運命の糸の先に

第11話

「ご、ごめん梨華ちゃん…」

　先輩の声が震えているのを聞いて、私は胸が痛んだ。

　彼の目には涙が浮かんでいて、心から申し訳なさそうにしているのが分かった。

「大丈夫です、さすがにあんな事には言うなんて許せません」

　私は優しく微笑みながら言ったけど、心の中では怒りがまだ収まっていなかった。

　上司の言葉が何度も頭の中で繰り返される。

　あれって世に言うパワハラじゃない？

「でも、俺がこんなんだから怒られるんだ。ま、まともに人と話せないし」

　先輩の言葉に、私は驚きと悲しみを感じた。

　自分をそんな風に思っているなんて、信じられなかった。

「それは関係ないですよ。そりゃ見た目も大切ですけど何もあんな言い方しなくてもいいじゃない」

　私は真剣な表情で言った。

　先輩が自分を責めるのを見て、何とかして励ましてあげたいと思った。

「だけど…」

　先輩の声が小さくなり、彼の目が床に向けられた。

「こういう時はありがとうでいいんですよ。先輩何も悪くないんだし」

「…あ、ありがとう」

　先輩の声が少しだけ明るくなったのを聞いて、私はほっとした。

　彼が少しでも元気を取り戻してくれたら、それだけで十分だった。

「はい！どういたしまして！」

　この時は、まだ気づいていなかった。

　…この人を助けるべきじゃなかったのに。

　だけど、問題はそれだけではなかった。

　それは会社の帰り道でのこと、

「梨華先輩、お久しぶりです」

　突然の声に振り返ると、そこには見覚えのない女性が立っていた。

　私は一瞬戸惑いながらも、礼儀正しく返事をした。

「どちら様ですか」
「覚えてないんですか？」

　彼女の言葉に、私は頭の中で記憶を探ったが、どうしても思い出せなかった。

「知らないです」
「佳代ですよぉ」

「佳代…？」

　その名前を聞いた瞬間、過去の記憶が蘇った。

　佳代って、あの佳代？

　瑞稀の元カノの？

「え、ほんとに忘れちゃったんですかぁ？」

　その喋り方、変わってないんだ。

「…何となく覚えてるけど、どうしてここに？」

　私は冷静を装いながら尋ねた。

　彼女の目的が気になって仕方がなかった。

「瑞稀先輩と寄りを戻そうと思って！」
「へ、へー」

　私は内心驚きながらも、表情には出さないように努めた。

　だったらなんで私に声かけるのよ、そのまま瑞稀のところに行けばいいじゃない。

「ふふ」

　彼女の笑い声に、私は少しだけ苛立ちを感じた。

「…何、」

「梨華先輩は相変わらずですね、認めたらどうですか？」

　彼女の言葉に、私は一瞬固まった。

　何を認めろって？

「は？何を？」

「瑞稀先輩のことが好きだって」

　彼女の言葉に、私は心臓がドキッとした。



　私が瑞稀のことを好き…？