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5話 モロック草?
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異世界に来てもう4年かぁ。
夕食付きの宿にしてよかった、考えなしにまた適当にブラブラ歩いてたら国を結構跨いてしまっていたようだ。
街の検問所で異世界に来た当初に作った少し古びたシャオルグ国での身分証を見せると、門番は特になにも言うこともなく無言で通過許可を手渡し中へと導いた。
冒険や討伐、仕事で色んな国は訪れたけど、観光目的でぶらぶらするのはわりと最近始めたばかりなので少しばかり斬新な気持ちだった。
だからなのかは分からないが、この世界に来たときの事を夢うつつに思い出した。
あれから結構大変だったなぁ。
なんとなく覚悟していたとはいえ女性が優遇される分、男性は大人も子供関係なしに実力主義で、見た目で判断されることも少なくなかった(この数年で身長は伸びたが、見た目はこの世界では童顔で優男……または子供に部類されるらしい)。
だから結構ナメて掛かってくるヤツも結構いたし、そのせいで元々少なかった女子らしさも完全に失せた。
とにかくナメられるのも死ぬのも嫌だったし、女神様の加護がついてるとはいえそれで驕るのもいやだったから、スキルとか伸ばせるとこは伸ばせるように自分なりに努力したし、現にそこらのヤツには負けないくらい強くもなった。
ギルドの討伐や依頼もこなしてたけど、でも段々とそこにやる意味を見いだせなくなった。
元々私がやりたかったことはなんだっけ?
死んで、第二の人生でこんな血生臭い生き方でいいの?
女神様はあの日、なんて言葉を掛けてくれたっけ?
色々考えているうちに自分でもいつの間にか分からなくなり、留まっていた国から飛び出して世界中を旅をした。
討伐や依頼ではなく、自分が見たいもの生きたいところに行くようにした。
楽しかった。
すごく楽しかった。
まるで最初にこの世界に来たときみたいだった。
あの時と違うのは手探りで歩むのではなく、しっかり目的を持って歩んでることだろうと思う。
だから今日も自分の行きたいところに行って、やりたいことをやって、好きなものを買って宿へ戻る。
「女将さーん、今日のおすすめはなんですか?」
######
夕食時、街角の食事処をかねた宿は他の宿泊客や常連で賑わっていた。
そんな心地よい騒々しさの中、この宿の囁く切り株亭の女将と玲奈はこの町についてや、世間話などに花を咲かせていた。
だが、この宿の定番を聞こうとすると軽く表情が曇り、申し訳なさそうな顔をされたため、話の続きを聞こうと先を促した。
「____モロック草? 北門から出て北東にある香りのいい草の事ですか?」
「そうそう、それなんだけどうちではモロック草を使ったクッルゥの包み焼きが人気でね……前までは私たちでも採りに行けたんだけど、最近じゃあの辺りまで魔獣が降りてくるみたいで、物騒で採りにも行けないのよ」
「おかしいな、あの辺りは平地で滅多に魔獣なんか来ないはずなんだけど……騎士団や駐屯兵はもう動いてるんですか?」
「それがね、調査をしてるの一点張りでどうにもきな臭くてねぇ……ごめんなさいね、旅人さんにこんな話しちゃって」
確かに、市街に近いところまで接近していて騎士団やギルドが何も対応しないなんてあり得ない。
討伐や依頼、旅をしていて事前に分かっているなら既にギルドや国が対処するはず。
少なくとも町にいる女子供に被害があるようなことになる前にあらかじめ危険区域に近づく前に討伐そのものが完了してるはずだ。
噂ですらここまで広がっているなんて……一体上は何をしてるんだ。
「いいえ、お気になさらず。 よければですけど、明日は丁度私も北門近くに出掛ける予定でしたので、ついでにモロック草も採りに行きましょうか?」
出掛ける予定っていうか、出掛ける予定が出来たっていうか……まぁ、物は言いようってことで。
「でも、悪いわ……只でさえこの時期は特に魔物が出やすいもの」
「あはは、私もだてに旅続けてないですよ。 ぜひ任せてください、女将さんの言うクッルゥの包み焼きすごく楽しみなんです」
「あらっ、そこまで言うならお願いしようかしら」
「えぇ、任されました」
話が一段落ついたところで厨房越しからこちらを睨み付ける体躯のいい男性と目が合い、女将さんが肩を竦める。
「もう、あの人ったら……ごめんなさいね? あの人私の旦那なの。 きっとお兄さんが男前だから嫉妬してるのよ」
「とても愛されてますね、私に気にせずどうか戻ってあげてください。 今日のレーストのシチュー、美味しかったです。 明日も楽しみにしてます」
「こちらこそ、ありがとうね。 __もうアナタ!! さっさと厨房に戻りなさいよっ!!」
女将さんがこちらを一瞥して、厨房とカウンターに戻っていく。
さて、私も明日に向けて部屋で表示ちゃんと作戦会議かな。
∞∞∞∞∞∞
モロック草
▶️ハーブのような香りで少しピリッとした辛味がある草
クッルゥの包み焼き
▶️味は鮭に近い白身魚のバーブソテーみたいな風味のやつ
レーストのシチュー
▶️味はポトフに近い豆が入ったスープ
夕食付きの宿にしてよかった、考えなしにまた適当にブラブラ歩いてたら国を結構跨いてしまっていたようだ。
街の検問所で異世界に来た当初に作った少し古びたシャオルグ国での身分証を見せると、門番は特になにも言うこともなく無言で通過許可を手渡し中へと導いた。
冒険や討伐、仕事で色んな国は訪れたけど、観光目的でぶらぶらするのはわりと最近始めたばかりなので少しばかり斬新な気持ちだった。
だからなのかは分からないが、この世界に来たときの事を夢うつつに思い出した。
あれから結構大変だったなぁ。
なんとなく覚悟していたとはいえ女性が優遇される分、男性は大人も子供関係なしに実力主義で、見た目で判断されることも少なくなかった(この数年で身長は伸びたが、見た目はこの世界では童顔で優男……または子供に部類されるらしい)。
だから結構ナメて掛かってくるヤツも結構いたし、そのせいで元々少なかった女子らしさも完全に失せた。
とにかくナメられるのも死ぬのも嫌だったし、女神様の加護がついてるとはいえそれで驕るのもいやだったから、スキルとか伸ばせるとこは伸ばせるように自分なりに努力したし、現にそこらのヤツには負けないくらい強くもなった。
ギルドの討伐や依頼もこなしてたけど、でも段々とそこにやる意味を見いだせなくなった。
元々私がやりたかったことはなんだっけ?
