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29話 低血糖
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某日、レイナがフルリスの町を呑気に渡り歩きまわっているころ、世間は花の国ノルペの騒動に震撼していた__
######
とある神官Side
これは一体、どういうことでしょう。
あの瑞枝の槍とも歌われるAランクの冒険者、その愛しき君である呪われし華と、その義妹の麗しの毒、そのどちらの高濃度な邪気と呪いの消滅を確認した。
瑞枝の槍ことゲルク・モーラントに解呪申請を申し出され、神殿としても彼女たちは町の脅威になりかねないということで、当初は協力に応じるつもりだった。
だが、いかんせん麗しの毒君……リィーム・レベリアの呪いが強力過ぎた。
呪い魔法自体とても強力な魔法であるのに、彼女の生来的な魔力量の豊富さや、特殊なスキルによりこちらの人手や彼の資金面、解呪そのものが難航し下手に出れない状態が続いた。
ただことの成行を見守るしか術がなく、せいぜい我々に出きることは結界を強化し呪いの効果を弱めることだった。
なのに、なのにだ___、あれだけ我々が出来なかった呪いそのものの消滅反応を確認できただなんて。
……これは一度、魔道省に報告せねばなりませんね。
「ゲルク・モーラントにも話を聞かなければ」
これは世界を変え得るほどの奇跡だ。
まるで、天の報せのように___
######
同刻、そんな世間の騒がしさなど露知らず、レイナは腹ペコな急病人に急いで有り合わせで作ったサンドイッチとスープを用意して例のエルフに食介を行っていた。
たぶん低血糖でも起こしてるのだろう、若干手足の震えと顔色が思わしくなかったためこの世界では高級品に分類されるクリティカルビーの蜂蜜をスプーン一匙分を舐めさせた。
様子を見つつ水分を与えていたらずいぶんと顔色も落ち着いてきて食事を与えようと温め直したスープとスプーンを持たせたが、まだ手の震えが止まらなそうで代わりに私が食事を与えている。
「申し訳ありません、助かりました……」
「いやいや、お気になさらず」
色々と聞きたいことはある気がするが、落ち着いて何よりだ。
スラリと長く伸びた細い指先をしっとりとした優しい手付きで先ほど渡した果実水を入れた木製のコップを持つ。
伏し目がちな美しい顏は日陰にいるというのに白金色の髪の毛と長い睫をキラキラと輝かせている。そこから覗く瞳はのどかで美しい緑色をしている。
先ほどからだんまりを決め込んでいるエルフの彼にお互いそろそろ黙っていても埒が明かないだろうとレイナが先に声をかける。
「それにしても、なぜこんな町にいるんですか?」
切り出しかたが下手くそすぎると我ながら思わなくもないが、真っ先に聞きたいことなんてそれくらいだ。名前とか年齢は言わずもがな、先ほど体調を確認したときに開示のスキルで"たまたま"!!マジで"たまたま"!!!!見えてしまってそれよりも己の好奇心が上回った。
それでもこちらを穏やかながらジッと静かに見つめる緑の瞳は流石誇り高き種族なだけあって私から先に名乗れと目で訴えてくる。
いや、先に助けを求めたのはアンタやろがいと思わなくもないが種族的なものでもあるし私も観念して先に名乗る。
「あー、私はレイナ、レイナ・シドウです。 貴方のお名前を伺ってもいいですか?」
「私は、アルフィー・ロド・ウォベーレ。 改めて、この度は助けていただき感謝致します……」
「ウォベーレさん、気分はもうよろしいですか? 他になにか必要なものはありますか?」
「えぇ、お陰さまで。 必要なもの、というより気になることが一点……」
「なんですか?」
「……貴女はウィリアンではないのですか?」
「ぶっッッッ!!!!!ゴホゴホッッッ!!!!!」
ウォベーレさんから盛大な爆弾をいただき、己の思考がぐるぐると急速に回転するのを感じる。
え、えっ???いつバレた???最悪というか名前に関してはまだいいけど、なんで性別???えっ明らかに『貴女』っていったよね????えっ、ま????まっ????まぁ?????
「大丈夫ですか?」と先ほどとは立場が逆転し、彼が控えめに背中を擦ってくれてなんとか呼吸が落ち着く。
内心荒ぶりまくりだがそれをおくびに出さないよう先ほど吹き出した口許を拭う。
性別に関してはかなり細心の注意を払っていたはずだ。
特に女性はこの世界では同伴者なしで一人で出歩くのをよしとしない。旅や冒険なんてもってのほか、あってもパーティー系か何かしらの同伴者やパートナーありきの世界だ。それもごく少数。
最初は男尊女卑なのかとも思ったが、案外女尊男卑な部分もあるし、この世界の女性の立ち位置を一人で理解し続けるのは苦労したし、未だにわからないところが多い。
でもたぶんこの人(エルフ)とはあくまで初めて出会ったはずだけど、何ゆえにバレた?
