この見合いなんとしてでも阻止します

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第62話

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 私の問いかけに、蓮の表情が一瞬固まる。

 蓮の目が驚きと困惑で見開かれるのがわかる。

「…なんで、」

 蓮が静かに問い返す。

「え?」

 蓮が何を言おうとしているのか理解できず、混乱したまま問い続ける。

「なんで今聞くの」

 蓮の声には焦りと困惑が滲んでいる。

「それは、」

 ずっと後悔してたのに、同じ過ちを繰り返してることが許せなくて。

 今更なのは分かってるけど、ちゃんと蓮の気持ちを聞きたいと思った。

「俺が気持ちを伝えたい時は聞いてくれないくせに、どうして、なんで今なんだよ!」

 蓮の声が震えているのがわかる。

 その言葉が空気を切り裂くように響き、私達の間に緊張が走る。

 その瞬間、心臓が一瞬止まるような感覚が襲い、息をするのも苦しくなる。

 その場に漂う空気は、緊張感と不安に包まれていた。

「れ、蓮…?」

 蓮の苦しそうな表情に、私は動揺を隠せない。

 彼の声に込められた感情が私の心を揺さぶる。

 そこまで、溜め込んでいたとは思わなかった。

 私のせいで、今までずっと苦しい思いをしていたんだ。


 ___俺はいつまで我慢すればいいの


 前に蓮に言われた言葉。
 私はその問いに答えなかった。

 蓮が苦しんでいると分かっていながら。

「…っ、ごめん」

 その謝罪に、私の心はさらに痛む。
 蓮は謝らなくていい。

「ずっと嫌な思いさせてたんだね。本当に、ごめん」

 怒鳴りたくなるほど。

「そうじゃなくて、ただ…はぁ、」

 蓮が深いため息をついた。

「蓮?」

 蓮の本当の気持ちが知りたかった。

「俺は、なんて言えばいい?」

 蓮の目には、深い不安と迷いが浮かんでいた。

「え?」

 その意味がよく分からなかった。

「なんて言うのが正解なんだ?」

 どうしてそんなことを聞くの。
 正解なんて、ないのに、

 蓮の気持ちに正解も間違いもない。

「正解なんて、そんなの私が決めることじゃないよ」

 蓮は今何を思って、私に何を言わせようとしてるの?

「それじゃあ、俺がなんて言えば、由莉は俺のそばにいてくれるんだ?」

「どういうこと?」

 まるで私がいなくなるみたいな言い方して…

「俺との関係を片付けたらもう俺のそばから離れるつもりなんだろ?」

 蓮の声が震えているのがわかる。

 その不安と悲しみが伝わってきて、胸が締め付けられる。

「そんなわけないよ!」

 私は思わず声を荒げる。

 どうしてそんな風に思ったのかは分からないけど、とにかく今は誤解を解きたい。

 その不安を取り除きたい一心だった。

「本当に?」

 蓮の目が私を真っ直ぐに見つめてくる。

 その瞳には深い不安と期待が混じっているように感じた。

「うん。本当だよ」

 私は力強く答えた。

 この言葉に、蓮の心が少しでも軽くなればいいんだけど。


「…良かった」

 蓮の表情が少しだけ和らぐ。

 その安堵の表情に、私も少しだけホッとした。
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