この見合いなんとしてでも阻止します

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第58話

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「その決断に後悔しない自信はあるの?」

 私の声には決意が込められている。

「ふっ。もちろんよ」

「あらそう」

 彼女の視線が冷たく私に注がれる。

 私は彼女から目を逸らさなかった。

「それじゃあ一日でも早く私の目の前から消えてよね」

 そう言うと彼女は立ち上がった。

 彼女が立ち去る姿を見送りながら、その言葉が頭に響き続ける。

 彼女の背中を見つめながら、心の中で冷たい決意が固まる。

 彼女が完全に見えなくなった後、私は俯いた。


 この感情は…


 悲しい…?

 悔しい…?

 憎い…?


 昔の私なら、どう感じただろうか…。

 そして、心の奥底から湧き上がる感情に突き動かされて、

「ふふふっ、あはははは…!」
と笑い出す。

 狂気にも似た笑いが自分の耳に響く。

 周りの客たちが私を不審そうに見ているのが分かるが、気にしなかった。

 私を姉だと認めない。
 そんなことは分かっていたけれど、期待していなかったわけではない。

 でも、良かった。

 これで心置き無く好きなようにできる。

 あの子が不幸になろうが、今の私には関係ない。

 私は椅子に座り続け、頭の中で過去の出来事を反芻する。

 彼女との楽しかった思い出、笑い合った瞬間、そして辛かった出来事。

 それらが次々と頭の中を駆け巡る。

 涙は流れず、むしろ清々しい気持ちが広がっていく。

 店内の音楽が変わり、新しい曲が流れ始めた。

 心地よいメロディが、少しだけ心を和らげてくれる。

 私は目を閉じ、その音楽に身を委ねた。

 心の中の嵐を鎮めるために、ただ音楽に集中する。

 しばらくして、私は目を開け、再び窓の外を見る。

 人々が忙しそうに行き交っているのを見て、少しだけ現実に引き戻される。

 みんな自分の家に帰っていくのだろうか。
 帰りたいと思える家が…あの人たちにはあるのだろうか。

 やがて、私はゆっくりと立ち上がり、会計をするためにレジに向かった。

 レジの前に立ち、財布を取り出す。

 店員が金額を告げると、その値段が思った以上に高くて驚く。

 声に出してしまいそうになったが、必死にこらえる。

 そりゃそうか。

 この店で一番高い料理とワインを頼んでいたものね。

 まぁ、新しい人生の幕開けにふさわしい額かも。

 そう微笑んで自分自身に言い聞かせる。

 レストランを出ると、外の冷たい風が頬に触れる。

 私はコートの襟を立て、歩き始める。

 心の中ではまだ嵐が吹き荒れているが、少しずつ前を向いて歩く決意が固まってきた。

 これからは、自分自身のために生きる。

 彼女の願望に縛られることなく、自分の人生を歩んでいく。

 そう心に誓いながら、私は新しい未来への一歩を踏み出した。
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