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第17話

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「彩花ちゃん久しぶり!」

陽翔はるとさん、お久しぶりです」

 陽翔さんと会うのは、先月のパーティー以来だ。

「ごめんね、急に来ちゃって」

「そうだよ。連絡の一つもよこさないで」
「悪い悪い」

 あれ、記憶喪失になってまだ一度も陽翔さんとは会ってないはずなのに、普通に話してる。

 陽翔さんのこと覚えてるのかな。

 湊さんが記憶喪失になったことは、湊さんの様態が落ち着くまで誰にも言わずに秘密にしようと秘書の方と決めていた。

 だから、陽翔さんも湊さんが記憶喪失になったことは知らないはずだ。

 昔からの顔見知りである幼なじみのことは覚えてちたのかな。

「この前も急に会社に来るんだから。計画性が皆無なのに、ほんと、それでよく社長が務まるよな」

 あぁ、なんだ一度会社で会ってたのか。
 幼馴染が記憶喪失になったって知って驚いただろうな。

 記憶喪失になっても仲が良いんだなぁ。

「悪かったって。仕事のことで相談したいことがあって」

 お仕事か、それなら私はいない方がいい。

「あ、今お茶の準備を…」

「気にしなくていいよ」

「ちょっとちょっと。それは俺が言うセリフだから。彩花ちゃんほんとに気にしないで」

 湊さんと陽翔さんはほんとに仲がいい。

 結婚当初は羨ましかった。
 湊さんと対等に話せて、笑い合える陽翔さんのことが。

「いや、でも…」

「彩花ちゃんにも座ってて欲しいっていうか、今日は彩花ちゃんに話があって来たんだよね」

 え?私…?湊さんじゃなくて?

「私ですか…?」

「そう!お願いがあって!」
 私にできることなんてあるんだろうか、、

「来週パーティーがあるでしょ?」

 パーティー?あぁ、もうそんな時期か。

「そのパーティーで、俺の会社で作ったドレスを着てくれないかな」

「え?」

 陽翔さんは有名アパレル会社の社長さんだ。そんな方のドレスを私が着る…?

「新作を作ったから、お披露もこめてそのドレスが似合う人と一緒に、パーティーに行こうと思ったんだけど、なかなか似合うモデルを探せなくてね」

 パーティーには必ずペアで参加しなければならない。

 大体は夫婦で行くのが一般的だけど、秘書と行く方や、陽翔さんみたいにお披露目を目的にモデルと行く方もいる。

 私が湊さんと結婚して初めてパーティーに参加しようとした時は、お義母様と行っていた。

 私にドレスが似合わなかったばっかりに。

 そうだよ。

 モデルの方でも似合わないなら、私なんてもっと…

「私に務まらないと思います」

 私は何を着ても似合わないんだから。

「そんなことないよ。この前、湊の会社に行った時に、机の上に結婚式の写真が置いてあるのを見て、彩花ちゃんに似合うんじゃないかって思ったんだ」

 湊さんの机の上に結婚式の写真が…?
 おしどり夫婦に見られたかったんだろうか。

「彩花、嫌なら断ってもいいんだよ?」
「嫌と言うより…着こなす自信がない」

 いくら服が良くても、モデルが悪かったら台無しだ。

 新作を着るなら尚更。

 私のせいで売上が下がって欲しくない。

「じゃあさ、今、ここでドレス着てみない?」


「ここで…?」
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