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後編
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トールたちが街を出ていき、数時間後。
「おい!お前ら!いつまで寝てんだ!とっとと起きてまた旅に出るぞ!」
勇者ゲストンが元メンバーたちの部屋の前に立っていた。もう昼だというのに未だに出てこないため、痺れを切らしここへ来たのだった。
「エキドナ!メッシーナ!ルル!とっとと部屋から出てこい!じゃねぇと扉、蹴破るぞ!」
しかし部屋にエキドナたちはもう居らず返答は返ってくるわけがない。そうとは知らないゲストンは無視されていると考え、怒り狂っていた。
「お前らいい加減にしろ!俺はリーダーだぞ!俺の命令に従いやがれ!」
しかし返答など返ってくるわけがない。我慢の限界を超えたゲストンはとうとう部屋の扉を蹴破り、部屋にズカズカと入ってきました。
「マジでいい加減にしやがれ!お前ら!とっとと準備をしろ!…あ?何だこの紙?…〈パーティを抜けます〉。ふ、ふざけんなぁぁ!抜けるだとそんなこと許すわけが…。待て、まさかエキドナ以外もなのか⁉︎」
ゲストンはメッシーナ、ルルの部屋も覗いたが、どちらの部屋にもエキドナの部屋に置いてあった紙があった。それを見つけたゲストンはとうとうキレた。
「ふざけんなぁぁぁ!誰の許可を取って辞めてやがる!あのクソ女ども!こうなったら無理矢理にでも…」
その時だった。ゲストンの扉を蹴破った音に宿の主人が来たのだった。
「一体、何の音だ⁉︎何だこれは⁉︎貴様か⁉︎この扉を蹴破ったのは⁉︎」
「あぁん?おい、オッサン。今すぐそこを退け。俺は今、ムカついてんだよ。痛い目遭いたくなきゃそこを退きやがれ」
「黙れ!さっさと弁償代を払え!」
「チッ、大人しく退いてたら痛い目遭わなくて済んだのによぉ!」
ゲストンは腰に下げた剣を抜き、店主を下から斜め上に袈裟斬りをした。まさか本当に切られるとは思っておらず、部屋の入り口にいた客は全員パニックになっていた。
「痛いか?可哀想になぁ。でもなお前が悪いんだぜ?この勇者ゲストン様の言うことを聞かなかったからこんな目に遭ったんだ。あぁ⁉︎ほら分かったら謝れよ。俺の邪魔をしてすまなかったってなぁ!」
その時、衛兵たちが部屋に入ってきた。
「貴様!何をしている!」
「次から次へとウゼェな。さっきから言ってるだろうが。俺は勇者だぞ?俺に何かしてみろ。お前ら全員、家族一緒に処刑だぞ?」
その言葉に衛兵たちは後ずさることしか出来なかった。
「分かったなら、そこを…」
「衛兵よ。其奴を捕まえよ」
「⁉︎はっ!」
次の瞬間、衛兵たちはゲストンを取り押さえていた。ゲストンは衛兵たちに取り押さえられて痛みで顔を歪めていた。
「グッ!テメェ、俺を誰だと思ってる!勇者だぞ!勇者ゲストン様だぞ!今すぐ俺から離れやがれ!じゃないとお前の家族全員処刑されるぞ!いいのか!」
「なら我が言おう。勇者ゲストンよ。我、セステナ=アガルスの名において大人しくせよ!」
次の瞬間、あれほど暴れていたゲストンの動きがピタッと止まった。ゲストンはその張本人を見て驚きが隠せなかった。
「け、賢王セステナ=アガルス!何でこんなところに!」
「貴様の悪行が我の耳に届いてな、事実確認のために貴様がいるここにやってきたのだが、どうやら事実のようだな」
「待て!い、いや。待って下さい!セステナ様!これは誤解です!私は罠に嵌められたのです!あの男、トールに嵌められたのです!」
「ほぉ、そうかそうか。貴様は罠に嵌められたのか」
