この見合いなんとしてでも阻止します

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第55話

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「代わりにお見合いさせられた時も、本当は許せないぐらい嫌だった。だけど、それでも心のどこかでは貴方のためだから仕方ないかって思う部分もあった。だから、引き受けた。今となってはそう思うの」

 じゃなかったら、初めから本当のことを社長に話していたはずだから。

 お父様に怒られてでも。

「それは、お父様が勝手に…。はぁ、私に恋人がいることを配慮してくれた事だけど、社長がイケメンなことを知っていたらそもそもあんたとお見合いなんてさせなかった」

 彼女の言葉が皮肉に満ちていて、私は反論したい気持ちを抑えるのが精一杯だ。

「社長と見合いをするためなら、彼氏と別れられたとでも?」

「そうね。医者だから付き合ったけど、最近マンネリ化してたのよ。だから、颯太社長に乗換えるために別れたわ」

 彼女の冷酷な告白に、私は一瞬言葉を失う。

 どうしてそんな風に簡単に人を切り捨てられるのか理解できない。

「どれだけ自分勝手なの。貴方のせいでどれだけ振り回されたか分かってる?」

 もちろん私だけじゃない。
 その元彼もだ。

 彼もまた彼女の手のひらの上で踊らされていたのだ。

 ある意味お父様も。あの人に関しては同情の余地は無いけど。

「振り回すだなんて、むしろお礼を言わないといけないんじゃない?」

「え?」

 彼女の言葉に驚き、瞬時に反応する。

 この子、今お礼を言えって言った…?
 ま、まさか。

 私の聞き間違いよね。

「少しでも幸せな時間を分けてもらえたんだから。私にお礼を言うべきよ」

 彼女の無神経さに呆れ果てる。

 こんな自己中心的な言い訳が通じるとでも思っているのか。

「何を訳の分からないことを。そんな言い訳が通用するとでも?」

「普通に考えてあんたなんかが、あの人の隣を歩けるわけないでしょ?」

 随分なめられたもんだ。

「どうして?私は葛城家の長女なのよ?その資格は十分にあると思うけど?」

 自分の誇りを守るために言葉を放つが、その自信が揺らいでいるのを感じる。

 本心ではなかったから。

 私なんかよりももっと社長にふさわしい人がいると思う。

 それは事実だったから。
 だけど、その相手は璦ではない。

「自惚れないで。あんたが私に勝ってるところなんてある?」

「私は、貴方より学がある」

 自分の唯一の優位性を主張するが、それが空虚に響く。

 この子とこんな争いをして何になるんだか。

「はぁ。だからあんたはダメなのよ。学?そんなの女には必要ない。いい?女に大事なのは愛嬌よ。つまらない男の話を嫌がらずに笑顔で聞ける女。機嫌を取れる女。かわいい女。それだけ」

 彼女の言葉に憤りを感じ、これ以上の議論は無意味だと悟る。


「呆れてものも言えないわ…」



 この子とまともに話そうとした私が馬鹿だったんだろうか。

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