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トラブルメーカー
しおりを挟む静かな部屋の中、書類をめくる音とペンを動かす音だけが聞こえる。
しかし、そんな静けさをぶち壊すように、ポケットからブー、とバイブ音がなった。
「……はぁ」
誰もいないのをいいことに、大きくため息をついて、スマホの画面を開く。
新着のメッセージの文面に目を通して、想像通りの内容にもう一度ため息をついた。
さっと机の上を軽く片付けて、重い腰を上げる。
席から立ち上がったところで、バタン、と勢いよく扉が開いた。
普段ならノックもなしにそんなことをされたら心の中でブチ切れるところだが、今回ばかりは許してやろう。
「副委員長!!転校生が……!」
そう泣きそうな顔で伝えてくる風紀委員の彼が、少し可哀想だったから。
「ええ、今行こうとしていたところです」
そう頷いて見せれば、明らかに安堵したような様子の男子生徒を横目に、足早に風紀室を出る。
(……待ってろよ、転校生!!!)
俺の仕事を邪魔した罪は重い。
あれ昨日徹夜でがんばったやつなのに……!
期限に間に合わなかったらどうしてくれるんだ!
ーーーーー
「────で?これはどういう状況ですか?」
目の前で繰り広げられるカオスな光景に、遠い目をしながら聞いてみる。
「話すと長くなるんですけど……原因はまた『アレ』ですね」
連絡をくれた雪見が、隣で同じく遠い目をしながら転校生を指差した。
「……それは聞かなくてもわかります」
「ですよね」
とりあえず、今にも転校生に殴りかかりそうな生徒達を止めようか。
「あ、伊織くん!」
声をかけようと近づいて行ったが、俺が何か言う前に、転校生が俺に気づいて声を上げた。
「げ、風紀だ!」
「や、やば……!」
転校生を取り囲んでいた生徒達は、風紀委員の腕章に気づくと、そそくさと逃げていく。
もう顔はバッチリ覚えたから、逃げても無駄だけどな!!!
「大丈夫ですか?小鳥遊くん」
「僕は大丈夫!伊織くんが助けてくれたおかげだよ~。ありがとう!」
ニコニコと無邪気に笑う転校生、小鳥遊 宙は本当に『大丈夫』らしい。
あんな風に複数の生徒に囲まれて、もうすぐで殴られそうになっていたのに、全く危機感がないのが逆に怖い。どんだけメンタル強いんだ……。
「大丈夫なのは何よりですが……今度は何があったんですか?もうこれで今週3度目ですよ」
「いつもと同じだよ。また、生徒会のみんなと喋っちゃダメ!って言われちゃった。別に、僕は友達とお喋りしてるだけなのになぁ……」
それがダメなんだよ。
────そう、言ってしまえれば、楽なのだけれど。
親衛隊を持っている人や役職持ちには気安く話しかけてはいけないこと、様付けで呼ばなければいけないこと、廊下で呼び止めてはいけないこと。
暗黙のルールであるそれらは、この学園の生徒、特に内部生にとっては守って当たり前な常識だ。
とはいえ、それを知らなかったとしても、空気の読める人間ならば『そういうもの』として受け入れられる。
だが、小鳥遊は違う。
たぶん、素直すぎるがゆえに、真っ直ぐすぎるがゆえに、自分が理解できないルールに従わない。
彼の中では『ただ友達と喋ってるだけ』で、悪いことだなんてこれっぽっちも思っていないのだ。
そして、他の生徒にとっては、その悪びれない態度が余計に神経を逆撫でするのだろう。
(こいつらが和解することは永遠にないだろうから、俺たちが取れる手段としては、こうやって揉め事を一個ずつ潰していくしかないんだよな。
大もとをどうにかできたら楽なんだけど、小鳥遊にそれを期待できるとは思えない……。それなら、まだ他の生徒達が諦めるのを待つ方が早い気がする)
「……はぁ。僕たち風紀からも注意はしておきますが……あなたも気をつけてくださいね」
どうせ気をつけないだろうけど。
ダメもとで言っておこう。
「うん、わかった!……心配してくれてありがと、伊織くん!」
「いえいえ」
別にお礼を言われるようなことはしていない。
君を心配してるんじゃなくて、仕事が増えることと、それによってすり減らされる俺の胃を心配してるだけだから。
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