「は、はい!そうなんです!私はあの憎きトールに嵌められたのです!」
「クフフッ、クフフフッ。貴様は愚かだな、勇者ゲストン。自身が犯した罪さえも仲間になすりつけるとは。言語道断!其奴を牢屋に連れて行け!」
「そ、そんな!や、やめろ!おい、離せよ!」
ジタバタ暴れるが、既に魔力を封じる枷をかけているため魔法を使うことが出来ず、動きも賢王セステナにより制限されているため逃げ出すことが出来なかった。ちなみにトールの代わりに入ったサリーだったが、この騒ぎを聞いた瞬間に急いで街から出て行ったそうだ。
翌年、俺たちがSランク冒険者となると突然、賢王セステナ様に呼ばれ、王城へ向かっていた。久々の王都に心なしかエキドナたちも嬉しそうだ。王城へ着いた俺たちは騎士たちの案内の下、謁見の間へ連れて行かれた。
「よくぞ参られた。我が名はセステナ=アガルス。此度は我が頼みでここへ来てくれて助かる。早速なのだが一つ聞きたいのだ」
賢王セステナ様が右横に立っている騎士団長に目配せをすると、後ろの扉から数人の騎士と共に1人の男がやってきた。
「て、てめえは…」
「お前、ゲストンか?」
そこにいたのはかつての勇者パーティーのリーダー、ゲストンがそこにいた。
「このや……!」
「勇者ゲストン、鎮まれ」
ゲストンは何かを言おうとしたが、賢王セステナ様の言葉がかかったと同時に黙り出した。それでも俺たちを睨みつけることはやめていなかった。
「すまない。実は今回、勇者ゲストンの容疑についての事実確認としてきてもらったのだ」
すると、王の横に立っていた宰相が紙を広げ大声で読み上げた。
「勇者ゲストンによると、朝、勇者パーティーのメンバーを呼びに来た時、魔導師トールが宿屋の主人を斬ったと証言しております。この点に何か異議はございますか?」
「異議も何もその時間帯には俺は、いや俺たちはもういなかったぞ」
「そうよ。私たちは早朝にあの街を出て行ったんだから」
「その通りです。それに私たちが宿を出て行った時、宿の主人は生きていました」
「なんなら私たちが言ってることが本当かどうかこれを使うといい」
ルルはポーチの中から一つの宝玉を取り出した。
「あぁ!そういえば拾ったわね!」
「それならいいかもしれないな」
「間違いなしです!」
俺たちはそれを見た瞬間に納得したが、周りは何を言っているのか理解できていなかった。
「すまぬが、その宝玉は何なのだ?」
「こちらは【真実の宝玉】という古代遺産です。試しにそうですね…。失礼ですが、宰相様、今年いくつになられますか?」
「私ですか?私は今年で71になりますが、それがどうしました?」
「ありがとうございます。ではこちらの宝玉に触って下さい。今から私がいくつか質問をします。必ず全て『はい』と言って下さい」
「分かりました」
「では、宰相様のお名前はクレウ=マハリスですか?」
「はい」
その瞬間、宝玉は青色に光った。
「では続いて、宰相様は今年で60歳になられますか?」
「はい」
すると先程まで青く光っていた宝玉が赤色へと変化したのだ。
「このようにこの宝玉を触っている時、質問に嘘をつくとこのように赤く光るのです」
この宝玉の機能に周りから多くのどよめきが生まれた。賢王セステナ様も驚いていた。
「なるほど…。では使おうではないか。勇者ゲストンに」
ゲストンは必死で逃げようとするが、周りの騎士に抑えられ逃げれなかった。そして無理矢理手を宝玉に乗せられたゲストンに賢王セステナ様が問いかけた。
「勇者ゲストン、其方は宿の主人を斬ったか?」
「お、お、俺は斬ってねぇ!斬ったのはトールだ!」
宝玉は…当然、赤色を示していた。
