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第33話
しおりを挟む「ですが、そんな事をしたら...」
「会社の事は気にしなくてもいい。会社よりも娘の方が大切だからね」
俺はそれを聞いて、彩花の為に悪役を演じた方がいいと思った。
俺が彩花を大切にするよりも、酷い扱いをして逃げ出したくなるようにする方が、彩花は幸せになれるんだと。
「皿洗いもろくに出来ないのか」
「お前は何も出来ないんだな」
俺だってこんなことを言うのは辛かった。そんな顔をさせたい訳じゃないんだ。
本当は...
「怪我でもしたら危ないから、おれっ、」
"俺が代わりに捨うよ"
そう言いたいのに、
「.....お前がちゃんと掃除しておけよ」
そう言うことしかできなかった。
表では嫌な奴を演じても、裏までその必要はないと思った。
彩花が何不自由なく暮らせるように、裏で手を回していた。
つもりだった。
お母さんが家に来る度に、彩花の様子がどこかおかしかった。遠回しに嫌味を言ってくるのが嫌なのか。そう思って、
「俺のことを操り人形にしたいならそれでも構わない。だけど、彩花に手を出したら許さない」
そう忠告したはずなのに…
まさか、俺がいない間に好き勝手していたなんて。
あの男の件も…
未然に防ぐことは出来なかった。
"我慢の限界だから終わりにしよう。"
待ち望んでいた瞬間が来た。
…はずなのに、どうしても離したくなかった。
自分勝手なのは分かっている。それでも、強引にでもつなぎ止めておきたかった。
記憶喪失になったのは、ある意味ラッキーだったのかもしれない。
気づいたら会社にいて、会社にいる理由も、何日間の記憶もなかった。家に帰ったら彩花はいないんじゃないかと不安に駆られていたけど、そんな必要はなかった。
夢かと思った。
あの彩花が、あれだけ俺の事を怖がっていた彩花が笑顔で迎えに来てくれたから。
今の俺を好きでいてくれてるんだ。そう思ったら、優しくしても良かったんだって、俺がしていた事は間違いなんだって気づいた。
彩花の笑顔を見たい。
あんな怯えた顔はもう見たくないから、死ぬまで記憶が戻ったことは隠そうと思った。
'昔の俺は、殺してしまえばいい'
そう思った。
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