国民的アイドルの愛され末っ子は紅一点!?

hayama_25

文字の大きさ
上 下
27 / 42

サインを作ったよ編

しおりを挟む
 ぼんやりしながら机に向かい、アシュルから来た何枚もの手紙を眺める。入学してからというもの毎日手紙が送られてくる。健気な弟が可愛い。早く返事を書かなければ、もう何日も返していない。このところ気持ちが落ち着かなくて、ウェルとのことを何度も夢に見た。記憶を辿り、いつウェルに嫌われたのか何故嫌われたのか、ぐるぐると考え込んでは落ち込んで堂々巡り。生徒会はしばらくお休みを貰っているが、この間なんて授業中に注意力散漫だと叱られた。筆を持ち、紙を広げたのは良いが何も書けない。

『お兄ちゃん、ウェルに嫌われたみたいだ。』

 書きはじめてスラスラと浮かび上がった文は情けないものだった。こんなこと書いて送ったらアシュルが心配する。ダメだ、ダメだと紙を丸める。先程からこの行為の繰り返し。手紙は進まないどころか一枚も書けていない。

「そんなに悩んで、誰に書いてるの?」

 肩にぽすりと誰かの手が乗る。珍しいことに驚いて身体が大げさに跳ねる。とは言え、この部屋にいるのは一人だけ。軽薄にも聞こえる声の主は初対面だというのに絶対に仲良くなれないと思った相手、キルト・ウィチルダ。顔がいいのと同室なのもあり確実にフランドール側の攻略対象。華奢な本来のフランドールならば一瞬でコイツに犯されていただろう…。なぜならコイツは同室だと言うのに何度も何度も美少年を連れ込んでいる、マセガキだなんて言ってられない正真正銘のヤリチンだからだ!

「ウィチルダくんには関係ないだろ。急になんだ、俺みたいなのは嫌だと言ったのはウィチルダくんだろう?」
「…‥あの時のことはごめんね? ほら、聞いてたイメージと違って驚いたんだよ。ホントごめんね、許して?」
「……。」

 許さん、そんな犬みたいな顔をされても許さんぞ!
 それにお前には、まだまだ言いたいことがあるんだ!
 ええい、この際だだから言ってやるっ。

「それから何度も言うが、遊び相手を部屋に呼ぶな!」
「そ、それもごめん、もうしない。呼ばないよ、これからは誰ともしない。」
「…なんだ、やけに素直だな。」

 まっすぐこちらを見る瞳は真剣そのものだ。
 そんなふうに素直になられたら、これ以上怒れないじゃないか…。
 案外、良い子なのだろうか?

「それよりさ、さっきから何に悩んでるの? 手紙、書けないの? 誰に書いてるの?」
「うっ、質問が多いな。弟だよ、血は繋がってないが健気で可愛くてな。毎日、送ってきてくれるんだ。ただ、最近は…その…あまり上手くいかない事が多くて、何を書けばいいのか。」
「上手くいかない? もしかしてウェルギリウス殿下とのこと?」
「んっ、まぁ、なんか嫌われちまったっていうか。」
「どうして?」
「……わかんねぇ。」
「それ、僕に話してみない?」

 優しく問いかけられると、ほつれるみたいに言葉が出ていく。なんか、頭がぼんやりしてきた。じわじわと目頭が熱くなる。なんか話してたら、悲しくなってきた。笑いあったことも話したことも夢も、今まで楽しかったこと全部、無かったみたいで。ウェルから逸らされる視線や冷たい声が怖い。どうしても婚約破棄のことは言えない…でも、ウィチルダの相槌のタイミングとか急かさない感じとか、なんか話しやすくて気持ちが溢れる。言ってしまいたい…、聞いてほしい、いいや、ダメだ。どうしてこんなに話したくなってしまうのだろう。俺に兄はいない、でもいたとしたらこんな感じなのだろうか…? 丁寧に畳まれたハンカチで俺の濡れた顔をウィチルダが拭いてくれる。恥ずかしい、情けない姿、コイツに見られてるんだ。たぶんまた身体の方の年齢にひっぱられて…。

「ウェル…っ、殿下と話がしたいんだ…。」
「フランドールくんはウェルギリウス殿下のことが好きなの?」
「えっ、ああ、親友だと思っている。殿下はそう思ってはいなかったみたいだがな。」
「ふぅん、殿下は思ってない、ね。」

 含みのある微笑み、いや、ニヤ付きを浮かべたウィチルダの顔。急に現実に引き戻されて、俺は我に返った。

 って、なんで俺はウィチルダにこんなこと話してんだっ。
 あ~~~~っ!
 くそっ、騙されそうになった!
 美少年連れ込んでは食い荒らしてるやつの口車に乗せられたっ。
 今、なんか変だった!
 コイツは面白がってる。
 絶対そう!
 でなきゃ、こんな真面目に話し聞いてくれるのなんておかしい。
 貞操観念ゆるゆる野郎だぞ!
 俺の弱みでも握ろうとしてるんだ。

「…っ、今のは無しだ!」
「え? 解けちゃった…?」
「あ? お前、何か企んでるだろう。」
「へっ⁉…あ、いや、そんなことっ。」
「入学してから今の今までまともな会話もなく、挙げ句少し話せば喧嘩を売ってくる。企みがあるに決まっている、そうでなければおかしい!」

 椅子から立ち上がり、名探偵風に指をさすと、ウィチルダは顔を引き攣らせた。
 明らかに狼狽えている。
 やはりな、俺の目はごまかせない! 

 はぁ~と溜息を吐き、まいったと手を上げる。俺は勝ち誇った顔でフンと腕を組む。いやぁ~!気持ちがいいなっ。満足したところで、コツコツと窓ガラスを叩く音がして意識をそっちに向ける。伝書鳩が手紙と何かをぶら下げていた。きっとアシュルからだろう、俺はそれを受け取るべく窓辺に向かい手を伸ばした。

「えっ、なにっ…。」

 突然、背後に気配を感じたと思ったら肩と腰から腕が見えた。背には人の温かな体温。しがみつくみたいに、ぎゅっと張り付いている。

 こ、これは、もしかして…。
 抱きしめられている、のか?
 えっ⁉ なんでぇ⁉
 怖いっ! 

「うぃ、うぃちるだく~ん?」
 
 離してくれないかと、腕を優しく叩くが動かない。
 
 くっ、今度は、なんか弟みたいでっ。
 おれ、年下とか犬系に弱いんだよう…。
 
 顔を背に埋められ身動きがとれない。どうしようかと混乱しながら考えていると、抱きしめる力が更に強くなった。

「好きだ、フランドールくん。
 ウェルギリウス殿下のことは忘れたっていいだろう…?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...