! 別に第二王子のことなんて好きでもなんでもないけれど、美形ゆえにプライドが高く婚約破棄を受け入れられない本作主人公が奮闘する話。 この作品はフィクションです。実際のあらゆるものと関係ありません。

親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!

BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥ 『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。 人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。 そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥ 権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥ 彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。 ――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、 『耳鳴りすれば来た道引き返せ』

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

弟は僕の名前を知らないらしい。

いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。 父にも、母にも、弟にさえも。 そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。 シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。 BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

眠り姫

虹月
BL
 そんな眠り姫を起こす王子様は、僕じゃない。  ただ眠ることが好きな凛月は、四月から全寮制の名門男子校、天彗学園に入学することになる。そこで待ち受けていたのは、色々な問題を抱えた男子生徒達。そんな男子生徒と関わり合い、凛月が与え、与えられたものとは――。

処理中です...