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第50話

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「おい!何しているんだ!」

 通りかかった人が叫びながら駆け寄ってきた。

「チッ、覚えとけよ」

 男性は驚いて手を離し、逃げ出した。

 助かった…。

 私はその場に崩れ落ち、震えが止まらなかった。

 あの人がどうしてここに?
 たまたま…?それとも…。

 またこんなことが起きたらどうしよう。

 恐怖が胸を締め付け、涙が頬を伝った。

「心桜、大丈夫…!?」

 その声に顔を上げると、そこには柊先輩が立っていた。

「先輩…、?」

 私は震える声で答えた。

 助けてくれたのが柊先輩だと分かり、恐怖と安堵が入り混じり、涙が止まらなかった。

「心桜、怪我はな…」

 赤くなった手首をちらっと見て、先輩の顔色が変わった。

「心桜、手が、」

 先輩が心配そうに言った瞬間、私はそっと手首を隠した。

 先輩に心配をかけたくなかったから。

「大丈夫、痛くないから」

 私は微笑んで答えた。

 だけど先輩の目は鋭くなり、男の方を見た。

「待ってて。すぐ戻る」

 先輩は怒りを抑えきれず、男の後を追おうとした。

 だけど私は、

「行かないでっ、」

 先輩の足を掴んだ。

 恐怖が再び胸を締め付け、先輩が離れるのが怖かった。

 今はただ、そばにいて欲しかった。

「心桜…?」

 先輩は驚いたように振り返った。

「今は、そばにいて、ほしい」

 私は震える手で先輩の足を掴み、必死に引き止めた。

「ごめん、そうだよね」

 先輩は私の気持ちに気づいてくれたのか、私と目線を合わせ、優しく抱きしめてくれた。

「先輩、」

 先輩の温かい抱擁に包まれ、私は少しずつ落ち着きを取り戻していった。

「俺がそばにいるから。もう大丈夫だよ」

 その言葉に、全身の緊張が一気に解けた。
 先輩の言葉が心に染み渡り、安心感が広がった。

「助けてくれてありがとう」

 私は涙を拭いながら感謝の言葉を口にした。

 先輩は私が少し泣き止んだのを確認し、優しく微笑んで言った。

「少しは落ち着いた?」

 先輩は心配そうに尋ねた。

「うん、」

 私は小さく頷いた。

 先輩の優しさに心が温かくなった。

「赤くなってる。痛いよね…」

 先輩は優しく私の手首を撫でながら、心配そうに言った。

 先輩の優しさに心が温かくなったけど、同時に先輩を心配させたくない気持ちが強くなった。

「これぐらい大丈夫だよ」

 私は無理に笑顔を作り、先輩を安心させようとした。

 先輩の心配を少しでも和らげたかった。

「俺がもう少し早く来ていれば」

 先輩は悔しそうに言った。

 その言葉に胸が痛んだ。

 先輩のおかげで私は助かったのに。

「そんなことない。先輩が助けに来てくれて嬉しかった」

 私は真剣な表情で答えた。

 先輩の存在がどれだけ心強かったかを伝えたかった。

「でも、」

 先輩はまだ自分を責めているようだった。


「先輩」

 私は俯いている先輩に声をかけた。
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