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第53話
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数日後、登校中ばったり沙紀先輩と会ってしまった。
「心桜ちゃん」
先輩の声が柔らかく響く。
「沙紀先輩…」
先輩とはあれきり会えていなかったから気まずい。
「おはよう」
先輩の笑顔が眩しい。
私は視線を合わせられず、足元を見つめた。
「おはようございます、」
どうしても視線を合わせられない。
あの時のことが頭をよぎる。
「先輩、この前はすみま」
勇気を振り絞って口を開いたけど、先輩の言葉がそれを遮った。
「ごめんね」
先輩の謝罪に戸惑いを隠せない。
「え、どうして先輩が、」
驚きと共に先輩の顔を見上げる。
どうして先輩が謝るのか理解できなかった。
先輩の表情は真剣だった。
「柊を取らないでなんて。柊は私のものじゃないのにわがまま言って困らせた」
「…柊先輩を取らないでって言われた時、思っちゃったんです。柊先輩を取ったのは先輩なのにって」
先輩の目が少しだけ柔らかくなる。
「うん、ごめんね」
謝らないといけないのは私の方。
「だけど、違ったんです。柊先輩を先に取ったのは私だったんです」
「え?」
先輩の驚いた顔が目に入った。
「私よりも先に出会っていたのは沙紀先輩で、何をするにも一緒だったはずなのに、私のせいで…。それなのに被害者ずらしてすみませんでした」
私は深く頭を下げた。
「心桜ちゃんが謝ることないよ。私、気づいたんだよね。弱さを言い訳にしてたって。身体が弱いことを口実に、柊のこと縛ってた」
そんなことない。
先輩は弱いことをいいように使ったりなんかしてない。
体調が悪いときに誰かに頼ることは、その人を縛ることにはならない。
柊先輩だって、そんな風に思いながら沙紀先輩と一緒にいたわけじゃないはずだから。
「そんなことないです」
「それに、心桜ちゃんは先に取ったのは私だって言ったけど、違うよ。柊は、初めから私の物じゃなかったんだよ」
私よりも先に柊先輩と出会っているはずなのに。
「え?それってどういう、」
先輩の言っていることが理解出来ず、聞き返そうとしたその時だった。
「やっと見つけた」
突然、背後から声が聞こえた。
その声に恐怖を感じ、全身が硬直する。
「…っ、」
振り向くとそこには、あの人が立っていた。
どうして、どうしてここに。
恐怖が全身を駆け巡る。
「知り合い?」
先輩の問いかけに答える余裕もない。
ここは冷静にならないと。
「…先輩。先に行ってください」
先輩まで巻き込むわけにはいかない。
「え、でも、」
先輩の心配そうな顔が視界に入る。
「大丈夫です。直ぐに追いかけます」
先輩を安心させるために微笑んだ。
「分かった、早く来てね」
「はい」
先輩が去るのを見届け、相手に向き直る。
恐怖を押し殺し、毅然とした態度を取った。
「一体何が目的なんですか」
毎日同じ時間に電話を鳴らしてきたり、放課後突然現れたり、
今度は登校中に現れるなんて。
無視していればそのうち飽きてやめるだろうと思っていたのに、だんだんヒートアップしてきてる。
これ以上はもう我慢できない。
「心桜ちゃん」
先輩の声が柔らかく響く。
「沙紀先輩…」
先輩とはあれきり会えていなかったから気まずい。
「おはよう」
先輩の笑顔が眩しい。
私は視線を合わせられず、足元を見つめた。
「おはようございます、」
どうしても視線を合わせられない。
あの時のことが頭をよぎる。
「先輩、この前はすみま」
勇気を振り絞って口を開いたけど、先輩の言葉がそれを遮った。
「ごめんね」
先輩の謝罪に戸惑いを隠せない。
「え、どうして先輩が、」
驚きと共に先輩の顔を見上げる。
どうして先輩が謝るのか理解できなかった。
先輩の表情は真剣だった。
「柊を取らないでなんて。柊は私のものじゃないのにわがまま言って困らせた」
「…柊先輩を取らないでって言われた時、思っちゃったんです。柊先輩を取ったのは先輩なのにって」
先輩の目が少しだけ柔らかくなる。
「うん、ごめんね」
謝らないといけないのは私の方。
「だけど、違ったんです。柊先輩を先に取ったのは私だったんです」
「え?」
先輩の驚いた顔が目に入った。
「私よりも先に出会っていたのは沙紀先輩で、何をするにも一緒だったはずなのに、私のせいで…。それなのに被害者ずらしてすみませんでした」
私は深く頭を下げた。
「心桜ちゃんが謝ることないよ。私、気づいたんだよね。弱さを言い訳にしてたって。身体が弱いことを口実に、柊のこと縛ってた」
そんなことない。
先輩は弱いことをいいように使ったりなんかしてない。
体調が悪いときに誰かに頼ることは、その人を縛ることにはならない。
柊先輩だって、そんな風に思いながら沙紀先輩と一緒にいたわけじゃないはずだから。
「そんなことないです」
「それに、心桜ちゃんは先に取ったのは私だって言ったけど、違うよ。柊は、初めから私の物じゃなかったんだよ」
私よりも先に柊先輩と出会っているはずなのに。
「え?それってどういう、」
先輩の言っていることが理解出来ず、聞き返そうとしたその時だった。
「やっと見つけた」
突然、背後から声が聞こえた。
その声に恐怖を感じ、全身が硬直する。
「…っ、」
振り向くとそこには、あの人が立っていた。
どうして、どうしてここに。
恐怖が全身を駆け巡る。
「知り合い?」
先輩の問いかけに答える余裕もない。
ここは冷静にならないと。
「…先輩。先に行ってください」
先輩まで巻き込むわけにはいかない。
「え、でも、」
先輩の心配そうな顔が視界に入る。
「大丈夫です。直ぐに追いかけます」
先輩を安心させるために微笑んだ。
「分かった、早く来てね」
「はい」
先輩が去るのを見届け、相手に向き直る。
恐怖を押し殺し、毅然とした態度を取った。
「一体何が目的なんですか」
毎日同じ時間に電話を鳴らしてきたり、放課後突然現れたり、
今度は登校中に現れるなんて。
無視していればそのうち飽きてやめるだろうと思っていたのに、だんだんヒートアップしてきてる。
これ以上はもう我慢できない。
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