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21話 平和ボケしたような余裕
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騎士団の詰所に戻ったマルクは報告書をまとめながら鬱々とした気持ちで先日のことを考えていた____
ヴィクトールが騎士団を退職したあと、次の騎士団長の座に就任したのがマルク・ロバートだった。
マルクはヴィクトールが騎士団に在籍中、実力が伸び悩み停滞していたところをヴィクトールの苛烈な修行や訓練を受け、それらを堪え忍びSランクまで上り詰めたれっきとした実力ある人間だ。
だからこそ、己の師事する親のような、兄のような存在のヴィクトールが今回なにを思ってあの少年を彼と同じ伝説のSSSランクの冒険者だと位置付けたのか、俺には理解できなかった。
俺には、剣しかない__
俺は魔力はそこそこあるが、元々使える適正の所持魔法やスキルが少なく、精々生まれ持った肉体強度を更にスキルで補うか、適正魔法で強化して戦う。
それだって本来魔法で肉体強化を施す騎士団からしたら息をするように当たり前のことで、獣人や魔族には到底及ばない。
そもそもの話し、魔法を器用に使いこなせるヤツがレアな時点で今回の調査も難航してたし、たまたま冒険者になって任務で近場に来ていたヴィクトールがあの場に居なかったら調査はもっと難航していただろう。
俺なんかよりも天賦の才があるやつなんてこの国には大勢いる。
魔力は持っていても、それを扱う技量がなければなんの意味がない。
それこそ魔法を使うやつは魔法を使ってるやつをある程度感知が出来る。
獣人とまではいかないが、やはり同族は同族の方に意識がいきやすい。
使った魔法や属性、術などが分かる残滓・痕跡感知は魔術師の中でも一握りだが、それでもある程度のプレッシャー(覇気)や魔力の多さで相手の技量を推し量ったりすることは可能だ。
だからこそ、俺はあの少年がわからない__
どう考えたってあの平野一体の地中の恐怖を薙ぎ倒し、土地を均すだけの魔力があるようには見えなかったしそれはヴィクトールも同じはずだ。
それに、こちらから見ても心配になるような軽装具合で、近所の酒場にだってあんな格好でうろつきやしない。
それこそ後から気がついたが、篭いっぱいに入ったあのモロック草をいとも簡単に持ち上げ爽快に去っていった彼の少年が只者ではないことは紛れもない事実だが、獣人や身体強化を使った子どもであればあり得なくもない…………はず。
俺は人間だから確信足る判断がつかないが、獣人のヴィクトールの反応からしてみても同じ獣人や魔族では無いみたいだし、訓練された騎士でもなく細身で男にしては華奢なあの少年の何かがおかしいことは変わらない。
獣人でもなく、成人にも満たない子どもになんでここまで頭を悩ませないといけないんだ____
マルクは頭を抱えながら目の前の書類や任務の報告内容に目を通していく。
同じS持ちでも天と地との差があるヴィクトールを心の底から尊敬してるし、信頼も置いてる。
でも、それにしたってヴィクトールを抜きにしたゴミ共(SSS)の実力に見合うかと聞かれたら俺は無いと思ってる。
小綺麗だが確かに多少腕っぷしがあり、大男二人囲まれて物怖じするところがない辺り、やはり冒険者というのは嘘ではないのだろう。
だとしても、あのプレッシャーの薄さやどこか平和ボケしたような余裕を感じる緊張感のない淡い笑みを浮かべる少年が、あれらを全て一人でこなせるとは思えない。
精々他の高ランクの冒険者が先に処理し終えたところにたまたま居合わせたとか。
だからといって、俺の独断でそれを断言できるわけでもないのだが__
魔法が不得手で、剣しか取り柄のない俺がこうしてS持ちという立場を築けたのも全てヴィクトールのお陰だ。
その中でも、折角俺の中にある魔力を使わないのは惜しいと、自身と相性の良い魔法や属性にあった攻撃方法や防御、護身術、後天スキル等の手解きを受け、形程度には使えるようにもなった。
それだって普通は並大抵のものが出来るようなものじゃない。
魔法は基礎的な教養や世界の共通認知で、古くからある魔法や日常魔法に組み込まれたものを除いては、多くが自身の属性やスキル、生まれ持ったギフトで左右される。
だからこそ、後付けの魔法というのは教える方も教わる方も使いこなすことは容易くはない。
俺は世界で一番質のいい師に教えを乞い、己の限界を超えることもできた。
__だが、それも結局ヴィクトールありきの話だ。
だから、そんなヴィクトール直々に指名された団長という役だって、ヴィクトールが居ないからその間の替えみたいなもんだし、実際他の団員達の中にはヴィクトールに戻ってきて欲しがってるやつらは俺を含めて大勢居る。
