上 下
41 / 65

第41話

しおりを挟む

 遥希くんの名前を出したのが間違いだった。

 ただ…

 もっと俺を頼ってほしいだけなのに、

 俺が原因だって言うなら、ちゃんとそう言って欲しいのに。

 他の人から心桜の気持ちを聞きたくなかった。

 もちろんそれに気づけなかった俺が一番悪いってことぐらい分かってる。

 けど、

「心桜、」

 俺は心桜に向かって一歩踏み出した。

 心桜は後ずさりした。

「だから、先輩が言いたいことは、私が浮気してるって、そういうこと、ですか、」

 心桜の声は震えていた。

 違う、違うんだよ。そういうことじゃない。
 俺が言いたいのは、

「いや、そういうわけじゃないよ。ただ、最近の心桜の様子を見て、何か変わったのかなって思っただけで…」

 俺は焦りながらも、心桜の目を見つめた。

 どうして、こうも自分の気持ちを上手く言えないんだろう。

 俺の知らない間に、遥希くんの傍でどんどん変わっていっているように感じたから。

 それが寂しくて悔しくて、

 それに、心桜が遥希くんのことをただの友達だと思っていたとしても、きっと遥希くんは…

 昨日の心桜を見つめる目は…。

 ただの友達として大切に思ってる訳じゃなさそうだった。

「どうしても、距離を置かないといけないの?」

 離れていかないで。
 なんて、そんな自分勝手なことは言えない。

 そんな決断をさせてしまったのは、他の誰でもない俺だから。

 だけど、せめて心桜の傍にいさせて欲しい。

「え?」

 心桜と離れている間に、もしものことがあったらって考えただけでも…。

「…心桜を誰にも取られたくないんだ」

 俺は心の底からの本音を吐き出した。

「誰も取らないよ」

 心桜は、ほんとに鈍感だなぁ。

「遥希くんは…?」

「だから、遥希くんとは何にもないって言ってるじゃん」

 心桜の声には苛立ちが混じっていた。

 どうやって説明すれば、心桜は分かってくれるんだろうか。

「そう思ってるのは美桜だけかもしれないよ」

 俺は静かに言った。

「何が言いたいの」

 心桜の目が鋭くなった。

 友達だと思ってるのは心桜だけだよってこと。

「遥希くんは、そうじゃないかもしれないでしょ、」

 俺は心桜の目を見つめ続けた。

 心桜がまだ気づいていないだけで、遥希くんは少しずつ心桜にアピールし始めていたとしたら、

「それって、遥希くんを疑ってるってこと…?」

 心桜の声が震えた。

 疑ってる、というよりも確信してる。

 あの目は、俺と同じ目だから。

 そして、心桜は一瞬ハッとした表情をした。
 俺はそれを見逃さなかった。

「身に覚えがあるんじゃない?」

 俺は問い詰めた。

「違っ…ちょっと待って、どうして、」

 心桜は動揺していた。




 やっぱり既になにか言われたんだね。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

私、女王にならなくてもいいの?

gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。

犠牲の恋

詩織
恋愛
私を大事にすると言ってくれた人は…、ずっと信じて待ってたのに… しかも私は悪女と噂されるように…

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

処理中です...