5 / 44
第5話
しおりを挟む「冷めないうちにどうぞ」
「い、いただきます」
お、美味しい…同じパンでも焼き方によってこんなに違うのか。
「ふふ、口にジャムついてるよ」
「どこですか?」
「…ここ、」
そう言って私の唇にそっと触れ、
「た、食べた…」
「ん、美味しい。冷蔵庫にオレンジ入ってたからマーマレード作ってみたんだ」
「…マーマレード」
勝手に湊さんは料理が出来ないと思い込んでいた。だけど、しなかっただけだったんだ。
なんなら私よりも湊さんが作った方が美味しい。
「あ、そうだ。今日予定ある?」
「予定ですか?ないですけど…」
「それじゃあお出かけしよっか。どこか行きたいとこある?」
「いえ、特には…」
湊さんにはクレジットカードを貰っていた。これで何でも好きなものを買えって。だけど、私のためというより…
自分のため。
「これで身だしなみでも整えろ、俺の妻である以上、常に誰かに見られているという事を忘れるなよ。つまらない事で俺に恥をかかせるな。肝に銘じておけ」
それでも私が服を買わないから、パーティーがある時は湊さんがいつもドレスを用意してくれてた。
それもきっと私のためとかではなく、ただ自分の顔に泥を塗りたくなかったからなんだろうけど。
「彩花ちゃん?」
「あ、いえ、なんでもないです」
「服、あんまり買わないの?」
「はい。まだ着れるし、新しい服を買う必要もないかなって。それに…ファッションとかよく分からなくて、」
何を着ても私には似合わないから。
「勿体ないよ!彩花ちゃん可愛いのにもっとオシャレしないと」
「可愛くなんて…んむ、」
両手で顔を挟まれてるんですけど…
「そんなこと言わないで。彩花ちゃんは可愛いいよ」
「わ、分かりまひたから、離ひてくだはい」
こんな不細工な顔、見られて恥ずかしい…
「よし、じゃあ行こう!」
今の湊さんは突拍子のないことをよく言う。
「え、どこにですか?」
「デパート!」
「…デパート?」
記憶を失っているのに知っているデパートなんて…事前に調べてくれたのか、それとも全ての記憶が消えた訳ではないんだろうか。
「デパートにはどうやって行くんですか、いつも秘書の方に運転お願いしてますよね」
「秘書?俺に秘書とかいるの?なんだか社長みたいだね」
「社長ですよ…」
「え?俺が社長…!?」
あ、そうか。仕事の心配もしないといけないのか。湊さんが倒れたことは秘書の人には連絡してある。この事を知られたら厄介な人が1人いるから、そこは心配だけど。
「実感湧きませんか?」
「うん…お金持ちな気はしてたけど、そうか、社長だったのか。俺に仕事なんてできるのかな」
「それなら問題ないと思います。普通の人なら一日かかる仕事でも湊さんなら1時間で終わらせられましたから。湊さんはほんとにすごい人なんです」
「それはすごいね。でも、その分俺が眠ってる間、他の人達にすごく迷惑かけちゃったのか」
「仕事は秘書の方が何とかするって仰ってましたけど…」
「秘書か、」
湊さんが命に別状はないけど、私のせいで倒れて、目が覚めない状態だって伝えておいた。だけど、まさか記憶喪失だとは思っていないだろう。
あ、そうだ、秘書の方に湊さんが目を覚ましたって連絡しておかないと。
「あ、待って、秘書の方からちょうど電話が、…もしもし。すみません連絡が遅くなってしまって。昨日の夜、湊さんが目を覚ましたんですけど、その…記憶喪失になってしまって…はい。そうですね、では明日の2時に、はい。分かりました。失礼します」
「秘書はなんて?」
「仕事に行く前に一度会って話しておいた方がいいとのことで、明日の二時にうちにいらっしゃるそうです」
「俺が社長だなんて想像つかないなぁ…」
湊さんなら大丈夫だって言いたいけど、これも全部私のせいなのにそんなこと言うのは何か違う気がする。
「詳しい話は明日秘書の方が説明してくれるそうです」
「そうだね、兎に角、今日はデパートに行って彩花ちゃんのためにお洋服いっぱい買ってあげる!よし!今日は俺が彩花ちゃんのために一肌脱ぐよ!」
「でも…」
盛り上がってるところ申し訳ないのですが、私はあまり乗り気じゃないんです。
「大丈夫!デパートまではタクシーで行けばいいよ!」
「まぁ、そうなんですけど…」
「あ、もしかして、俺と一緒に出かけるの嫌だった…?」
「いや、そうじゃなくて、、湊さんは、昨日目を覚ましたばかりだし、今日は無理しない方が…」
「それなら大丈夫!もう元気だから!」
はぁ、私がこれ以上何か言ったところで無意味なんだろうな。
「分かりました」
「よし!じゃあ俺は早速出かける準備をしてくるよ!彩花ちゃんとのデート楽しみだなぁ」
「デート…」
まぁそうか。夫婦で出かけるんだからデートになるのか。
デートか…
夫婦になってから今年で2年目だけど、湊さんとは一度もデートなんてしたことなかったな。
「彩花ちゃん、どうかした?」
「い、いえ、私もすぐに準備してきます」
「じゃあまた後で!あ、それから、ずっと敬語になってたよ」
「あ…」
そうだタメ口…忘れてた
「1日経ったらリセットされちゃうの?可愛いね」
湊さんのかわいいはよく分からない。可愛いなんて言われ慣れてないから恥ずかしい。出来ればあまり言わないで欲しい。だけど罵倒されることより100万倍良い。
怖いなぁ…
湊さんの前で自分の好きな服を着るのが怖い…
10
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

さげわたし
凛江
恋愛
サラトガ領主セドリックはランドル王国の英雄。
今回の戦でも国を守ったセドリックに、ランドル国王は褒章として自分の養女であるアメリア王女を贈る。
だが彼女には悪い噂がつきまとっていた。
実は養女とは名ばかりで、アメリア王女はランドル王の秘密の恋人なのではないかと。
そしてアメリアに飽きた王が、セドリックに下げ渡したのではないかと。
※こちらも不定期更新です。
連載中の作品「お転婆令嬢」は更新が滞っていて申し訳ないです(>_<)。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!

私の大好きな彼氏はみんなに優しい
hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。
柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。
そして…
柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる