私の大好きな彼氏はみんなに優しい

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第69話

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「学校遅刻するわよー!」

 お母さんの声で目が覚めた。

 頭がぼんやりしていて、しばらく何が起きているのか理解できなかった。

 夜中の恐ろしい夢がまだ鮮明に思い出され、心臓がドキドキと高鳴っている。

 布団の中で身体を起こし、まどろみの中で時間を確認すると、予想以上に遅い時間だった。

「起きなくちゃ…、」

 目を擦りながら下に行くと、パンのいい匂いがした。

 台所から漂ってくるその香りに少しだけ心が安らぐ。

「おはよう。寝坊なんて珍しいじゃない」

「おはよう…遅刻しそうだから牛乳だけ飲んで行くね」

 それ以上に夢の影響で胃が重く、何も食べる気がしなかった。

「体調悪かったら休みなよ?」

 お母さんが心配そうに言う。

「大丈夫だよ」

 無理して笑顔を作った。

 文化祭さえなければ、休んでたや。

 そう思いながら、急がないといけないのに、体が動かないことに苛立ちを覚える。

 本当に学校に行くのが憂鬱でたまらない。

 洗顔で顔を洗い、冷たい水が肌に触れて、少しだけ目が覚める気がする。

 タオルで顔を拭き、化粧水を塗って、肌の乾燥を防ぐ。

 髪の毛を整えるのも面倒くさくて、くくることにした。

「クマができてる…」

 寝不足のせいで目の下にクマができているのがはっきりと見える。

 ちょっとメイクしたほうがいいかな。
 でも、いいや。

 時間もないし、元気もない。

 クマなんて、気づかないよね。

 今日は誰とも目を合わさないようにしよう。

 部屋に戻り忘れ物がないかカバンの中をチェックする。

 教科書、ノート、ペンケース、全てが揃っていることを確認する。

 制服に着替え、鏡を見て少しだけ気合を入れる。

「文化祭の準備、頑張らなきゃ…」

 あと一週間。

 それまではこの恐怖に耐えないと。

 文化祭実行委員に立候補したのは私だ。
 だから責任をもって最後まで…。

 今日一日乗り越えたら、きっと大丈夫。

 時計を見ると、いつも家を出てる時間と同じだった。

 学校には間に合いそうだと少し安心する。

 靴を履きながら、心の中で一日の計画を立てる。

「心桜、お弁当忘れてるよ」

 お母さんの声が背中から聞こえる。

 その声に手を止め、再度カバンの中を確認する。

「あ、ほんとだ。ありがとう」
  
 お弁当を受け取り、カバンに入れる。

「気をつけてね。行ってらっしゃい」

 お母さんが優しい笑顔で見送ってくれる。

 その笑顔に少しだけ安心感を覚える。

「行ってきます」

 靴を履き終え、最後にもう一度深呼吸をする。

 今日も、無事に帰れますように。

 ドアを開けると、冷たい風が頬をなで、目が覚める気がする。




「っ、どうしてここに…」
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