「なるほどな。それが其方の答えか。衛兵よ、この罪人を牢屋へ連れて行け!その罪人は明日、処刑する!」
「ま、待て!俺を殺していいのか?」
「何?何か言いたいことでもあるのか?」
「あ、あるぜ!俺は勇者だ!その俺を殺すということは魔王を倒すことが不可能になるということだぞ!」
「構わん」
「そうだろう、だから殺すのは…え?」
「構わん」
「ふ、ふざけんなよ!俺が死んだらどうやって魔王を倒すと思ってんだ⁉︎」
「知らんのか?勇者は世界に1人しかいないが、勇者が死ぬと新たな命に勇者の資質が生まれるのだ」
「だがよぉ!結局は十数年待つってことじゃねぇか!その間に魔王が世界を支配したら元も子もないぞ!」
ゲストンの言葉に周りの貴族が揺れ動き出した。確かにゲストンの言う通りだ。十数年待つ間に魔王が世界を支配したら元も子もない。俺がいなければな。
「だからよぉ!セステナ様!俺を殺すのはやめようぜ!」
場の空気が自分に回ってきたと感じ取ったゲストンは水を得た魚のように口が回り出した。流石の賢王でもこの空気の中、ゲストンを処刑というのは厳しそうだ。ここで実行してしまえば、貴族たちの反乱が起こるかもしれないからだ。
「セステナ様!この場で聞くのもなんですが、一つ質問をしてもよろしいですか?」
「構わん。申してみよ」
「なぜ魔王を倒すのに勇者が必要なのでしょう?」
「はっ!ついに頭イカれたか⁉︎トール!俺様から教えてやるよ!魔王は魔物や魔族たちと違って勇者の攻撃じゃないと倒せねぇんだよ!」
「へぇ、そうなんだ。それってどんな攻撃なんだ?ゲストン」
「勇者である俺様しか扱うことのできねぇ勇者魔法だよ!勇者以外の攻撃でも魔王には効くが、倒すとなると勇者の攻撃でないと倒せねぇんだよ!なぁ!セステナ様よぉ!」
「グッ!その通りだ」
賢王セステナ様が痛いところを突かれたように顔を軽く歪めるが、俺のことを知っているエキドナたちは俺に笑って話しかけてきた。
「トール、もう芝居は十分よ」
「サクッと決めちゃって下さい、トールさん!」
「やっちゃえ、トール」
「分かったよ」
エキドナたちに言葉をかけられた俺は前へと歩き出し、ちょうど謁見の間の中心部まで進んだ。俺が中心部に立つと先程まで騒いでいた貴族たちも静まり返り、何をするのだ?とちらほら聞こえてきた。
「セステナ様!実は一つお見せしたいものがございます。少々、皆さまに怪我をさせてしまう可能性がございますので魔力壁の準備だけお願いできますでしょうか?」
「わ、わかった。皆の者!今すぐ魔力壁を準備せよ!」
「大丈夫そうですね。ではいきますね」
俺はそう言って腰に差した剣を抜き上に掲げて唱えた。
「雷撃」
次の瞬間、俺の剣に青白い雷を纏っていた。
「ば、バカな⁉︎何でお前が勇者魔法を使えるんだ!」
ゲストンの言葉に俺たちを除く全員が驚愕の表情をした。
「トールよ。そ、それは本当に勇者魔法なのか?」
「セステナ様。それに関しては勇者であるゲストンが先程言った通りです。これで先程の件は何も問題はなくなりましたね」
「そうだな。心から感謝する、魔導師トール。そしてこれで貴様の命も終わりだ。勇者ゲストン、いや罪人ゲストン!貴様は今から処刑だ!」
「いやだ!いやだ!いやだー!トール、エキドナ、メッシーナ、ルル、俺を助けてくれー!」
「俺を冤罪にしようとした奴がよく言えるな」
「早く死んでくれない?」
「私はあなたのこと絶対に助けません!」
「助けたいとすら思わない」
「いやだー!俺はまだ死にたくない!俺は勇者だぞ!勇者なんだー!」
ゲストンは騎士達に引きずられながら断末魔のように処刑台の元へと向かって行った。