死んで、第二の人生でこんな血生臭い生き方でいいの?
女神様はあの日、なんて言葉を掛けてくれたっけ?
色々考えているうちに自分でもいつの間にか分からなくなり、留まっていた国から飛び出して世界中を旅をした。
討伐や依頼ではなく、自分が見たいもの生きたいところに行くようにした。
楽しかった。
すごく楽しかった。
まるで最初にこの世界に来たときみたいだった。
あの時と違うのは手探りで歩むのではなく、しっかり目的を持って歩んでることだろうと思う。
だから今日も自分の行きたいところに行って、やりたいことをやって、好きなものを買って宿へ戻る。
「女将さーん、今日のおすすめはなんですか?」
######
夕食時、街角の食事処をかねた宿は他の宿泊客や常連で賑わっていた。
そんな心地よい騒々しさの中、この宿の囁く切り株亭の女将と玲奈はこの町についてや、世間話などに花を咲かせていた。
だが、この宿の定番を聞こうとすると軽く表情が曇り、申し訳なさそうな顔をされたため、話の続きを聞こうと先を促した。
「____モロック草? 北門から出て北東にある香りのいい草の事ですか?」
「そうそう、それなんだけどうちではモロック草を使ったクッルゥの包み焼きが人気でね……前までは私たちでも採りに行けたんだけど、最近じゃあの辺りまで魔獣が降りてくるみたいで、物騒で採りにも行けないのよ」
「おかしいな、あの辺りは平地で滅多に魔獣なんか来ないはずなんだけど……騎士団や駐屯兵はもう動いてるんですか?」
「それがね、調査をしてるの一点張りでどうにもきな臭くてねぇ……ごめんなさいね、旅人さんにこんな話しちゃって」
確かに、市街に近いところまで接近していて騎士団やギルドが何も対応しないなんてあり得ない。
討伐や依頼、旅をしていて事前に分かっているなら既にギルドや国が対処するはず。
少なくとも町にいる女子供に被害があるようなことになる前にあらかじめ危険区域に近づく前に討伐そのものが完了してるはずだ。
噂ですらここまで広がっているなんて……一体上は何をしてるんだ。
「いいえ、お気になさらず。 よければですけど、明日は丁度私も北門近くに出掛ける予定でしたので、ついでにモロック草も採りに行きましょうか?」
出掛ける予定っていうか、出掛ける予定が出来たっていうか……まぁ、物は言いようってことで。
「でも、悪いわ……只でさえこの時期は特に魔物が出やすいもの」
「あはは、私もだてに旅続けてないですよ。 ぜひ任せてください、女将さんの言うクッルゥの包み焼きすごく楽しみなんです」
「あらっ、そこまで言うならお願いしようかしら」
「えぇ、任されました」
話が一段落ついたところで厨房越しからこちらを睨み付ける体躯のいい男性と目が合い、女将さんが肩を竦める。
「もう、あの人ったら……ごめんなさいね? あの人私の旦那なの。 きっとお兄さんが男前だから嫉妬してるのよ」
「とても愛されてますね、私に気にせずどうか戻ってあげてください。 今日のレーストのシチュー、美味しかったです。 明日も楽しみにしてます」
「こちらこそ、ありがとうね。 __もうアナタ!! さっさと厨房に戻りなさいよっ!!」
女将さんがこちらを一瞥して、厨房とカウンターに戻っていく。
さて、私も明日に向けて部屋で表示ちゃんと作戦会議かな。
∞∞∞∞∞∞
モロック草
▶️ハーブのような香りで少しピリッとした辛味がある草
クッルゥの包み焼き
▶️味は鮭に近い白身魚のバーブソテーみたいな風味のやつ
レーストのシチュー
▶️味はポトフに近い豆が入ったスープ
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