ヴィクトールが俺に直接任命しなければ、一生やることもなかったような出世具合だ。
それに団長としての仕事だって体を動かす以外に書類もあるなんて……田舎から出るときに必死こいて文字の読み書きを覚えてなければ今頃もっと悲惨だっただろう。
そもそも、農村の出の俺が月食の騎士団に入れること自体が奇跡みたいなもんだ。
なんで、俺なんかが…………。
このように、マルクはそんな自身のコンプレックスや生い立ちから自己評価を低く見積もる悪癖があり、一握りといわれるS持ちの実力は国や世界から見ても目を見張り彼自身の実力も折り紙つきだ。
彼をここまで育てたヴィクトールも、普段は明朗快活で何事もそつなくこなすマルクの本来の性格や実力を見込んでの師弟関係なのだが、いまいち彼に伝わっているかは定かではない。
マルクはただ一つ、努力と実力でSまでのし上がった騎士団や民衆の英雄であることは紛れもない事実である____
######
いくつか山の向こうに棲み着いていたプレツィヌスという魔獣が集落に襲来し、隣の村は全滅し、私たちが住む集落も既に壊滅状態に陥った。
たが集落の男達がなんとか女子供を逃し、命からがら山の麓まで降り立った。
この先私たちだけでどうすればよいのか分からず、ただ不安を押し殺して旦那や男達の帰りを待てど一向に戻る気配はない。
子供や他の老人達も疲弊して、怪我人を運んで手当てをしていた私たちも正直もう限界が来ていた。
このまま、プレツィヌスが降りてきたら__
「みんな、もう一踏ん張りよ……となり村まで行って馬を借りましょう」
私たちがいま出来ることは、ただ生き延びるだけ__となり村には自警団もいる。
せめて騎士団に報告するまでは誰か一人でも多く生かさなければ____
「馬は明日でも良いですよ」
どこか頭に響き渡る優しい少年の声が聞こえ、顔を上げると少年よりも一回りも二回りも大きな男性を背負っており、なのにそれをものともせずにフード越しの顔をしっかりと上げ、こちらを見据えて全員に聞こえるように言葉を続けた。
「怪我が酷い方はこちらへ、あとは被害の少ない民家をお借りしても?」
テキパキと適切な指示を集落のもの達に声を掛けてゆき、必要なものや薬などをどこからか取り出した鞄から出し惜しみすることもなく私たちに与えてくださる。
それは女神アリーシェ様の御使いのような……天使のような人だった。
ヴィクトールが騎士団を退職したあと、次の騎士団長の座に就任したのがマルク・ロバートだった。
マルクはヴィクトールが騎士団に在籍中、実力が伸び悩み停滞していたところをヴィクトールの苛烈な修行や訓練を受け、それらを堪え忍びSランクまで上り詰めたれっきとした実力ある人間だ。
だからこそ、己の師事する親のような、兄のような存在のヴィクトールが今回なにを思ってあの少年を彼と同じ伝説のSSSランクの冒険者だと位置付けたのか、俺には理解できなかった。
俺には、剣しかない__
俺は魔力はそこそこあるが、元々使える適正の所持魔法やスキルが少なく、精々生まれ持った肉体強度を更にスキルで補うか、適正魔法で強化して戦う。
それだって本来魔法で肉体強化を施す騎士団からしたら息をするように当たり前のことで、獣人や魔族には到底及ばない。
そもそもの話し、魔法を器用に使いこなせるヤツがレアな時点で今回の調査も難航してたし、たまたま冒険者になって任務で近場に来ていたヴィクトールがあの場に居なかったら調査はもっと難航していただろう。
俺なんかよりも天賦の才があるやつなんてこの国には大勢いる。
魔力は持っていても、それを扱う技量がなければなんの意味がない。
それこそ魔法を使うやつは魔法を使ってるやつをある程度感知が出来る。
獣人とまではいかないが、やはり同族は同族の方に意識がいきやすい。
使った魔法や属性、術などが分かる残滓・痕跡感知は魔術師の中でも一握りだが、それでもある程度のプレッシャー(覇気)や魔力の多さで相手の技量を推し量ったりすることは可能だ。
だからこそ、俺はあの少年がわからない__
どう考えたってあの平野一体の地中の恐怖を薙ぎ倒し、土地を均すだけの魔力があるようには見えなかったしそれはヴィクトールも同じはずだ。
それに、こちらから見ても心配になるような軽装具合で、近所の酒場にだってあんな格好でうろつきやしない。
それこそ後から気がついたが、篭いっぱいに入ったあのモロック草をいとも簡単に持ち上げ爽快に去っていった彼の少年が只者ではないことは紛れもない事実だが、獣人や身体強化を使った子どもであればあり得なくもない…………はず。