この後俺たちは王城を出て再び魔王討伐の旅を再開した。
「おい!お前ら!いつまで寝てんだ!とっとと起きてまた旅に出るぞ!」
勇者ゲストンが元メンバーたちの部屋の前に立っていた。もう昼だというのに未だに出てこないため、痺れを切らしここへ来たのだった。
「エキドナ!メッシーナ!ルル!とっとと部屋から出てこい!じゃねぇと扉、蹴破るぞ!」
しかし部屋にエキドナたちはもう居らず返答は返ってくるわけがない。そうとは知らないゲストンは無視されていると考え、怒り狂っていた。
「お前らいい加減にしろ!俺はリーダーだぞ!俺の命令に従いやがれ!」
しかし返答など返ってくるわけがない。我慢の限界を超えたゲストンはとうとう部屋の扉を蹴破り、部屋にズカズカと入ってきました。
「マジでいい加減にしやがれ!お前ら!とっとと準備をしろ!…あ?何だこの紙?…〈パーティを抜けます〉。ふ、ふざけんなぁぁ!抜けるだとそんなこと許すわけが…。待て、まさかエキドナ以外もなのか⁉︎」
ゲストンはメッシーナ、ルルの部屋も覗いたが、どちらの部屋にもエキドナの部屋に置いてあった紙があった。それを見つけたゲストンはとうとうキレた。
「ふざけんなぁぁぁ!誰の許可を取って辞めてやがる!あのクソ女ども!こうなったら無理矢理にでも…」
その時だった。ゲストンの扉を蹴破った音に宿の主人が来たのだった。
「一体、何の音だ⁉︎何だこれは⁉︎貴様か⁉︎この扉を蹴破ったのは⁉︎」
「あぁん?おい、オッサン。今すぐそこを退け。俺は今、ムカついてんだよ。痛い目遭いたくなきゃそこを退きやがれ」
「黙れ!さっさと弁償代を払え!」
「チッ、大人しく退いてたら痛い目遭わなくて済んだのによぉ!」
ゲストンは腰に下げた剣を抜き、店主を下から斜め上に袈裟斬りをした。まさか本当に切られるとは思っておらず、部屋の入り口にいた客は全員パニックになっていた。
「痛いか?可哀想になぁ。でもなお前が悪いんだぜ?この勇者ゲストン様の言うことを聞かなかったからこんな目に遭ったんだ。あぁ⁉︎ほら分かったら謝れよ。俺の邪魔をしてすまなかったってなぁ!」
その時、衛兵たちが部屋に入ってきた。
「貴様!何をしている!」
「次から次へとウゼェな。さっきから言ってるだろうが。俺は勇者だぞ?俺に何かしてみろ。お前ら全員、家族一緒に処刑だぞ?」
その言葉に衛兵たちは後ずさることしか出来なかった。
「分かったなら、そこを…」
「衛兵よ。其奴を捕まえよ」
「⁉︎はっ!」
次の瞬間、衛兵たちはゲストンを取り押さえていた。ゲストンは衛兵たちに取り押さえられて痛みで顔を歪めていた。
「グッ!テメェ、俺を誰だと思ってる!勇者だぞ!勇者ゲストン様だぞ!今すぐ俺から離れやがれ!じゃないとお前の家族全員処刑されるぞ!いいのか!」
「なら我が言おう。勇者ゲストンよ。我、セステナ=アガルスの名において大人しくせよ!」
次の瞬間、あれほど暴れていたゲストンの動きがピタッと止まった。ゲストンはその張本人を見て驚きが隠せなかった。
「け、賢王セステナ=アガルス!何でこんなところに!」
「貴様の悪行が我の耳に届いてな、事実確認のために貴様がいるここにやってきたのだが、どうやら事実のようだな」
「待て!い、いや。待って下さい!セステナ様!これは誤解です!私は罠に嵌められたのです!あの男、トールに嵌められたのです!」
「ほぉ、そうかそうか。貴様は罠に嵌められたのか」
「は、はい!そうなんです!私はあの憎きトールに嵌められたのです!」
「クフフッ、クフフフッ。貴様は愚かだな、勇者ゲストン。自身が犯した罪さえも仲間になすりつけるとは。言語道断!其奴を牢屋に連れて行け!」
