この見合いなんとしてでも阻止します

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第59話

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 レストランを出た後、家に帰る気には全くなれなかった。

 歩きながら、私は近くのバーを見つける。

 ふとした衝動で、そのバーに入ることにした。

 バーのドアを押し開け、中に入ると、薄暗い照明と心地よい音楽が私を包み込む。

 店内の静かな雰囲気が、少しだけ心を落ち着ける。

 カウンターに腰を下ろし、バーテンダーに軽く頷いてメニューを手に取る。

 何か強いものが飲みたかった。

「ウィスキーをください」

 そう注文すると、バーテンダーが頷いてグラスを用意する。

 少しの間、無言のままその場に座っていた。

 頭の中ではまだ、璦との会話が繰り返されている。彼女の冷たい言葉が何度も何度も心を刺す。

 ウィスキーが運ばれてきて、私はそれを手に取り、一口飲む。

 強いアルコールが喉を焼く感覚が、少しだけ心を麻痺させる。

 しかし、それでも心の中の混乱は収まらない。

 彼女の冷淡さ、嘲笑、そして最後の一言。それらがすべて、私の胸に重くのしかかる。

 しばらくの間、無言のままグラスを見つめていると、ふと背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「心桜…?」

 振り返ると、そこには蓮が立っていた。

 彼もまた、驚いた表情で私を見つめている。

「蓮…。こんなところで会うなんてね、」

 蓮は苦笑しながら隣の席に腰を下ろす。

「今日は予定があるって言ったはずだけど、どうしてここに?」

 私だって、来るつもりなかったんだけどね。

「呑んでないとやってられないよ」

「由莉には似合わないセリフだな」

「そうかな」

 私は微笑みながら答えるが、その笑みはどこか空虚だ。

「由莉がお酒なんて。何かあったんだろ」

 彼の問いかけに、一瞬迷いが生じる。

 もう…気にしなくてもいいよね。

 蓮に話すことで少しでも心が軽くなるかもしれないと思い、私は口を開く。

「実は、璦とのことで…」

 彼にこれまでの出来事を話し始めると、蓮は真剣な表情で私の話を聞いてくれる。

 その姿に、少しだけ安心感を覚える。

「まぁ、本当の姉妹みたいに、なれないだろうなぁ。とは思ってたんだけどね。まさか、一度も姉と思ったことがなかったなんて」

 璦をあんなふうにしてしまった私達にも責任があると思う。

 あんなにわがままに育ってしまったのは、

 妹だからと甘やかしてしまった私と、妹だけを溺愛した両親のせい。

 戻れるなら…やり直したい。

「…もしかして、」
「ん?」

「いや、なんでもない。それより、大変だったな。でも、あまり飲み過ぎるなよ」

 蓮が優しく声をかけてくれる。

「ありがとう。でも、今日はちょっと飲みたい気分なの」

 私は決意を込めてそう言うと、蓮は微笑んで頷く。

「分かったよ」

 彼の言葉に少し安心し、またウィスキーを飲み始める。

 アルコールが体に染み渡り、次第に気持ちがほぐれていく
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