開示スキルも"たまたま"見えただけであって、本当にこの人個人のスキル情報は見ていない。恐ろしいことだが、きっと彼にはシャルネさんのところで施した肉体生成による男性の身体ということがバレている。
驚きを隠しつつも呼吸を整え、彼の方を見る。やはり、美しい緑色の瞳は穏やかながらいまは心配そうにこちらを見ている。
「ゴホゴホッ、っはぁー……すいません、急に噎せたりして」
「いいえ、とんでもありません」
「ありがとうございます……あー、あの、こんなところでは何ですし場所移りませんか?」
「えぇ……私も"貴女"とはもう少し深くお話しさせていただきたかったので」
そう言うと彼はおもむろに立ち上がり、最終日となった私の店の片付けを率先して行い、彼の泊まっている宿へと案内された。
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とある神官Side
これは一体、どういうことでしょう。
あの瑞枝の槍とも歌われるAランクの冒険者、その愛しき君である呪われし華と、その義妹の麗しの毒、そのどちらの高濃度な邪気と呪いの消滅を確認した。
瑞枝の槍ことゲルク・モーラントに解呪申請を申し出され、神殿としても彼女たちは町の脅威になりかねないということで、当初は協力に応じるつもりだった。
だが、いかんせん麗しの毒君……リィーム・レベリアの呪いが強力過ぎた。
呪い魔法自体とても強力な魔法であるのに、彼女の生来的な魔力量の豊富さや、特殊なスキルによりこちらの人手や彼の資金面、解呪そのものが難航し下手に出れない状態が続いた。
ただことの成行を見守るしか術がなく、せいぜい我々に出きることは結界を強化し呪いの効果を弱めることだった。
なのに、なのにだ___、あれだけ我々が出来なかった呪いそのものの消滅反応を確認できただなんて。
……これは一度、魔道省に報告せねばなりませんね。
「ゲルク・モーラントにも話を聞かなければ」
これは世界を変え得るほどの奇跡だ。
まるで、天の報せのように___
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同刻、そんな世間の騒がしさなど露知らず、レイナは腹ペコな急病人に急いで有り合わせで作ったサンドイッチとスープを用意して例のエルフに食介を行っていた。
たぶん低血糖でも起こしてるのだろう、若干手足の震えと顔色が思わしくなかったためこの世界では高級品に分類されるクリティカルビーの蜂蜜をスプーン一匙分を舐めさせた。
様子を見つつ水分を与えていたらずいぶんと顔色も落ち着いてきて食事を与えようと温め直したスープとスプーンを持たせたが、まだ手の震えが止まらなそうで代わりに私が食事を与えている。
「申し訳ありません、助かりました……」
「いやいや、お気になさらず」
色々と聞きたいことはある気がするが、落ち着いて何よりだ。
スラリと長く伸びた細い指先をしっとりとした優しい手付きで先ほど渡した果実水を入れた木製のコップを持つ。
伏し目がちな美しい顏は日陰にいるというのに白金色の髪の毛と長い睫をキラキラと輝かせている。そこから覗く瞳はのどかで美しい緑色をしている。
先ほどからだんまりを決め込んでいるエルフの彼にお互いそろそろ黙っていても埒が明かないだろうとレイナが先に声をかける。
「それにしても、なぜこんな町にいるんですか?」
切り出しかたが下手くそすぎると我ながら思わなくもないが、真っ先に聞きたいことなんてそれくらいだ。名前とか年齢は言わずもがな、先ほど体調を確認したときに開示のスキルで"たまたま"!!マジで"たまたま"!!!!見えてしまってそれよりも己の好奇心が上回った。
それでもこちらを穏やかながらジッと静かに見つめる緑の瞳は流石誇り高き種族なだけあって私から先に名乗れと目で訴えてくる。
いや、先に助けを求めたのはアンタやろがいと思わなくもないが種族的なものでもあるし私も観念して先に名乗る。
「あー、私はレイナ、レイナ・シドウです。 貴方のお名前を伺ってもいいですか?」
「私は、アルフィー・ロド・ウォベーレ。 改めて、この度は助けていただき感謝致します……」
「ウォベーレさん、気分はもうよろしいですか? 他になにか必要なものはありますか?」
「えぇ、お陰さまで。 必要なもの、というより気になることが一点……」
「なんですか?」
「……貴女はウィリアンではないのですか?」
「ぶっッッッ!!!!!ゴホゴホッッッ!!!!!」
ウォベーレさんから盛大な爆弾をいただき、己の思考がぐるぐると急速に回転するのを感じる。
え、えっ???いつバレた???最悪というか名前に関してはまだいいけど、なんで性別???えっ明らかに『貴女』っていったよね????えっ、ま????まっ????まぁ?????
「大丈夫ですか?」と先ほどとは立場が逆転し、彼が控えめに背中を擦ってくれてなんとか呼吸が落ち着く。
内心荒ぶりまくりだがそれをおくびに出さないよう先ほど吹き出した口許を拭う。
性別に関してはかなり細心の注意を払っていたはずだ。
特に女性はこの世界では同伴者なしで一人で出歩くのをよしとしない。旅や冒険なんてもってのほか、あってもパーティー系か何かしらの同伴者やパートナーありきの世界だ。それもごく少数。
最初は男尊女卑なのかとも思ったが、案外女尊男卑な部分もあるし、この世界の女性の立ち位置を一人で理解し続けるのは苦労したし、未だにわからないところが多い。
でもたぶんこの人(エルフ)とはあくまで初めて出会ったはずだけど、何ゆえにバレた?
開示スキルも"たまたま"見えただけであって、本当にこの人個人のスキル情報は見ていない。恐ろしいことだが、きっと彼にはシャルネさんのところで施した肉体生成による男性の身体ということがバレている。
驚きを隠しつつも呼吸を整え、彼の方を見る。やはり、美しい緑色の瞳は穏やかながらいまは心配そうにこちらを見ている。
「ゴホゴホッ、っはぁー……すいません、急に噎せたりして」
「いいえ、とんでもありません」
「ありがとうございます……あー、あの、こんなところでは何ですし場所移りませんか?」
「えぇ……私も"貴女"とはもう少し深くお話しさせていただきたかったので」
そう言うと彼はおもむろに立ち上がり、最終日となった私の店の片付けを率先して行い、彼の泊まっている宿へと案内された。
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