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第八話
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「あいつになんかしたのか?」
大和さんの声に、現実に引き戻された。
「えっと...」
あの日を境に見なくなったから、もう二度と現れないと思っていたんだけど、突然また店に訪れた。
そして、何かをする訳ではなく、遠くの席から私をずっと睨んでる。
怖いというより、不気味だ。
大和さんにはちゃんと伝えた方がいいと思って、前にあったことを全て話した。
「…ということがありまして、」
「お前なぁ、誰かにつけられてるって分かってたならその時点で俺に相談するべきだろ」
大和さんの声には、心配と少しの怒りが混じっていた。
「すみません、」
私は頭を下げた。
「何もされなかったんだよな?」
「はい。泰雅さんが助けてくれたので大丈夫でした」
その時のことを思い出すと、少し震えが走った。
泰雅さんが助けてくれなかったら…。
「良かった。てか、事情知らなかったからあいつ店に入れたけど、今からでも追い出そうか?というか、警察に通報した方が良さそうだけど?」
大和さんの提案に、私は少し戸惑った。
警察に通報したら、困るのは大和さんのはず。
「そんな事したらお客さんが減っちゃうじゃないですか。それに大袈裟にしたくないので通報はしなくて大丈夫ですよ」
店のことを考えると、警察に通報するのは気が引けた。
「店のことは気にするな。客一人減ろうが別に大したことじゃないから」
「睨まれてるだけで、特に何もされてないし大丈夫です」
自分に言い聞かせるように答えた。
「それでも、一人で帰すのは流石に心配だから、先輩に頼んで帰り迎えに来て貰ったら?」
大和さんの提案に、少し心が揺れた。
いやいや。甘えちゃダメだ。
「大丈夫です。忙しいのに、私のせいで迷惑かけたくないので」
昨日だって私のせいでろくに寝られなかったはずだから。
「いや、でも...あ、」
大和さんが何か言おうとしたその時、店のドアが開いた。
「陽菜」
泰雅さんの声に、私は驚いて顔を上げた。
「泰雅さん…!」
この時間に店に来ることは初めてだ。
隣にいる方は…誰だろう?
「初めまして。一ノ瀬秀哉です」
泰雅さんの隣に立つ男性が、丁寧に頭を下げた。
「は、初めまして。渡邉陽菜です」
私は少し緊張しながら自己紹介をした。
すごい。大人のオーラが漂ってくる。
彼の存在感に圧倒されそうだった。
「泰雅さんにこんな可愛い彼女がいたなんて」
一ノ瀬さんの言葉に、私は顔が赤くなるのを感じた。
「私の事、ご存知なんですか?」
驚きと少しの恥ずかしさで、声が震えた。
「泰雅さんがよく陽菜さんの話をしてくれるんです」
一ノ瀬さんの言葉に、嬉しいような恥ずかしいような気持ちが混じった。
泰雅さんが私のことを話してくれているなんて…。胸が温かくなって、自然と笑顔がこぼれた。
大和さんの声に、現実に引き戻された。
「えっと...」
あの日を境に見なくなったから、もう二度と現れないと思っていたんだけど、突然また店に訪れた。
そして、何かをする訳ではなく、遠くの席から私をずっと睨んでる。
怖いというより、不気味だ。
大和さんにはちゃんと伝えた方がいいと思って、前にあったことを全て話した。
「…ということがありまして、」
「お前なぁ、誰かにつけられてるって分かってたならその時点で俺に相談するべきだろ」
大和さんの声には、心配と少しの怒りが混じっていた。
「すみません、」
私は頭を下げた。
「何もされなかったんだよな?」
「はい。泰雅さんが助けてくれたので大丈夫でした」
その時のことを思い出すと、少し震えが走った。
泰雅さんが助けてくれなかったら…。
「良かった。てか、事情知らなかったからあいつ店に入れたけど、今からでも追い出そうか?というか、警察に通報した方が良さそうだけど?」
大和さんの提案に、私は少し戸惑った。
警察に通報したら、困るのは大和さんのはず。
「そんな事したらお客さんが減っちゃうじゃないですか。それに大袈裟にしたくないので通報はしなくて大丈夫ですよ」
店のことを考えると、警察に通報するのは気が引けた。
「店のことは気にするな。客一人減ろうが別に大したことじゃないから」
「睨まれてるだけで、特に何もされてないし大丈夫です」
自分に言い聞かせるように答えた。
「それでも、一人で帰すのは流石に心配だから、先輩に頼んで帰り迎えに来て貰ったら?」
大和さんの提案に、少し心が揺れた。
いやいや。甘えちゃダメだ。
「大丈夫です。忙しいのに、私のせいで迷惑かけたくないので」
昨日だって私のせいでろくに寝られなかったはずだから。
「いや、でも...あ、」
大和さんが何か言おうとしたその時、店のドアが開いた。
「陽菜」
泰雅さんの声に、私は驚いて顔を上げた。
「泰雅さん…!」
この時間に店に来ることは初めてだ。
隣にいる方は…誰だろう?
「初めまして。一ノ瀬秀哉です」
泰雅さんの隣に立つ男性が、丁寧に頭を下げた。
「は、初めまして。渡邉陽菜です」
私は少し緊張しながら自己紹介をした。
すごい。大人のオーラが漂ってくる。
彼の存在感に圧倒されそうだった。
「泰雅さんにこんな可愛い彼女がいたなんて」
一ノ瀬さんの言葉に、私は顔が赤くなるのを感じた。
「私の事、ご存知なんですか?」
驚きと少しの恥ずかしさで、声が震えた。
「泰雅さんがよく陽菜さんの話をしてくれるんです」
一ノ瀬さんの言葉に、嬉しいような恥ずかしいような気持ちが混じった。
泰雅さんが私のことを話してくれているなんて…。胸が温かくなって、自然と笑顔がこぼれた。
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