私の事が大嫌いだったはずの旦那様が記憶喪失になってから、私を溺愛するようになったのですがこれは本当に現実ですか!?

hayama_25

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第5話

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「冷めないうちにどうぞ」

「い、いただきます」

 お、美味しい…同じパンでも焼き方によってこんなに違うのか。

「ふふ、口にジャムついてるよ」

「どこですか?」

「…ここ、」
そう言って私の唇にそっと触れ、

「た、食べた…」

「ん、美味しい。冷蔵庫にオレンジ入ってたからマーマレード作ってみたんだ」

「…マーマレード」

 勝手に湊さんは料理が出来ないと思い込んでいた。だけど、しなかっただけだったんだ。

 なんなら私よりも湊さんが作った方が美味しい。

「あ、そうだ。今日予定ある?」

「予定ですか?ないですけど…」

「それじゃあお出かけしよっか。どこか行きたいとこある?」

「いえ、特には…」

 湊さんにはクレジットカードを貰っていた。これで何でも好きなものを買えって。だけど、私のためというより…

 自分のため。


「これで身だしなみでも整えろ、俺の妻である以上、常に誰かに見られているという事を忘れるなよ。つまらない事で俺に恥をかかせるな。肝に銘じておけ」

 それでも私が服を買わないから、パーティーがある時は湊さんがいつもドレスを用意してくれてた。

 それもきっと私のためとかではなく、ただ自分の顔に泥を塗りたくなかったからなんだろうけど。

「彩花ちゃん?」

「あ、いえ、なんでもないです」

「服、あんまり買わないの?」

「はい。まだ着れるし、新しい服を買う必要もないかなって。それに…ファッションとかよく分からなくて、」

 何を着ても私には似合わないから。

「勿体ないよ!彩花ちゃん可愛いのにもっとオシャレしないと」

「可愛くなんて…んむ、」

 両手で顔を挟まれてるんですけど…

「そんなこと言わないで。彩花ちゃんは可愛いいよ」

「わ、分かりまひたから、離ひてくだはい」

 こんな不細工な顔、見られて恥ずかしい…

「よし、じゃあ行こう!」

 今の湊さんは突拍子のないことをよく言う。

「え、どこにですか?」

「デパート!」
「…デパート?」

 記憶を失っているのに知っているデパートなんて…事前に調べてくれたのか、それとも全ての記憶が消えた訳ではないんだろうか。

「デパートにはどうやって行くんですか、いつも秘書の方に運転お願いしてますよね」

「秘書?俺に秘書とかいるの?なんだか社長みたいだね」

「社長ですよ…」

「え?俺が社長…!?」

 あ、そうか。仕事の心配もしないといけないのか。湊さんが倒れたことは秘書の人には連絡してある。この事を知られたら厄介な人が1人いるから、そこは心配だけど。

「実感湧きませんか?」

「うん…お金持ちな気はしてたけど、そうか、社長だったのか。俺に仕事なんてできるのかな」

「それなら問題ないと思います。普通の人なら一日かかる仕事でも湊さんなら1時間で終わらせられましたから。湊さんはほんとにすごい人なんです」

「それはすごいね。でも、その分俺が眠ってる間、他の人達にすごく迷惑かけちゃったのか」

「仕事は秘書の方が何とかするって仰ってましたけど…」

「秘書か、」

 湊さんが命に別状はないけど、私のせいで倒れて、目が覚めない状態だって伝えておいた。だけど、まさか記憶喪失だとは思っていないだろう。

 あ、そうだ、秘書の方に湊さんが目を覚ましたって連絡しておかないと。

「あ、待って、秘書の方からちょうど電話が、…もしもし。すみません連絡が遅くなってしまって。昨日の夜、湊さんが目を覚ましたんですけど、その…記憶喪失になってしまって…はい。そうですね、では明日の2時に、はい。分かりました。失礼します」

「秘書はなんて?」

「仕事に行く前に一度会って話しておいた方がいいとのことで、明日の二時にうちにいらっしゃるそうです」

「俺が社長だなんて想像つかないなぁ…」

 湊さんなら大丈夫だって言いたいけど、これも全部私のせいなのにそんなこと言うのは何か違う気がする。

「詳しい話は明日秘書の方が説明してくれるそうです」

「そうだね、兎に角、今日はデパートに行って彩花ちゃんのためにお洋服いっぱい買ってあげる!よし!今日は俺が彩花ちゃんのために一肌脱ぐよ!」

「でも…」

 盛り上がってるところ申し訳ないのですが、私はあまり乗り気じゃないんです。

「大丈夫!デパートまではタクシーで行けばいいよ!」
「まぁ、そうなんですけど…」
「あ、もしかして、俺と一緒に出かけるの嫌だった…?」

「いや、そうじゃなくて、、湊さんは、昨日目を覚ましたばかりだし、今日は無理しない方が…」
「それなら大丈夫!もう元気だから!」

 はぁ、私がこれ以上何か言ったところで無意味なんだろうな。

「分かりました」

「よし!じゃあ俺は早速出かける準備をしてくるよ!彩花ちゃんとのデート楽しみだなぁ」

「デート…」

 まぁそうか。夫婦で出かけるんだからデートになるのか。

 デートか…

 夫婦になってから今年で2年目だけど、湊さんとは一度もデートなんてしたことなかったな。

「彩花ちゃん、どうかした?」
「い、いえ、私もすぐに準備してきます」

「じゃあまた後で!あ、それから、ずっと敬語になってたよ」

「あ…」

 そうだタメ口…忘れてた

「1日経ったらリセットされちゃうの?可愛いね」

 湊さんのかわいいはよく分からない。可愛いなんて言われ慣れてないから恥ずかしい。出来ればあまり言わないで欲しい。だけど罵倒されることより100万倍良い。



 怖いなぁ…

 湊さんの前で自分の好きな服を着るのが怖い…
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