この見合いなんとしてでも阻止します

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第52話

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「それで、話って?」

 ついに、話す時が来た。

 私はワインを一口飲んだ。

 いっそのことワインボトルを丸々空けてしまおうか。

 なんて考えたりもしたけど、酔ってする話でもなかった。

 ほろ酔いぐらいがちょうどいい。

「私、あの家を出ることにしたの」

 私は彼女の反応を見守りながら、心の中で決意を固めた。

 これが私の新しい一歩だ。

「は…?あんたそれ、分かって言ってる?そんなことしたら、」

 彼女が私の決意を理解するのは難しいだろう。

「分かってる。嫁がない限り、あの家から出ることは許されない」

 昔からのしきたりだった。

 私はそれが納得できなかった。

 実家から出て一人暮らしをする方が、世間のことを知れてよっぽどいいと思った。

 一度だけ、一人暮らしをしたいと言ったことがあった。

 お父様はただ、それならどこかの名家と結婚するか、縁を切れと静かに言うだけだった。

「それが分かっているならどうして」

 これ以上彼女に振り回されるわけにはいかないから。

「そんなの関係ない。勘当されようと、私には元々何も無かったんだから怖いものなんてないわよ」

 自分に言い聞かせるように、強い口調で言い放つ。

 自分の決意を揺るがせるわけにはいかない。

「あんた、ついに頭がおかしくなったのね」

 璦の言葉に、私は少しだけ笑みを浮かべた。
 彼女が私を理解できないのは当然だ。

「そうかもね。古いしきたりとか、規則とかもううんざりなの。どうでもいい」

 私は冷静に言った。

「お父様にはもう言ったの?」
「まだ。今週末には伝えるつもり」

 お父様は基本日曜日は家にいるから、その時に伝えよと思ってる。

 お父様がどう反応するのか分からない。

 ただ、勝手にすればいいと突き放すのか、激怒するのか、あっさりと承認するのか。

「あんなにいい場所ないのに。私はむしろ出て行きたくない」

 璦の言葉に、私は内心でため息をついた。
 彼女には私の気持ちが分からないのだろう。

「…貴方は、そうでしょうね」

 私の分まで可愛がられて育ってきたあんたには、私の気持ちなんて分からないわよ。

 分かってもらいたくもない。

「何もないって言ったけど、縁を切ったら地位とか名誉とか全部失うのよ?分かってる?」

 璦の言葉に、心の中で苦笑する。
 地位や名誉なんて、私には関係ない。

「いつあった?」

 私は冷静に問い返した。

「は…?」

 彼女が私の言葉にどう反応するか見守った。

「私に、地位と名誉はいつあった?高校も大学も、今の会社に就職したのも、全部私が努力した結果。私の実力で生きてきた。手放したって痛くも痒くもない」

 長女を敬わない妹。

 それに何も言わないどころか私のことをぞんざいに扱う両親。



 それを見て周りの人達はコソコソ陰口を言う。



 私は血の繋がった家族じゃないんだと。

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