私の事が大嫌いだったはずの旦那様が記憶喪失になってから、私を溺愛するようになったのですがこれは本当に現実ですか!? ~Season2~

hayama_25

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11話

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「じゃ、行くねお母さんおばあちゃん」

 私は家を出る前に深呼吸をして、心を落ち着けようとした。

「気をつけてね」

 母の声が少し震えているのを感じた。

「またいつでも戻っておいでよ」

 おばあちゃんの優しい笑顔が心に染みた。

「うん。ありがとう。おばあちゃんも何かあったらすぐに言ってね」

 私はおばあちゃんの手をぎゅっと握りしめた。

「ありがとさん」

 おばあちゃんの手の温もりが心強かった。

「涼真くん、彩花のことよろしくね」

 母がお兄に向かって頭を下げた。

「もちろんです」

 お兄が車のドアを開けてくれた。

「どうぞ、彩花」

「ありがとう」

 私は車に乗り込んだ。

 シートベルトを締めると、お兄も運転席に座り、エンジンをかけた。

「気をつけて」

 母の声が遠く感じた。

「いつ来ても彩花の家は賑やかだぁ」

 お兄が笑いながら言った。

「永遠の別れでもないのに」

 私は少し笑って、気持ちを軽くしようとした。

「一人しかいない娘なんだからそりゃ心配するよ」

 お兄の言葉に、私は少し照れくさくなった。

「そういうものなのかな」

 私は自分の家族の愛情を改めて感じた。

「そうだよ。それに、」

 お兄が私を見つめて続けた。

「そんなところで育った彩花だからこそ、こんなにいい子に育ったんだね」

 お兄の言葉に、私は少し恥ずかしくなった。

「そうかな、…あ、ねぇお兄」

 私はふと思い出して、お兄に問いかけた。

 昨日のこと、まだちゃんと話せてない。

「ん?」

 お兄が少し驚いたように振り向いた。

「昨日言ってた約束って何のこと?」

 私はずっと気になっていたことを聞いた。

「…あぁ、あれね。もういいんだ」

 お兄の表情が一瞬曇った。

「え、なんで?」

 私は不安になった。

 そんな一日で良くなるような話だったのかな。

「その約束はもう叶えられないから」

 お兄の声が少し寂しげだった。

「叶えられない?」

 私は驚いて聞き返した。

 …どうして、そんな悲しそうな顔をするの。

「うん」

 お兄が静かに頷いた。

「私、約束破っちゃった?」

 その約束がなんだったのか思い出せさえすれば、

「違うよ。彩花は幸せになった。それでいいんだよ」

 なんの約束かは言おうとしない。
 聞いて欲しくないのかもしれない。

 それか、私に気を使って言わないのかもしれない。

「約束、忘れちゃってごめんね」

 私は申し訳ない気持ちで謝った。

「いいんだよ。忘れちゃって」

 お兄が優しく微笑んだ。

 お兄は優しいからそう言ってくれるけど、普通なら針千本の刑は免れない。

「忘れていい約束なんてないよ」

 私は真剣に言った。


「ありがとう」
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