「そ、そんな!や、やめろ!おい、離せよ!」
ジタバタ暴れるが、既に魔力を封じる枷をかけているため魔法を使うことが出来ず、動きも賢王セステナにより制限されているため逃げ出すことが出来なかった。ちなみにトールの代わりに入ったサリーだったが、この騒ぎを聞いた瞬間に急いで街から出て行ったそうだ。
翌年、俺たちがSランク冒険者となると突然、賢王セステナ様に呼ばれ、王城へ向かっていた。久々の王都に心なしかエキドナたちも嬉しそうだ。王城へ着いた俺たちは騎士たちの案内の下、謁見の間へ連れて行かれた。
「よくぞ参られた。我が名はセステナ=アガルス。此度は我が頼みでここへ来てくれて助かる。早速なのだが一つ聞きたいのだ」
賢王セステナ様が右横に立っている騎士団長に目配せをすると、後ろの扉から数人の騎士と共に1人の男がやってきた。
「て、てめえは…」
「お前、ゲストンか?」
そこにいたのはかつての勇者パーティーのリーダー、ゲストンがそこにいた。
「このや……!」
「勇者ゲストン、鎮まれ」
ゲストンは何かを言おうとしたが、賢王セステナ様の言葉がかかったと同時に黙り出した。それでも俺たちを睨みつけることはやめていなかった。
「すまない。実は今回、勇者ゲストンの容疑についての事実確認としてきてもらったのだ」
すると、王の横に立っていた宰相が紙を広げ大声で読み上げた。
「勇者ゲストンによると、朝、勇者パーティーのメンバーを呼びに来た時、魔導師トールが宿屋の主人を斬ったと証言しております。この点に何か異議はございますか?」
「異議も何もその時間帯には俺は、いや俺たちはもういなかったぞ」
「そうよ。私たちは早朝にあの街を出て行ったんだから」
「その通りです。それに私たちが宿を出て行った時、宿の主人は生きていました」
「なんなら私たちが言ってることが本当かどうかこれを使うといい」
ルルはポーチの中から一つの宝玉を取り出した。
「あぁ!そういえば拾ったわね!」
「それならいいかもしれないな」
「間違いなしです!」
俺たちはそれを見た瞬間に納得したが、周りは何を言っているのか理解できていなかった。
「すまぬが、その宝玉は何なのだ?」
「こちらは【真実の宝玉】という古代遺産です。試しにそうですね…。失礼ですが、宰相様、今年いくつになられますか?」
「私ですか?私は今年で71になりますが、それがどうしました?」
「ありがとうございます。ではこちらの宝玉に触って下さい。今から私がいくつか質問をします。必ず全て『はい』と言って下さい」
「分かりました」
「では、宰相様のお名前はクレウ=マハリスですか?」
「はい」
その瞬間、宝玉は青色に光った。
「では続いて、宰相様は今年で60歳になられますか?」
「はい」
すると先程まで青く光っていた宝玉が赤色へと変化したのだ。
「このようにこの宝玉を触っている時、質問に嘘をつくとこのように赤く光るのです」
この宝玉の機能に周りから多くのどよめきが生まれた。賢王セステナ様も驚いていた。
「なるほど…。では使おうではないか。勇者ゲストンに」
ゲストンは必死で逃げようとするが、周りの騎士に抑えられ逃げれなかった。そして無理矢理手を宝玉に乗せられたゲストンに賢王セステナ様が問いかけた。
「勇者ゲストン、其方は宿の主人を斬ったか?」
「お、お、俺は斬ってねぇ!斬ったのはトールだ!」
宝玉は…当然、赤色を示していた。
「なるほどな。それが其方の答えか。衛兵よ、この罪人を牢屋へ連れて行け!その罪人は明日、処刑する!」
「ま、待て!俺を殺していいのか?」
「何?何か言いたいことでもあるのか?」
