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第53話
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「あんたのことなんてどうでもいいから好きにすればいいけど」
璦の冷たい言葉に、私は少しだけ心が痛んだ。
でも、もう決めたことだ。
「えぇ。好きにさせてもらうわ」
私が私らしく生きていくために。
「縁が切れたら、もう私達も姉妹じゃなくなるわね」
「そうね」
彼女の言葉に動揺しないように努めた。
「ふふっ。私がこの日をどれだけ夢見たか分かる?」
璦の笑みに、私は少しだけ苛立ちを覚えた。
「分からないわ」
これが現実か。
「私が頼めば何でも言う通りにしてくれるから便利ではあったけど、あんたみたいな出来損ないが、私の姉だなんて知られるのが恥ずかしかったのよ」
璦の言葉に、私は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「…そう、」
でも、表情には出さない。
「今日は嬉しい話をどうもありがとう」
璦はそう言って席を立とうとした。
「待って、まだ話は終わってないわ」
私は彼女を引き止めた。
家を出る話もそうだけど、話したいことは他にあった。
私達、二人の話だ。
「あら、まだあるの?」
私と縁を切れるのがよほど嬉しかったのか、大人しく席に座った。
「私は今まで、家族に蔑ろにされても我慢して生きてきた」
貴方が羨ましいと何度も思った。
「あんたより私の方が何千倍も可愛いんだか仕方ないでしょ?」
私も、これだけ自己肯定感が高かったら、
なにか変わっていただろうか。
「我慢できたのはなんでか分かる?」
「知らないわよそんなの」
そうだよね。
そうだと思った。
「私も貴方のことが好きだったからよ」
私は静かに、真剣な目で彼女を見つめながら言った。
「は、何よそれ」
「貴方のことが好きだったから、何を言われても、何をされても、我慢できた」
私が我慢することで、貴方が笑顔になれるなら。
私が犠牲になることで、貴方が幸せになれるなら。
それでいいと思ってた。そう思えた。
「たとえあんたが文句を言ってたとしても、現実は何も変わらなかったわよ。愛想のひとつも出来ないで、反論ばっかりして嫌われることをしてたのはあんたでしょ」
確かに現実は変わらなかったかもしれない。
だけど、今よりはもっとマシな人生だったと思う。
「貴方がお父様の書類にコーヒーをこぼした時も、お母様のお気に入りの花瓶を割った時も、私が代わりに怒られた。貴方を庇って。それも一度や二度じゃなかった」
貴方が、お姉ちゃんが割ったことにして欲しいって頼んできたから。
「それぐらい、私だったら笑って許してもらえてた。あんたが勝手に怒られただけじゃない。人のせいにしないで」
怒られるのが嫌で私に頼んだくせに。
「貴方が私を閉じ込めた時、貴方の本当の気持ちを知って、今までどうしてこんな子を好きだったんだろうって後悔した」
忘れたくても忘れられない。
あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。
「あんたが閉じ込められるようなことをしたからでしょ?」
私は深く息をつき、心を落ち着けようとした。
ここで感情的になってはいけない。
璦の冷たい言葉に、私は少しだけ心が痛んだ。
でも、もう決めたことだ。
「えぇ。好きにさせてもらうわ」
私が私らしく生きていくために。
「縁が切れたら、もう私達も姉妹じゃなくなるわね」
「そうね」
彼女の言葉に動揺しないように努めた。
「ふふっ。私がこの日をどれだけ夢見たか分かる?」
璦の笑みに、私は少しだけ苛立ちを覚えた。
「分からないわ」
これが現実か。
「私が頼めば何でも言う通りにしてくれるから便利ではあったけど、あんたみたいな出来損ないが、私の姉だなんて知られるのが恥ずかしかったのよ」
璦の言葉に、私は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「…そう、」
でも、表情には出さない。
「今日は嬉しい話をどうもありがとう」
璦はそう言って席を立とうとした。
「待って、まだ話は終わってないわ」
私は彼女を引き止めた。
家を出る話もそうだけど、話したいことは他にあった。
私達、二人の話だ。
「あら、まだあるの?」
私と縁を切れるのがよほど嬉しかったのか、大人しく席に座った。
「私は今まで、家族に蔑ろにされても我慢して生きてきた」
貴方が羨ましいと何度も思った。
「あんたより私の方が何千倍も可愛いんだか仕方ないでしょ?」
私も、これだけ自己肯定感が高かったら、
なにか変わっていただろうか。
「我慢できたのはなんでか分かる?」
「知らないわよそんなの」
そうだよね。
そうだと思った。
「私も貴方のことが好きだったからよ」
私は静かに、真剣な目で彼女を見つめながら言った。
「は、何よそれ」
「貴方のことが好きだったから、何を言われても、何をされても、我慢できた」
私が我慢することで、貴方が笑顔になれるなら。
私が犠牲になることで、貴方が幸せになれるなら。
それでいいと思ってた。そう思えた。
「たとえあんたが文句を言ってたとしても、現実は何も変わらなかったわよ。愛想のひとつも出来ないで、反論ばっかりして嫌われることをしてたのはあんたでしょ」
確かに現実は変わらなかったかもしれない。
だけど、今よりはもっとマシな人生だったと思う。
「貴方がお父様の書類にコーヒーをこぼした時も、お母様のお気に入りの花瓶を割った時も、私が代わりに怒られた。貴方を庇って。それも一度や二度じゃなかった」
貴方が、お姉ちゃんが割ったことにして欲しいって頼んできたから。
「それぐらい、私だったら笑って許してもらえてた。あんたが勝手に怒られただけじゃない。人のせいにしないで」
怒られるのが嫌で私に頼んだくせに。
「貴方が私を閉じ込めた時、貴方の本当の気持ちを知って、今までどうしてこんな子を好きだったんだろうって後悔した」
忘れたくても忘れられない。
あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。
「あんたが閉じ込められるようなことをしたからでしょ?」
私は深く息をつき、心を落ち着けようとした。
ここで感情的になってはいけない。
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