俺は人間だから確信足る判断がつかないが、獣人のヴィクトールの反応からしてみても同じ獣人や魔族では無いみたいだし、訓練された騎士でもなく細身で男にしては華奢なあの少年の何かがおかしいことは変わらない。
獣人でもなく、成人にも満たない子どもになんでここまで頭を悩ませないといけないんだ____
マルクは頭を抱えながら目の前の書類や任務の報告内容に目を通していく。
同じS持ちでも天と地との差があるヴィクトールを心の底から尊敬してるし、信頼も置いてる。
でも、それにしたってヴィクトールを抜きにしたゴミ共(SSS)の実力に見合うかと聞かれたら俺は無いと思ってる。
小綺麗だが確かに多少腕っぷしがあり、大男二人囲まれて物怖じするところがない辺り、やはり冒険者というのは嘘ではないのだろう。
だとしても、あのプレッシャーの薄さやどこか平和ボケしたような余裕を感じる緊張感のない淡い笑みを浮かべる少年が、あれらを全て一人でこなせるとは思えない。
精々他の高ランクの冒険者が先に処理し終えたところにたまたま居合わせたとか。
だからといって、俺の独断でそれを断言できるわけでもないのだが__
魔法が不得手で、剣しか取り柄のない俺がこうしてS持ちという立場を築けたのも全てヴィクトールのお陰だ。
その中でも、折角俺の中にある魔力を使わないのは惜しいと、自身と相性の良い魔法や属性にあった攻撃方法や防御、護身術、後天スキル等の手解きを受け、形程度には使えるようにもなった。
それだって普通は並大抵のものが出来るようなものじゃない。
魔法は基礎的な教養や世界の共通認知で、古くからある魔法や日常魔法に組み込まれたものを除いては、多くが自身の属性やスキル、生まれ持ったギフトで左右される。
だからこそ、後付けの魔法というのは教える方も教わる方も使いこなすことは容易くはない。
俺は世界で一番質のいい師に教えを乞い、己の限界を超えることもできた。
__だが、それも結局ヴィクトールありきの話だ。
だから、そんなヴィクトール直々に指名された団長という役だって、ヴィクトールが居ないからその間の替えみたいなもんだし、実際他の団員達の中にはヴィクトールに戻ってきて欲しがってるやつらは俺を含めて大勢居る。
ヴィクトールが俺に直接任命しなければ、一生やることもなかったような出世具合だ。
それに団長としての仕事だって体を動かす以外に書類もあるなんて……田舎から出るときに必死こいて文字の読み書きを覚えてなければ今頃もっと悲惨だっただろう。
そもそも、農村の出の俺が月食の騎士団に入れること自体が奇跡みたいなもんだ。
なんで、俺なんかが…………。
このように、マルクはそんな自身のコンプレックスや生い立ちから自己評価を低く見積もる悪癖があり、一握りといわれるS持ちの実力は国や世界から見ても目を見張り彼自身の実力も折り紙つきだ。
彼をここまで育てたヴィクトールも、普段は明朗快活で何事もそつなくこなすマルクの本来の性格や実力を見込んでの師弟関係なのだが、いまいち彼に伝わっているかは定かではない。
マルクはただ一つ、努力と実力でSまでのし上がった騎士団や民衆の英雄であることは紛れもない事実である____
######
いくつか山の向こうに棲み着いていたプレツィヌスという魔獣が集落に襲来し、隣の村は全滅し、私たちが住む集落も既に壊滅状態に陥った。
たが集落の男達がなんとか女子供を逃し、命からがら山の麓まで降り立った。
この先私たちだけでどうすればよいのか分からず、ただ不安を押し殺して旦那や男達の帰りを待てど一向に戻る気配はない。
子供や他の老人達も疲弊して、怪我人を運んで手当てをしていた私たちも正直もう限界が来ていた。
このまま、プレツィヌスが降りてきたら__
「みんな、もう一踏ん張りよ……となり村まで行って馬を借りましょう」
私たちがいま出来ることは、ただ生き延びるだけ__となり村には自警団もいる。
せめて騎士団に報告するまでは誰か一人でも多く生かさなければ____
「馬は明日でも良いですよ」
どこか頭に響き渡る優しい少年の声が聞こえ、顔を上げると少年よりも一回りも二回りも大きな男性を背負っており、なのにそれをものともせずにフード越しの顔をしっかりと上げ、こちらを見据えて全員に聞こえるように言葉を続けた。
「怪我が酷い方はこちらへ、あとは被害の少ない民家をお借りしても?」
テキパキと適切な指示を集落のもの達に声を掛けてゆき、必要なものや薬などをどこからか取り出した鞄から出し惜しみすることもなく私たちに与えてくださる。
それは女神アリーシェ様の御使いのような……天使のような人だった。
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