「あ、あるぜ!俺は勇者だ!その俺を殺すということは魔王を倒すことが不可能になるということだぞ!」
「構わん」
「そうだろう、だから殺すのは…え?」
「構わん」
「ふ、ふざけんなよ!俺が死んだらどうやって魔王を倒すと思ってんだ⁉︎」
「知らんのか?勇者は世界に1人しかいないが、勇者が死ぬと新たな命に勇者の資質が生まれるのだ」
「だがよぉ!結局は十数年待つってことじゃねぇか!その間に魔王が世界を支配したら元も子もないぞ!」
ゲストンの言葉に周りの貴族が揺れ動き出した。確かにゲストンの言う通りだ。十数年待つ間に魔王が世界を支配したら元も子もない。俺がいなければな。
「だからよぉ!セステナ様!俺を殺すのはやめようぜ!」
場の空気が自分に回ってきたと感じ取ったゲストンは水を得た魚のように口が回り出した。流石の賢王でもこの空気の中、ゲストンを処刑というのは厳しそうだ。ここで実行してしまえば、貴族たちの反乱が起こるかもしれないからだ。
「セステナ様!この場で聞くのもなんですが、一つ質問をしてもよろしいですか?」
「構わん。申してみよ」
「なぜ魔王を倒すのに勇者が必要なのでしょう?」
「はっ!ついに頭イカれたか⁉︎トール!俺様から教えてやるよ!魔王は魔物や魔族たちと違って勇者の攻撃じゃないと倒せねぇんだよ!」
「へぇ、そうなんだ。それってどんな攻撃なんだ?ゲストン」
「勇者である俺様しか扱うことのできねぇ勇者魔法だよ!勇者以外の攻撃でも魔王には効くが、倒すとなると勇者の攻撃でないと倒せねぇんだよ!なぁ!セステナ様よぉ!」
「グッ!その通りだ」
賢王セステナ様が痛いところを突かれたように顔を軽く歪めるが、俺のことを知っているエキドナたちは俺に笑って話しかけてきた。
「トール、もう芝居は十分よ」
「サクッと決めちゃって下さい、トールさん!」
「やっちゃえ、トール」
「分かったよ」
エキドナたちに言葉をかけられた俺は前へと歩き出し、ちょうど謁見の間の中心部まで進んだ。俺が中心部に立つと先程まで騒いでいた貴族たちも静まり返り、何をするのだ?とちらほら聞こえてきた。
「セステナ様!実は一つお見せしたいものがございます。少々、皆さまに怪我をさせてしまう可能性がございますので魔力壁の準備だけお願いできますでしょうか?」
「わ、わかった。皆の者!今すぐ魔力壁を準備せよ!」
「大丈夫そうですね。ではいきますね」
俺はそう言って腰に差した剣を抜き上に掲げて唱えた。
「雷撃」
次の瞬間、俺の剣に青白い雷を纏っていた。
「ば、バカな⁉︎何でお前が勇者魔法を使えるんだ!」
ゲストンの言葉に俺たちを除く全員が驚愕の表情をした。
「トールよ。そ、それは本当に勇者魔法なのか?」
「セステナ様。それに関しては勇者であるゲストンが先程言った通りです。これで先程の件は何も問題はなくなりましたね」
「そうだな。心から感謝する、魔導師トール。そしてこれで貴様の命も終わりだ。勇者ゲストン、いや罪人ゲストン!貴様は今から処刑だ!」
「いやだ!いやだ!いやだー!トール、エキドナ、メッシーナ、ルル、俺を助けてくれー!」
「俺を冤罪にしようとした奴がよく言えるな」
「早く死んでくれない?」
「私はあなたのこと絶対に助けません!」
「助けたいとすら思わない」
「いやだー!俺はまだ死にたくない!俺は勇者だぞ!勇者なんだー!」
ゲストンは騎士達に引きずられながら断末魔のように処刑台の元へと向かって行った。
この後俺たちは王城を出て再び魔王討伐の旅を再開した。
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